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 旅の友「駅弁」。実際に食べた9,000個以上の駅弁を中心に、日本全国と世界の駅弁を紹介します。

駅弁の立ち売りについて Station Ekiben Vendor in Japan

四角い木箱に駅弁を山積みして、列車のお客さんを相手にホーム上で販売する、駅弁の立ち売り。駅弁の販売形態の原点でありながら、最近はほとんど見ることがなくなりました。

駅弁を立ち売りする駅については、当館への問合せが多いため、現地などでの調査と談話室(掲示板)に来られた方々のご協力で、2002(平成14)年12月時点での駅弁立売駅をまとめました。以後、現地への訪問や雑誌等での紹介記事などにより、不定期で内容の更新を続けています。

当館では、駅弁立売の定義を「何らかの販売用容器に駅弁を収め、売り子がその容器を持ち上げて駅のホーム上に立ち、その状態を保持したままホーム上を移動し、駅弁と代金を交換する形で販売する形態」としました。例えば、販売用の容器がスーパーの買い物かごであっても駅弁立売と見なし、逆に明治時代の国営鉄道の時代からの公式な駅弁販売用の容器を使用していても、脚立などに置いたままの販売では、駅弁立売と見なしていません。

→台湾の駅弁立売情報(2006年)へ

駅弁立売駅 Ekiben Vendor Stations in Japan

日本国内で定期的に駅弁の立ち売りが実施される駅は、当館では2023年10月現在で4駅と考えています。

千葉県 いすみ鉄道 国吉(くによし)駅※2022年10月訪問

国吉駅弁立売

国吉駅では土日曜日の日中に、列車の発着に合わせて、「いすみのたこめし」などの弁当や菓子が、ホーム上で立ち売りにて売られることがあります。いすみ鉄道の廃線問題を機に、2009年に設立されたボランティア団体「いすみ鉄道応援団」が、2014年5月の土休日に駅弁と立ち売りを実施、同年10月から継続されているもの。車両型のクッションをかぶった立売人がホーム上や停車中の列車内を練り歩く、町おこし、駅おこしタイプの駅弁立売です。


新潟県 えちごトキめき鉄道 直江津(なおえつ)駅※2022年4月現在

直江津駅では、土休日の11時頃から15時頃までに、「雪月花(せつげっか)」などの観光列車が発着する場合、「鱈めし」などの駅弁が、ホーム上で立ち売りにて売られることがあります。2016(平成28)年4月のえちごトキめき鉄道の観光列車「えちごトキめきリゾート雪月花」の運行開始とともに、1901年から直江津駅で駅弁を売るホテルハイマートによる、駅弁の立ち売りが復活しました。


島根県 JR木次線 亀嵩(かめだけ)駅※2023年4月現在

亀嵩駅弁立売

亀嵩駅では、主に4月から11月までの金土休日に運行される、観光客向けのトロッコ列車「奥出雲おろち号」の停車時に、「亀嵩駅の手打そば」が、ホーム上で立ち売りにて売られることがあります。トロッコ列車が停車する出雲八代駅、八川駅、出雲坂根駅でも、立ち売りから弁当や甘味を買えたという報告があります。なお、「奥出雲おろち号」は車両の老朽化により、2023年11月限りで廃止の予定。後継の観光列車「あめつち」はトロッコ列車でなく、物をやり取りできるような窓がありません。


福岡県 JR鹿児島本線 折尾(おりお)駅※2023年10月現在

折尾駅では、水木曜日を除く9時15分から13時までと14時から16時45分までの間、「かしわめし」などの駅弁が、鹿児島本線上り4・5番ホーム上や改札内コンコースで、立ち売りにて売られます。1921年から折尾駅などで駅弁を売る東筑軒(とうちくけん)の方針として、駅弁の立ち売りが残されています。舞い歌うユニークな立売人は、福岡県北九州市の観光資源にもなっています。


駅弁を立ち売りするかもしれない駅 

日本国内で駅弁の立ち売りを休止していたり、できそうでしていなかったり、駅弁以外の商品を立ち売りする駅は、当館の情報では2023年10月現在で7駅を確認しています。

北海道 JR函館本線 森(もり)駅※2023年10月現在

森駅弁立売

森駅では夏の観光シーズンに限り、森駅と日本を代表する有名な駅弁「いかめし」の、ホーム上での立ち売りがあるそうです。しかし2020年からの新型コロナウイルス感染症の世界的流行による、政府の新型コロナウイルス感染症対策を受けて、同年からは駅弁の立ち売りが出ていないようです。


山形県 JR奥羽本線 峠(とうげ)駅※2022年9月訪問

峠駅立売

峠駅では、8時台から18時台までの列車の発着に合わせて、「峠の力餅」が、ホーム上でホーム上で立ち売りにて売られます。1901年からの構内営業者である峠の茶屋が、一世紀以上この駅での立ち売りでの販売を続ける鉄道銘菓。商品が弁当でないため、駅弁の立ち売りではありませんが、貴重な光景であることに違いはありません。


東京都 JR青梅線 青梅(おうめ)駅2023年10月訪問

青梅駅では2023(令和5)年9月30日から11月26日までの土休日、8時から10時までホーム上で「アド弁」を立ち売り。JR東日本八王子支社の駅社員などの企画で、昭和レトロ「青梅駅」で昔懐かしいホームでの駅弁立ち売りが甦りました。


新潟県 JR信越本線 新津(にいつ)駅※2019年11月現在

新津駅

新津駅では、主に4月から11月までの土休日に運行される観光客向けSL列車「SLばんえつ物語」の、会津若松駅行き列車の発車前の9時過ぎから、駅弁がホーム上で売られます。かつて駅弁を立ち売りした木箱に駅弁を収めて、脚か台に載せて販売。この箱を持ち上げて駅弁を売れば、駅弁の立ち売りとなりますが、雑誌に掲載された写真を除き、目撃例がないようです。なお、ウェブ上の記事や調製元公式サイトでは、売り子が立って駅弁を売ることをもって、駅弁の立ち売りと表現しています。


三重県 JR紀勢本線 松阪(まつさか)駅※2022年4月現在

松阪駅や多気(たき)駅ではごくまれに、イベントとして駅弁の立ち売りが行われることがあります。例えば紀勢本線の全通と松阪駅弁「元祖牛肉弁当」の50周年を記念して、2009(平成21)年7月15日に駅弁屋の新竹商店が松阪駅4番ホームで、亀山駅発白浜駅行の臨時列車「紀勢本線全通50周年記念号」の停車時間に、着ぐるみと立売人による駅弁の立ち売りを実施しました。


滋賀県 JR東海道新幹線 米原(まいばら)駅※2023年10月現在

米原駅では2022(令和4)年10月8日から10日まで、米原駅弁「湖北のおはなし」とポリ容器入りのお茶が、新幹線ホーム上で立ち売りされました。2020年からの新型コロナウイルス感染症の世界的流行により駅の利用者や列車の本数が減少する中、JR東海の米原駅員が企画し、米原駅の駅弁屋である井筒屋が協力しました。以後も同年12月や、翌2023年の春や秋という具合に、まれに立ち売りが出るようです。


兵庫県 JR山陽本線 姫路駅※2022年4月現在

姫路駅ではイベントとして、駅弁の立ち売りが行われることがあります。例えばJRグループの観光キャンペーン「山陰デスティネーションキャンペーン」の実施に合わせて、2018(平成30)年9月21日に運転された京都駅発出雲市駅行の寝台特急列車「サンライズ出雲93号」の姫路駅の停車時間に合わせ、姫路駅弁のまねき食品による駅弁の立ち売りが実施されました。


駅弁立売がなくなった駅

おおむね2000(平成12)年以降に、駅弁の立ち売りが定期的に実施されたか、実施の情報が雑誌などで紹介され、現在は実施されていない駅は、当館では2023年10月現在で18駅を確認しています。

北海道 JR宗谷本線 稚内(わっかない)駅

稚内駅では2000年代にも、夜行列車を除く特急列車の発車前に、ホーム上で駅弁が立ち売りされていました。列車がホームに着き改札が始まると、駅弁屋のサンエイ商事のおじいさんが、「さいほくかにめし」などの駅弁を、ホーム上で立ち売りしました。稚内駅の駅弁は当時、この立売人がひとりで調製し販売していました。その方が2004(平成16)年1月10日に亡くなり、立ち売りは駅弁ごと失われました。その後は別の名前の業者の駅弁が、駅の隣の再開発ビルで売られています。


北海道 JR根室本線 厚岸(あっけし)駅

厚岸駅では2000年代にも、厚岸駅と北海道を代表する有名な駅弁「かきめし」が立ち売りで販売され、目撃例や雑誌などでの紹介例がありました。2006(平成18)年9月発売のムック「駅弁万歳!」に、理由は不詳ですが立ち売りができなくなった旨の記述があり、今後に駅弁の立ち売りが実施されることはなさそうです。


北海道 JR富良野線 上富良野(かみふらの)駅

上富良野駅の駅弁立売

上富良野駅では2008(平成20)年6月7日から、JR富良野線の観光列車「ノロッコ号」の運転日に限り、松屋製パンが「かみふらのポーク豚丼」など4種類の弁当を、立ち売りで販売し始めました。駅弁の販売日は観光列車の運転日で、おおむね6月から8月までの毎日と、10月上旬までの土休日でした。2010(平成22)年からは実施されていません。


北海道 JR室蘭本線 登別(のぼりべつ)駅

登別駅では2000年代にも、多客期やハイシーズンに限り、駅弁の立ち売りがあったそうです。目撃例もありました。しかし駅弁屋の登別駅構内立売商会が2004(平成16)年9月限りで駅弁から撤退したため、立ち売りは駅弁ごと失われました。


北海道 JR函館本線 長万部(おしゃまんべ)駅

長万部駅では2000年代にも、有名な駅弁「かにめし」が、ホーム上での立ち売りで売られました。昭和30年代頃までは、毛がにの丸ゆでの立ち売りでも知られました。2006(平成18)年9月発売のムック「駅弁万歳!」に、立ち売りが思い出話になった旨の記述があり、今後に駅弁の立ち売りが実施されることはなさそうです。


北海道 JR函館本線 函館(はこだて)駅

函館駅弁立売

函館駅では2000年代にもまれに、かつ突発的に、駅弁の立ち売りが行われていました。近年では2010(平成22)年のSL列車「SL函館大沼号」運転日や、2014(平成26)年のゴールデンウィークに、ホーム上での駅弁の立ち売りが行われました。その後は駅弁の立ち売りは、実施されていないようです。


山形県 JR羽越本線 酒田(さかた)駅

酒田駅弁立売

酒田駅では2000年代にも、主に新潟方面行の特急列車の発着に合わせて、ホーム上で「鳥海釜めし」「ササニシキ弁当」「きらきらうえつ弁当」の3種類の駅弁が、立ち売りで売られました。しかし駅弁屋の酒田弁当販売が2005(平成17)年の秋頃に駅弁から撤退したため、立ち売りは駅弁ごと失われました。


福島県 JR常磐線 原ノ町(はらのまち)駅

原ノ町駅弁立売

原ノ町駅では2000年代にも、主にお昼時の列車の発着に合わせて、ホーム上で「浜のかにめし」などの駅弁が、立ち売りで売られました。しかし2011(平成23)年3月の東日本大震災で、原ノ町駅では列車の運行や駅弁の販売を休止、後に鉄道の運行が再開されても、駅弁屋の丸屋が駅前でホテルを再建しても、駅弁の販売や立ち売りは再開されませんでした。


福島県 JR常磐線 いわき駅

いわき駅

いわき駅では2000年代も、特急列車の発車時に限り、ホーム上の仙台寄り階段付近で、駅弁の立ち売りがあったそうです。しかし駅弁屋の住吉屋が駅前整備事業により2005(平成17)年5月限りで廃業したため、立ち売りは駅弁ごと消えました。後に他社の駅弁が売られるようになっても、立ち売りは行われていません。


栃木県 JR東北本線 宇都宮(うつのみや)駅

宇都宮駅では2000年代も、7時半頃から14時過ぎ頃まで、駅弁屋の松廼家と富貴堂がそれぞれ、宇都宮線(東北本線)ホーム上で自社の駅弁を立ち売りしていました。しかし松廼家では2006(平成18)年頃に最後の立売人が引退、富貴堂は2008(平成20)年に駅弁から撤退、以後は駅弁の立ち売りが行われていません。


栃木県 東武鉄道 下今市(しもいまいち)駅

下今市駅弁立売

下今市駅では2000年代も、金曜日を除く昼飯時の限られた時間帯に、駅弁屋のアザレア弁当が「幕の内弁当」「日光山菜おこわと地鶏弁当」などの駅弁を、立ち売りのみで販売していました。立売人が2015(平成27)年8月に引退し、以後は駅の売店で駅弁が売られます。


群馬県 JR上越線 新前橋(しんまえばし)駅

新前橋駅弁立売

新前橋駅では2000年代にも、この駅で特急列車の分割や併合があるときに限り、駅弁屋の高崎弁当が高崎駅の駅弁「だるま弁当」を、立ち売りで販売していました。しかし2004(平成16)年までに駅弁屋がこの駅から撤退し、立ち売りは駅弁ごと失われました。だるま弁当は高崎駅などでは、引き続き売られます。


岐阜県 JR高山本線 美濃太田(みのおおた)駅

美濃太田駅弁立売

美濃太田駅では2000年代にも、駅弁屋の向龍館が「松茸の釜飯」などの駅弁が、主にホーム上での立ち売りで売られました。しかし駅弁屋が2019(令和元)年5月限りで駅弁から撤退したため、立ち売りは駅弁ごと失われました。


熊本県 JR鹿児島本線 八代(やつしろ)駅

八代駅弁立売

八代駅では2000(平成12)年3月に、月曜日を除く11時から13時頃まで、八代市街の中華料理店「太楼(タロー)」の「がらっぱ弁当」が、河童に扮装したおじさんによる立ち売りで売られ始めました。しかし2004(平成16)年3月の九州新幹線の部分開業の後に、駅弁の立ち売りが目撃されていません。


熊本県 JR肥薩線 人吉(ひとよし)駅

人吉駅弁立売

人吉駅では2000年代にも、急行列車や特急列車の、その後は日中の観光列車の発着に合わせて、「鮎ずし」や「栗めし」などの駅弁が、立ち売りで売られました。この駅で50年以上凜々しく駅弁を立ち売りした立売人は、テレビや雑誌などでよく紹介されました。しかし2020(令和2)年7月の豪雨により、人吉駅に発着するすべての路線が運休中。JR線に復旧の見込みがなく、唯一の立売人が2023年3月に亡くなり、今後に駅弁の立ち売りが復活する見込みもなさそうです。


大分県 JR日豊本線 別府(べっぷ)駅

別府駅では2006(平成18)年9月23日から、大分市内の食品業者である学食が、「とり天弁当」などの商品を、ホーム上で立ち売りし始めました。大分の名物を発信しようと、JR九州などと数年間の交渉のうえ実現したそうです。しかし2008(平成20)年までに、立ち売りでの販売を終えたようです。


鹿児島県 JR肥薩線 吉松(よしまつ)駅

吉松駅弁立売

吉松駅では2004(平成16)年3月に、駅弁屋のたまりによる駅弁「御弁当」や飲料の立ち売りが復活しました。九州新幹線の新八代駅から鹿児島中央駅までの開業と、鹿児島中央駅と吉松駅を結ぶ観光客向け臨時特急列車「はやとの風」の誕生により、1999(平成11)年に終えた駅弁の立ち売りを5年ぶりに復活。販売は毎日ではなかったようですが、お茶と缶ビールも立ち売りし、酒類を買える全国で唯一の立ち売りでした。しかし駅弁屋が2018(平成30)年9月限りで閉店し、立ち売りは駅弁ごと失われました。


東京都「台場電鉄 昭和駅」

台場電鉄昭和駅

この駅は実在せず、東京都港区の臨海副都心の商業施設「デックス東京ビーチ」4階の商業フロア「台場一丁目商店街」にあった仮想の駅。2002(平成14)年12月時点で、かつて福島県の常磐線の平駅(1994(平成6)年12月からいわき駅)で駅弁の立ち売りに使われた販売容器を用いて、東京駅弁の日本レストランエンタプライズが調製する、昭和時代風の駅弁3種類を立ち売りしていました。2008(平成20)年に再訪すると、商業施設は盛業中でしたが、駅弁や立ち売りは跡形もなく消えていました。


コラム・駅弁の立ち売りがなくなる理由

駅弁の立ち売り、ホーム上での移動販売は、明治時代には標準的な構内営業の形態でした。当時は新聞や雑誌、お茶や酒など、現在は売店で売る商品も、立ち売りで販売されました。そんな立ち売りが、今ではほぼ見られない理由は、採算上の問題だと考えています。駅弁などこれらの立ち売りは、鉄道事業者から許可等を得た個人や業者が、いくらかの営業料を納めて行う商売。儲からなければ止めるか消えるか、売店や駅構外など儲かる形態へ移行するでしょう。駅弁では昭和時代まで、汽車(蒸気機関車)が走っていた時代は、ひとりの立売人が一日に千個の駅弁を売ったなどという話が聞かれましたが、現在では一日に十数個が精一杯のようです。これでは立売人の人件費も賄えません。

1960年代または昭和30年代の日本国有鉄道(国鉄)では、空調を完備し窓の開かない特別急行列車を全国へ展開して増発し、動力近代化として蒸気機関車を電気動力やディーゼル動力の車両へ置き換えて、駅の停車時間を短くしました。そのため、汽車が主な駅や機関区のある駅でしばらく停車して、旅客が車窓越しに駅弁を買い求めるという光景が、急速に失われ始めました。国鉄の駅弁屋はこれに対応して、駅弁を立ち売りから売店や車内販売へ移行し始めました。

それから10年も時が下ると、新幹線と特急列車の時代になり、移動時間が、列車に乗って過ごす時間が短くなり、道中で弁当を買い求める機会そのものを減らしました。航空や自動車の普及で鉄道から客が転移し、列車に長く乗って移動する旅客も減らしました。駅弁屋そのものが1960年代以降、昭和40年代以降、年々減少するようになりました。

この頃の高度経済成長により、労働者の待遇が改善され、一方で人件費が増大したり、きつい仕事、重荷を担いでホーム上を走り回ったり、揺れる車内で動き回るような業務が敬遠されるようになりました。国鉄の在来線では、食堂車やビュフェの営業や駅弁の立ち売りの休廃止が進みました。新幹線では1964(昭和39)年10月の開業時から、ホーム上での立ち売りが禁止されています。

1980年代、昭和50年代になると、コンビニエンスストアや持ち帰り弁当チェーン店の普及、その他外食産業の発展により、駅弁の顧客が駅の利用者や鉄道の旅客に限られるようになりました。それまでは駅に行けば、団体で押し掛けても弁当が買える、弁当が毎日買える、駅によっては24時間買えると、鉄道を使わないのに駅弁を買う客が少なくなかったようです。時代がもう10年下ると、国鉄の赤字や合理化や職員の余剰人員対策から、国鉄の分割民営化による民業圧迫の制約の解消で、駅構内に飲食店が乱立するようになり、駅の中からもライバルが出てきました。

こうして駅弁は厳しくなり、立ち売りはもっと厳しくなりました。駅弁の販売は、例えば航空の機内食に相当するような鉄道の付帯サービスではなく、それ自体で独立採算を求められます。もはや駅弁の立ち売りは、観光の振興や文化の保存などを目的にした慈善事業と言えるでしょう。

ここに、著名な観光地を抱える駅などで、商売というよりはむしろイベントとして、駅弁の立ち売りを実施することが考えられます。しかしこんどは、以前は考えられなかったほどに厳しくなった安全への配慮が、それを阻むことがあります。かつてのように、列車が発車しても立売人がホームを走りながら、車窓越しに金銭と弁当を交換するなど、もはや論外です。イベントで企画された駅弁販売のプロによる立ち売りが、鉄道会社の難色で、特にJR各社の反対で、実現できなかったケースが度々起きているようです。しかし事故が起きれば以前と違い、駅弁の立ち売りはそこで命脈を絶たれるでしょう。

21世紀に辛うじて生き残った駅弁の立ち売りは、過去帳入りへのカウントダウンが続いています。