banner 汽車客車客車客車客車客車客車客車客車客車客車
 旅の友「駅弁」。実際に食べた駅弁を中心に、日本全国と世界の駅弁を紹介します。

駅弁の立ち売りについて

四角い木箱に駅弁を山積みして、列車のお客さんを相手にホーム上で販売する、駅弁の立ち売り。駅弁の販売形態の原点でありながら、最近はほとんど見ることがなくなりました。

駅弁を立ち売りする駅については、当館への問合せが多いため、現地などでの調査と談話室(掲示板)に来られた方々のご協力で、2002(平成14)年12月時点での駅弁立売駅をまとめました。以後、現地訪問や談話室への情報提供などを基に、内容の更新を続けています。

なお、当館では、駅弁立売の定義を「何らかの販売用容器に駅弁を収め、売り子がその容器を持ち上げて駅のホーム上に立ち、その状態を保持したままホーム上を移動し、駅弁と代金を交換する形で販売する形態」としています。例えば、販売用容器がスーパーの買い物かごであっても駅弁立売と見なし、逆に鉄道省時代の公式な駅弁販売用容器を使用していても、脚立などに置いたままの販売では、駅弁立売と見なしていません。

→台湾の駅弁立売情報へ

駅弁立売駅

日本国内で定期的に駅弁の立ち売りが実施されている駅は、当館の情報では2021年3月現在で6駅(うち1駅は休止中)を確認しています。

北海道 JR函館本線 森駅※2020年9月現在

森駅駅弁立売

夏の観光シーズンに限り、ホーム上で「いかめし」の立ち売りがあるそうです。髪を染めて服装の乱れた若者のだらしない販売風景が見苦しいとの報告がいくつもあり、見た目の評判は芳しくなさそうですが、一方で欧米を除く諸国の駅での物売りを思わせる、日本離れした販売形態と見ることができるかもしれません。なお、政府の新型コロナウイルス感染症対策を受けて、2020(令和2)年以降は夏季の立ち売りを実施していない可能性があります。


千葉県 いすみ鉄道 国吉駅※2021年3月現在

国吉駅弁立売

土日曜日の日中に、列車の発着に合わせて、「いすみのたこめし」などを立ち売りで販売することがあるようです。車両型のクッションをかぶった立売人がホームや列車内を練り歩く、町おこし、駅おこしタイプの駅弁立売です。


新潟県 えちごトキめき鉄道 直江津駅※2021年3月現在

2016(平成28)年4月から主に土休日に運行される、えちごトキめき鉄道の観光列車「えちごトキめきリゾート雪月花」の停車時間(主に土休日の12時半頃)に限り、上越妙高駅弁(直江津駅弁)の立ち売りが実施されているそうです。


島根県 JR木次線 亀嵩駅※2020年11月現在

亀嵩駅弁立売

JR木次線(きすきせん)で主に4〜11月の金土休日に運行される、観光客向けのトロッコ列車「奥出雲おろち号」の乗客に対して、ホーム上で「亀嵩駅の手打そば」を、立ち売りで販売することがあるようです。トロッコ列車が停車する出雲八代駅、八川駅、出雲坂根駅でも、立ち売りから弁当や甘味を買えたという報告があります。


福岡県 JR鹿児島本線 折尾駅※2021年3月現在

折尾駅弁立売

大正時代から駅弁が売られる折尾駅では、駅弁業者の方針として、駅弁の立ち売りが残されています。高架化で真新しい鹿児島本線上り4・5番ホームで、日中に「かしわめし」などの駅弁を立ち売りで販売することがあります。歌うユニークな立売人は、北九州市の観光資源にもなっています。


熊本県 JR肥薩線 人吉駅※2020年7月現在 ※休止中

人吉駅弁立売

戦前昭和から駅弁が売られる人吉駅では、日中の観光列車の発着に合わせて、「鮎ずし」「栗めし」などの駅弁を立ち売りで販売することがあります。この駅で50年以上凜々しく駅弁を立ち売りする立売人は、テレビや雑誌などでよく紹介されています。2020(令和2)年7月の豪雨により、人吉駅に発着するすべての路線が運休中のため、以後は駅弁の立ち売りは行われていません。


駅弁立売をしていない駅

日本国内で駅弁の立ち売りを休止していたり、できそうでしていなかったり、駅弁以外の商品を立ち売りする駅は、当館の情報では2020年4月現在で4駅を確認しています。

福島県 JR常磐線 原ノ町駅※2020年4月現在

原ノ町駅弁立売

主にお昼時の列車の発着に合わせて、ホーム上で「浜のかにめし」などを立ち売りで販売していました。しかし2011年3月の東日本大震災以降、原ノ町駅では駅弁の販売が休止されており、立ち売りも出ていません。


新潟県 JR信越本線 新津駅※2019年11月現在

新津駅

観光列車「SLばんえつ物語」の発車に合わせて、ホーム上でかつての駅弁立売容器を使い、駅弁を販売することがあります。この容器を持ち上げれば立派な立ち売りとなりますが、雑誌の写真を除いて目撃例がないようです。


山形県 JR奥羽本線 峠駅※2020年4月現在

峠駅立売

日中は普通列車の発着に合わせて、ホーム上で「峠の力餅」を立ち売りで販売しています。商品が弁当でないため、駅弁の立ち売りではありませんが、明治時代から続く貴重な光景であることに違いはありません。


兵庫県 JR山陽本線 姫路駅※2018年9月現在

JRグループの観光キャンペーン「山陰デスティネーションキャンペーン」の実施に合わせて、2018(平成30)年9月21日に運転された京都駅発出雲市駅行寝台特急「サンライズ出雲93号」の姫路駅の停車時間に合わせ、駅弁の立ち売りが実施されました。

駅弁立売がなくなった駅

おおむね2000(平成12)年頃に駅弁の立ち売りが定期的に実施されていた、または実施されているという情報があったものの、現在は実施されなくなったことが確認された駅は、当館では2021年3月現在で15駅を確認しています。

北海道 JR宗谷本線 稚内駅

夜行列車を除く特急列車の発車前に、ホーム上で駅弁が立ち売りされていました。稚内駅弁は当時、この立売人ひとりで駅弁を製造し販売していました。その方が2004(平成16)年1月10日に亡くなり、駅弁も立ち売りも消えました。今は別の名前の業者の駅弁が、駅の隣の再開発ビルで売られています。

北海道 JR根室本線 厚岸駅

「かきめし」が有名な駅。2000年代にもテレビ番組や観光シーズンやイベント列車運行時などで、立ち売りの目撃報告がいくつかありました。2006(平成18)年9月発売のムック「駅弁万歳!」に、理由は不詳ですが立ち売りができなくなった旨の記述があり、今後に駅弁の立ち売りが実施されることはなさそうです。

北海道 JR富良野線 上富良野駅

上富良野駅駅弁立売

2008(平成20)年6月7日から、JR富良野線の観光列車「ノロッコ号」の運転日に限り、地元のパン屋さんが作った駅弁4種を立ち売りでのみ販売しています。駅弁の販売日つまり観光列車の運転日はおおむね、6月から8月までの毎日と、10月上旬までの土休日です。しかし2010(平成22)年度からはどうも実施されていないようです。


北海道 JR室蘭本線 登別駅

2000年代にも多客期やハイシーズンに限り、駅弁の立ち売りがあったそうです。談話室では2003(平成15)年と2004(平成16)年の8月に目撃報告がありました。しかし2004(平成16)年9月限りで調製元が駅弁から撤退し、駅弁は立ち売りごと消えました。

北海道 JR函館本線 長万部駅

「かにめし」が有名な駅。2000年前後にも駅弁の立ち売りを行っていたようですが、2006(平成18)年9月発売のムック「駅弁万歳!」に、立ち売りが思い出話になった旨の記述があり、今後に駅弁の立ち売りが実施されることはなさそうです。

北海道 JR函館本線 函館駅

函館駅弁立売

この駅ではまれに、かつ突発的に、駅弁の立ち売りが行われていました。近年では2010(平成22)年のSL列車「SL函館大沼号」運転日や、2014(平成26)年のゴールデンウィークに、ホーム上で駅弁の立ち売りが行われました。その後は駅弁の立ち売りは、実施されていないようです。


山形県 JR羽越本線 酒田駅

酒田駅弁立売

2002(平成14)年の末頃現在で「鳥海釜飯」「ササニシキ弁当」「きらきらうえつ弁当」の3種類を、主に新潟方面行の特急列車の発着時刻に合わせて、立売で販売していました。しかし2005(平成17)年の秋頃の駅弁業者の撤退により、立ち売りは駅弁ごと失われたようです。


福島県 JR常磐線 いわき駅

いわき駅

2000年代も特急列車の発車時に限り、ホーム上の仙台寄り階段付近で駅弁の立ち売りがあったそうです。しかし2005(平成17)年5月限りで、駅前整備事業により調製元が廃業したため、駅弁が立ち売りごと消えました。今は他社の駅弁が売店で売られています。


栃木県 JR東北本線 宇都宮駅

2004(平成16)年頃までほぼ毎日、朝7時半頃から14時過ぎ頃まで、東北本線のホーム上に2社の駅弁立売が出ていました。しかし1社は2008(平成20)年に駅弁から撤退、1社は最後の駅弁立売人が2006(平成18)年頃までに引退されたようで、以後は駅弁の立ち売りが目撃されていません。

栃木県 東武鉄道 下今市駅

下今市駅弁立売

昼飯時の限られた時間帯に、右の写真のようにホーム上で「幕の内弁当」「山菜おこわ」などを販売していました。金曜定休。駅弁立売人が2015(平成27)年8月に引退し、以後は駅の売店で駅弁が売られます。


群馬県 JR上越線 新前橋駅

新前橋駅弁立売

この駅で特急列車の分割や併合があるときに限り、右の写真のようにホーム上で「だるま弁当」をスーパーのかごで立ち売りしていました。しかし2004(平成16)年までにホーム上の売店ごと駅弁販売がなくなったそうで、立ち売りも同時に消えたようです。


岐阜県 JR高山本線 美濃太田駅

美濃太田駅弁立売

右の写真のように、ホーム上で「松茸の釜飯」の立売が見られることがありました。日中の高山方面または多治見方面の列車の到着時には、立ち売りで駅弁を購入できる確率が高いようでした。調製元の営業終了により、2019(令和元)年5月限りで立ち売りは駅弁ごと失われました。


熊本県 JR鹿児島本線 八代駅

八代駅弁立売

2000(平成12)年3月から、駅弁での街おこしを目的に、月曜を除く11〜13時頃に、右の写真のように鹿児島本線上りホームで「がらっぱ弁当」を立ち売りしていました。カッパに扮装したおじさんが販売するユニークな形態は、静かに知名度を上げつつありました。しかし2004(平成16)年3月の九州新幹線の部分開業の後に、駅弁の立ち売りが目撃されていません。


大分県 JR日豊本線 別府駅

大分県の食品製造販売業者が大分の名物発信をと、駅のホーム上での立ち売りをJRなどと数年間交渉し、2006(平成18)年9月23日に別府駅で駅弁の立ち売りが実現し、「とり天弁当」などの商品が売られました。しかし2008(平成20)年までに販売を終えたようです。

鹿児島県 JR肥薩線 吉松駅

吉松駅駅弁立売

2000(平成12)年3月のダイヤ改正による急行「えびの」の廃止を前に、1999(平成11)年に取り止められた、ホーム上での売店の営業と駅弁の立ち売りが、2004(平成16)年3月の九州新幹線の部分開業に合わせた、観光客向けの臨時特急列車「はやとの風」(鹿児島中央駅〜吉松駅)の運行開始に伴い復活しました。駅弁は幕の内弁当1種類。毎日ではなかったようですが、お茶とビールも立ち売りし、酒類を買える全国最後の駅弁立ち売りでした。駅弁屋の閉店により、2018(平成30)年9月限りで終売。


東京都「台場電鉄 昭和駅」

台場電鉄昭和駅

この駅は実在せず、東京都の臨海副都心の商業施設「デックス東京ビーチ」4階の商業フロア「台場一丁目商店街」にある仮想の駅。2002(平成14)年12月時点で、かつて福島県の常磐線平駅(1994(平成6)年12月からいわき駅)で駅弁の立ち売りに使われた販売容器を用いて、昭和時代風の駅弁3種類を立ち売りしていました。2008(平成20)年に再訪すると、商業施設は盛業中でしたが、駅弁や立売は跡形もなく消えていました。


コラム・駅弁の立ち売りがなくなる理由

かつては駅で弁当を売る標準の形態であった立ち売りが、今ではほとんど見られなくなった理由は、採算上の問題と考えられます。かつてはひとりの立売人が駅で一日に1,000個の駅弁を売ったという時代がありましたが、今では十数個が精一杯のようです。これでは立売人の人件費も賄えません。

1960年代または昭和30年代の日本国有鉄道(国鉄)では、空調を完備し窓の開かない特別急行列車を全国へ展開して増発し、動力近代化として蒸気機関車を電気動力やディーゼル動力の車両へ置き換えて駅の停車時間を短くしました。そのため、汽車が主な駅や機関区のある駅でしばらく停車して、旅客が車窓越しに駅弁を買い求めるという光景が、急速に失われ始めました。

それから10年も時が下ると、新幹線と特急の時代になり、移動時間が、列車に乗って過ごす時間が短くなり、道中で弁当を買い求める機会そのものを減らしました。航空や自動車の普及で鉄道から客が転移し、列車に長く乗って移動する旅客も減らしました。駅弁屋そのものが1960年代以降、昭和40年代以降、年々減少するようになりました。

この頃の高度経済成長により、労働者の待遇が改善され、一方で人件費が増大したり、きつい仕事、重荷を担いでホーム上を走り回ったり、揺れる車内で動き回るような業務が敬遠されるようになりました。国鉄の在来線では、食堂車やビュフェの営業や駅弁の立ち売りの休廃止が進みました。新幹線では1964(昭和39)年10月の開業時から、ホーム上での立ち売りが禁止されています。

1980年代、昭和50年代になると、コンビニエンスストアや持ち帰り弁当チェーン店の普及、その他外食産業の発展により、駅弁の顧客が駅の利用者や鉄道の旅客に限られるようになりました。それまでは駅に行けば、団体で押し掛けても弁当が買える、弁当が毎日買える、駅によっては24時間買えると、鉄道を使わないのに駅弁を買う客が少なくなかったようです。時代がもう10年下ると、国鉄の赤字や合理化や職員の余剰人員対策から、国鉄の分割民営化による民業圧迫の制約の解消で、駅構内に飲食店が乱立するようになり、駅の中からもライバルが出てきました。

こうして駅弁は厳しくなり、立ち売りはもっと厳しくなりました。駅弁の販売は、例えば航空の機内食に相当するような鉄道の付帯サービスではなく、それ自体で独立採算を求められます。もはや駅弁の立ち売りは、観光の振興や文化の保存などを目的にした慈善事業と言えるでしょう。

ここに、著名な観光地を抱える駅などで、商売というよりはむしろイベントとして、駅弁の立ち売りを実施することが考えられます。しかしこんどは、以前は考えられなかったほどに厳しくなった安全への配慮が、それを阻むことがあります。かつてのように、列車が発車しても立売人がホームを走りながら、車窓越しに金銭と弁当を交換するなど、もはや論外です。イベントで企画された駅弁販売のプロによる立ち売りが、鉄道会社の難色で、特にJR各社の反対で、実現できなかったケースが度々起きているようです。しかし事故が起きれば以前と違い、駅弁の立ち売りはそこで命脈を絶たれるでしょう。

21世紀に辛うじて生き残った駅弁の立ち売りは、過去帳入りへのカウントダウンが続いています。