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 旅の友「駅弁」。館長が食べた駅弁を中心に、日本全国と世界の駅弁を紹介します。

駅弁の立ち売りについて

四角い木箱に駅弁を山積みして、列車のお客さんを相手にホーム上で販売する、駅弁の立ち売り。駅弁の販売形態の原点でありながら、最近はほとんど見ることがなくなりました。

駅弁立売の実施駅については当館への問い合わせが多い事項ですので、館長の調査と談話室(掲示板)に来られた方々のご協力で、2002年12月時点での駅弁立売駅をまとめました。以後、館長の現地訪問や談話室への情報提供などを基に、内容の更新を続けています。

なお、当館では、駅弁立売の定義を「何らかの販売用容器に駅弁を収め、売り子がその容器を持ち上げて駅のホーム上に立ち、その状態を保持したままホーム上を移動、駅弁と代金を交換する形で販売する形態」としています。例えば、販売用容器がスーパーの買い物かごであっても駅弁立売と見なし、逆に鉄道省時代の公式な駅弁販売用容器を使用していても脚立等に置いたままの販売では、駅弁立売と見なしていません。

→台湾の駅弁立売情報へ

駅弁立売駅

日本国内で定期的に駅弁の立ち売りが実施されている駅は、当館の情報では2020年4月現在で6駅を確認しています。

北海道 JR函館本線 森駅※2018年8月現在

夏の観光シーズンに限り、ホーム上で「いかめし」の立ち売りがあるそうです。髪を染めて服装の乱れた若者のだらしない販売風景が見苦しいとの報告がいくつもあり、見た目の評判は芳しくなさそうですが、一方で欧米を除く諸国の駅での物売りを思わせる、日本離れした販売形態と見ることができるかもしれません。


千葉県 いすみ鉄道 国吉駅※2020年4月現在

土日曜日の日中に、列車の発着に合わせて、「いすみのたこめし」などを立ち売りで販売することがあるようです。車両型のクッションをかぶった立売人がホームや列車内を練り歩く、町おこし、駅おこしタイプの駅弁立売です。


新潟県 えちごトキめき鉄道 直江津駅※2019年8月現在

2016(平成28)年4月から、えちごトキめき鉄道の観光列車「えちごトキめきリゾート雪月花」の停車時間(主に土休日の12時半頃)に限り、上越妙高駅弁(直江津駅弁)の立ち売りが実施されているそうです。


島根県 JR木次線 亀嵩駅※2014年6月現在

木次線のトロッコ列車「奥出雲おろち号」の乗客に対して、ホーム上で「亀嵩駅の手打そば」を、立ち売りで販売することがあるようです。また、出雲八代、八川、出雲坂根の各駅でも、立ち売りから弁当や甘味を買えたという報告があります。


福岡県 JR鹿児島本線 折尾駅※2020年4月現在

大正時代から駅弁が売られる折尾駅では、駅弁業者の方針として、駅弁の立ち売りが残されています。高架化で真新しい鹿児島本線上り4・5番ホームで、日中に「かしわめし」などの駅弁を立ち売りで販売することがあります。歌うユニークな立売人は、北九州市の観光資源にもなっています。


熊本県 JR肥薩線 人吉駅※2019年11月現在

戦前昭和から駅弁が売られる人吉駅では、日中の観光列車の発着に合わせて、「鮎ずし」「栗めし」などの駅弁を立ち売りで販売することがあります。この駅で50年以上凜々しく駅弁を立ち売りする立売人は、テレビや雑誌などでよく紹介されています。


駅弁立売をしていない駅

日本国内で駅弁の立ち売りを休止していたり、できそうでしていなかったり、駅弁以外の商品を立ち売りする駅は、当館の情報では2020年4月現在で4駅を確認しています。

福島県 JR常磐線 原ノ町駅※2020年4月現在

主にお昼時の列車の発着に合わせて、ホーム上で「浜のかにめし」などを立ち売りで販売していました。しかし2011年3月の東日本大震災以降、原ノ町駅では駅弁の販売が休止されており、立ち売りも出ていません。


新潟県 JR信越本線 新津駅※2019年11月現在

観光列車「SLばんえつ物語」の発車に合わせて、ホーム上でかつての駅弁立売容器を使い、駅弁を販売することがあります。この容器を持ち上げれば立派な立ち売りとなりますが、雑誌の写真を除いて目撃例がないようです。


山形県 JR奥羽本線 峠駅※2020年4月現在

日中は普通列車の発着に合わせて、ホーム上で「峠の力餅」を立ち売りで販売しています。商品が弁当でないため、駅弁の立ち売りではありませんが、明治時代から続く貴重な光景であることに違いはありません。


兵庫県 JR山陽本線 姫路駅※2018年9月現在

JRグループの観光キャンペーン「山陰デスティネーションキャンペーン」の実施に合わせて、2018(平成30)年9月21日に運転された京都駅発出雲市駅行寝台特急「サンライズ出雲93号」の姫路駅の停車時間に合わせ、駅弁の立ち売りが実施されました。

駅弁立売がなくなった駅

おおむね2000年頃に駅弁の立ち売りが定期的に実施されていた、または実施されているという情報があったものの、現在は実施されなくなったことが確認された駅は、当館では2019年11月現在で15駅を確認しています。

北海道 JR宗谷本線 稚内駅

夜行列車を除く特急列車の発車前に、ホーム上で駅弁が立ち売りされていました。稚内駅弁は当時、この立売人ひとりで駅弁を製造し販売していました。その方が2004年1月10日に亡くなり、駅弁も立ち売りも消えました。今は別の業者が、駅の隣の再開発ビルで駅弁を販売しています。

北海道 JR根室本線 厚岸駅

「かきめし」が有名な駅。2000年代にもテレビ番組や観光シーズンやイベント列車運行時などでの立売販売目撃報告がいくつかありましたが、2006年9月発売のムック「駅弁万歳!」に、理由は不詳ですが立売ができなくなった旨の記述があり、今後に駅弁立売が実施されることはなさそうです。

北海道 JR富良野線 上富良野駅

2008年6月7日から、富良野線の観光列車「ノロッコ号」運転日に限り、地元のパン屋さんが作った駅弁4種を立ち売りのみで販売しています。駅弁の販売日つまり観光列車の運転日はおおむね、6月から8月までの毎日と、10月上旬までの土休日です。しかし2010年度からはどうも実施されていないようです。


北海道 JR室蘭本線 登別駅

2000年代にも多客期やハイシーズンに限り、駅弁の立ち売りがあったそうです。談話室では2003年と2004年の8月に目撃報告がありました。しかし2004年9月限りで調製元が駅弁から撤退し、駅弁は立ち売りごと消えました。

北海道 JR函館本線 長万部駅

「かにめし」が有名な駅。2000年前後にも駅弁の立ち売りを行っていたようですが、2006年9月発売のムック「駅弁万歳!」に、立売が思い出話になった旨の記述があり、今後に駅弁立売が実施されることはなさそうです。

北海道 JR函館本線 函館駅

この駅ではまれに、かつ突発的に、駅弁の立ち売りが行われていました。近年では2010年のSL列車「SL函館大沼号」運転日や、2014年のゴールデンウィークに、ホーム上で駅弁の立ち売りが行われました。しかし2012年に駅弁屋が交代してからは、駅弁の立ち売りは行われていません。


山形県 JR羽越本線 酒田駅

2002年末頃現在で「鳥海釜飯」「ササニシキ弁当」「きらきらうえつ弁当」の3種類を、主に新潟方面行の特急列車の発着時刻に合わせて、立売で販売していました。しかし2005年の秋頃の駅弁業者の撤退により、立売は駅弁ごと失われたようです。


福島県 JR常磐線 いわき駅

2000年代も特急列車の発車時に限り、ホーム上の仙台寄り階段付近で駅弁の立ち売りがあったそうです。しかし2005年5月限りで、駅前整備事業により調製元が廃業したため、駅弁が立売ごと消えました。今は他社の駅弁が、改札内コンコースの売店や駅ビルで売られています。


栃木県 JR東北本線 宇都宮駅

2004年頃までほぼ毎日、朝7時半頃から14時過ぎ頃まで、東北本線ホームに2社の駅弁立売が出ていました。しかし1社は2008年に駅弁から撤退、1社は最後の駅弁立売人が2006年頃までに引退されたようで、それ以降は駅弁立売の目撃情報がないようです。

栃木県 東武鉄道 下今市駅

昼飯時の限られた時間帯に、右の写真のようにホーム上で「幕の内弁当」「山菜おこわ」などを販売していました。金曜定休。駅弁立売人が2015年8月に引退し、以後は駅の売店で駅弁が売られます。


群馬県 JR上越線 新前橋駅

この駅で特急列車の分割や併合があるときに限り、右の写真のようにホーム上で「だるま弁当」をスーパーのかごで立ち売りしていました。しかし2004年までにホーム上の売店ごと駅弁販売がなくなったそうで、立売も同時に消えたようです。


岐阜県 JR高山本線 美濃太田駅

右の写真のように、ホーム上で「松茸の釜飯」の立売が見られることがありました。日中の高山方面または多治見方面の列車の到着時には、立売で駅弁を購入できる確率が高いようでした。調製元の営業終了により、2019年5月限りで立ち売りは駅弁ごと失われました。


熊本県 JR鹿児島本線 八代駅

2000年3月から、駅弁での街おこしを目的に、月曜を除く11〜13時頃に、右の写真のように鹿児島本線上りホームで「がらっぱ弁当」を立ち売りしていました。カッパに扮装したおじさんが販売するユニークな形態は、静かに知名度を上げつつありました。しかし2004年3月の九州新幹線部分開業の後に、駅弁立売の目撃情報がないようです。


大分県 JR日豊本線 別府駅

大分県の食品製造販売業者が大分の名物発信をと、駅ホーム上での立売をJR等と数年間の交渉し、2006年9月23日に別府駅で駅弁の立ち売りが実現しましたが、2008年までに販売を終えたようです。

鹿児島県 JR肥薩線 吉松駅

1999年の急行列車廃止により取り止められた、ホーム上での売店営業と駅弁立売が、2004年3月の九州新幹線部分開業に伴う臨時特急「はやとの風」新設に伴い復活しました。駅弁は幕の内弁当1種類。毎日ではなかったようですが、お茶とビールも立ち売りし、酒類を買える全国最後の駅弁立売でした。駅弁屋の閉店により、2018(平成30)年9月限りで終売。


東京都「台場電鉄 昭和駅」

この駅は実在せず、臨海副都心の商業施設「デックス東京ビーチ」内「台場一丁目商店街」にある仮想の駅で、実際に駅弁販売に使用された販売容器を用いて昔風の駅弁を立ち売りしていました。2008年に再訪すると、商業施設は盛業中でしたが、駅弁や立売は跡形もなく消えていました。


コラム・駅弁立売がなくなる理由

かつては駅弁販売の形態の標準であった駅弁立売が、現在ではほとんど見られない主因は、立売では採算が取れないからでしょう。かつては一日一人千個販売という時代があったものの、現在では十数個程度が精一杯という話もあり、これでは立売人の人件費も賄えません。

鉄道のスピードアップが駅での停車時間を削減し、窓の開かない特急列車の増加は立売人と乗客との距離を遠ざけたため、立売での販売では駅弁が売りにくく、かつ売れにくくなり、売店や車内での販売に置き換わりました。人件費の増大やきつい職業の敬遠によるなり手のなさも、立売衰退の一因かと考えられます。

また、汽車での長旅は新幹線や特急列車、または航空機や自動車の利用に移行した上に、移動時間の短縮は旅行中の食事の必要性そのものを減退させます。さらに持ち帰り弁当チェーン店やコンビニエンスストアの登場、国鉄の合理化や余剰職員問題に端を発する駅構内売店や飲食店の激増も加わり、駅弁屋そのものが最近三十〜四十年間に渡り年々減少しています。

駅弁販売は、例えば航空の機内食に相当するような鉄道の付帯サービスではなく、それ自体で独立採算を求められます。もはや駅弁の立売は、観光の振興や駅弁立売文化の保存などを目的にした慈善事業と言えるでしょう。

ここに、著名な観光地を抱える駅などでの新たな駅弁立売の登場が考えられるのですが、こんどは以前は考えられなかったほどに厳しくなった安全への配慮がそれを阻むことがあります。昔のように列車が発車しても走りながら金銭と弁当を交換するなど論外、イベントで企画された駅弁販売のプロによる立売が、鉄道会社の難色で、特にJR各社の反対で、実現できなかったケースが度々起きているようです。

さらに、鉄道や駅舎の高架化及び橋上化や地下化により、駅改札内での構内営業そのものが撤退に追い込まれるケースも現れています。その理由は公開されていませんが、鉄道会社から許可を得て敷地内で商売をさせてもらっているという構内営業の性格上、鉄道や駅舎の改良による費用負担や既存施設の撤去新築などを求められているのではないかと想像します。橋上や高架下での商業施設開発が伴えば、売店がそちらへ移転しているようですが、ホーム上での駅弁立売は生き残らないでしょう。

21世紀に辛うじて生き残った駅弁の立売は、過去帳入りへのカウントダウンが続いています。