東京都の上野駅と北海道の札幌駅との間、1214.7kmを約16時間かけて結んだ寝台特急列車。1988年3月の青函トンネルの開通と同時に運行を開始、料金の高い寝台個室や予約制のディナーで話題になった。国内では他に「トワイライトエクスプレス(大阪駅〜札幌駅)」「カシオペア(上野駅〜札幌駅)」にしか残っていない食堂車を連結し、事前予約の夕食を提供するほか、深夜は予約なしで軽食を提供、朝は朝食の提供や弁当類の販売が行われた。2016(平成28)年3月に廃止。
札幌発上野行の寝台特急列車「北斗星」で食べた朝食。パン、ミニサラダ、ロースハム、ソーセージ、ハッシュドポテト、スクランブルエッグ、オレンジ又はリンゴのジュース、フルーツのヨーグルトがけ、デザート、コーヒー又は紅茶のセット。下記の6年半前と違い、和朝食と洋朝食は完全に別のメニューになっていた。これ以外の食事の提供はなかった。禿げた真冬の田んぼを車窓に眺めながら、人生最後の北斗星を味わった。
連日満席の夜行列車の減便や廃止は、夜行バスや格安航空会社に客を奪われたという方便や、採算が合わない儲からないという現実を理由に、日本に限らずドイツでもフランスでも、南米でもアフリカでも起きている。ただ、日本以外の国では、特にヨーロッパでは、道路や航空と同じように線路の保有と列車の運行で組織を分けることが進み、自社が撤退しても他社が進出することがある。
2016年にドイツ鉄道の子会社が夜行列車事業から撤退した際、一部の列車をオーストリア国鉄が受け継いだ。日本でも、例えば日に数百台の夜行バスが行き交うとされる東京〜大阪に夜行列車が生まれてもよさそうなものだが、幹線鉄道をJR各社が保有し、その全社が現実として夜行列車を追い出しているため、新規参入や復活運行など理論上の空想に留まるのだろう。夜行列車の最後の砦「サンライズ」も、いつまでの命か。
札幌発上野行の寝台特急列車「北斗星」で食べた朝食。ご飯、味噌汁、焼き魚、卵焼き、かまぼこ、わさび漬け、香の物など、デザート、コーヒー又は紅茶のセット。内容の割にとても高価だとは思ったが、日本国内で食堂車を利用することそのものが、とても貴重な体験。また、いまや宿泊施設の朝食はバイキング形式の食べ放題が普通なので、こうやって一食分が出てくることが新鮮に思えた。
上野駅〜札幌駅の寝台特急列車「北斗星」は、北海道新幹線の開業を待たず2015(平成27)年3月のダイヤ改正で廃止、同年8月で臨時列車としての運行も取りやめた。1958(昭和33)年10月の「あさかぜ」に始まり、昭和時代は日本全国の幹線鉄道で毎晩走り、新幹線と並ぶ国鉄の看板列車であった、いわゆる「ブルートレイン」の幕が下りた。
廃止の理由は、車両の老朽化と、青函トンネルに北海道新幹線を通すための架線電圧の変更。さすがに今回はチケットの連日完売とダフ屋の横行がネット上を賑わせたからか、今までの夜行列車の廃止時と違い、JRの大本営発表に利用の減少や不振という嘘は出なかった。車両の老朽化も間違いない。しかし架線電圧の変更は、後に寝台特急列車「カシオペア」用だった車両をJR貨物の電気機関車に牽かせて、団体専用列車として運行させたため、夜行列車廃止の口実や方便だったことを、JRが自ら実証してしまった。
札幌発上野行の寝台特急列車「北斗星」で食べた夕食。名前のとおり、見てのとおり、スパゲティのペペロンチーノ。しっかりアルデンテでしっかり辛い、料理の味は良好。当日のワンプレートメニューはこの他に「ビーフシチュー」(1,600円)、「煮込みハンバーグ」(1,400円)、「リヨン風サラダ」(800円)のセット崩れメニューと、「ビーフカレー」(1,200円)、「きのことベーコンの和風パスタ」(1,200円)、「ピッツァ・マルゲリータ」(800円)があった。
1988(昭和63)年3月の青函トンネルと津軽海峡線の開業では、特急列車「はつかり」、寝台特急列車「北斗星」「日本海」、夜行急行「はまなす」、快速「海峡」、貨物列車のすべてに、国鉄時代の中古車が充てられた。特急電車は青森の車両が乗り入れ、機関車は奥羽本線や羽越本線から青函トンネル対応改造のうえ転用、快速向け客車は山陰地方から色と窓と座席を変えて転用、寝台客車は東北本線や奥羽本線などから個室化などの改造のうえ転用、うち食堂車は出物がなかったため、特急電車から系列を越えた転用で賄った。
そのため、北斗星の食堂車は運行開始時で約15年落ち、乗車時点で約40年モノの老朽車両であった。改装と適切な保守が施されていたのだろうが、乗車時点ではさすがに車両や内装の劣化が気になった。
札幌発上野行の寝台特急列車「北斗星」で食べた夕食。予約時間の終了後から23時までは「パブタイム」と称して、無予約注文が可能な営業が実施される。酒類や軽食の他に、こういう食事メニューも食べられた。内容は煮込みハンバーグ、リヨン風サラダ、パン又はライス、コーヒー又は紅茶のセット。どっぷりデミグラスソースに漬かったハンバーグに、具だくさんのサラダ。当日のセットメニューはこの他に「ビーフシチューセット」(2,500円)があり、煮込みハンバーグがビーフシチューに差し替わる。
上野駅と札幌駅を約16時間で結んだ寝台特急列車「北斗星」は、2008(平成20)年3月ダイヤ改正で、北海道新幹線の工事時間帯を確保することを理由に、2往復から1往復へ減らされた。削減前はそこそこ取れた寝台券が、削減後はまるで1988(昭和63)年の登場時のような、連日完売のプラチナチケットと化した。削減の理由だけ見ればそのうち2往復に戻るように見えて、やはりJRが夜行列車を廃止したいだけのいわゆる大本営発表だったようで、翌月には1往復分の寝台客車をさっさと廃車にし、新幹線開業前の廃止へと向かう。
上野発札幌行の寝台特急列車「北斗星3号」で食べた夕食。予約時間の終了後から23時までは「パブタイム」と称して、無予約注文が可能な営業が実施される。酒類や軽食の他に、こういう食事メニューも食べられる。
風味はまあまあ。昭和の頃の食堂車の評判に付いて回った「まずい」には当たらないが、「高い」印象は否めない。しかし、日本国内の食堂車営業が「北斗星」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」の札幌発着寝台特急を残して消滅し、昔のように無予約でふらりと来られる時間はパブタイムと朝の数時間のみになってしまった。車窓に光が流れてガタガタ揺れるレストランという希少な体験も、料金に含まれていると考えるべきだろう。
なお、乗車当日は他に「ビーフシチューセット」(2,500円)「北海の幸クリームパスタ」(1,200円)「ビーフカレー」(1,200円)の計4種が食事メニューにあった。予約制メニューは7,800円のフランス料理コースと5,500円の懐石御膳のいずれかであり、こちらのほうがぐっとおトクに食堂車での夕食を経験できる。
上野発札幌行の寝台特急列車「北斗星3号」で食べたおつまみ。別紙のメニューで6月13〜15日限定をうたい、衝動的に注文。今の食堂車でもそんなことをやるのかと思った。内容と味は見たまんま。
日本国内でも昭和40年代までは、特別急行列車に食堂車が付くことは当然であり、むしろないほうが珍しく、「メシ抜き特急」などと非難の対象にもなった。しかし特急列車の増発と短区間化による利用の減少や高度経済成長期の人手不足などで、以後は在来線特急列車の食堂営業は縮小を始める。1986年11月のダイヤ改正で北海道内特急列車「おおとり」「オホーツク」を最後に昼行特急列車の食堂営業が廃止され、1993年3月に九州方面の寝台特急列車の食堂営業が一斉に打ち切られ、以後は札幌発着の寝台特急列車のみが食堂車の営業を続けている。
上野発札幌行の寝台特急列車「北斗星3号」で食べたおつまみ。スーパーで売ってるカットレタスと牛タンスモークパックを皿に載せてタマネギをスライスしただけ、と言われればそうかもしれないが、非日常空間で食べればひと味違う。
新幹線の食堂車は1964(昭和39)年の東海道新幹線開業時には存在せず、山陽新幹線が全通し東京・博多間で約7時間の旅が始まった1975(昭和50)年に登場した。その登場時に大量の要員を新幹線へ投入するために、在来線での食堂やビュフェの営業が縮小されたと言われる。
上野発札幌行の寝台特急列車「北斗星3号」で食べたデザート。内容は小さなチョコケーキ、バニラアイス、キウイ、オレンジ。見た目も風味も寂しいが、こういうものは昼間のティータイムに提供するメニュー。夕食と朝食の営業しかしない食堂車に備わっていること自体に、感謝すべきか、違和感を覚えるべき。
1982(昭和57)年開業の東北・上越新幹線に食堂車は登場しなかったが、東海道・山陽新幹線ではほぼすべての「ひかり」で食堂車の連結と営業があった。1985(昭和60)年にデビューした新型の100系新幹線電車には、2階建ての食堂車も登場した。
しかし1987(昭和62)年の国鉄分割民営化で東海道新幹線を割り当てられたJR東海は、自社区間のみの利用者を念頭に置き、バブル景気に乗じてか、食堂車の新造を打ち切ってグリーン車に変更した。山陽新幹線のJR西日本は引き続き二階建食堂車を新造したが、電車の更新に伴い食堂車とその営業列車が減少し、2000年の全廃に至る。
上野発札幌行の寝台特急列車「北斗星3号」で食べた朝食。白身魚フライ、卵とじ、生野菜サラダ、ポテトとソーセージが載るメインのプレートに、フルーツ、コーンスープ、パン、ジュース、コーヒー、冷水を付けるもの。分量や風味や見栄えと価格は、シティホテルのものと大差ないだろう。大沼や駒ヶ岳に噴火湾を車窓に眺めながら、絶対に非日常的なブレックファースト。
朝食は予約制ではなく、早い者勝ち。かつては和定食と洋定食というメニュー構成であったそうだが、今回利用時は「朝食」の一種類のみ。今回選んだ「パン・スープセット」の他に「ご飯・味噌汁セット」があり、そちらを選択すれば白身魚を焼鮭か何かに、パンを御飯に、スープを味噌汁に、冷水をお茶に変える模様。メニューに他の食事はいっさいなく、その多様性のなさを補う意味でか、テーブルをひとつ使って函館の駅弁も販売していた。夜より一層、合理化の雰囲気を感じる。