東京駅から電車で約45分。大船駅のある鎌倉市は、神奈川県の東部で相模湾に面した、人口約17万人の古都。13世紀に幕府と呼ばれる武家政権がここを拠点とし、農漁村に戻るも明治時代に別荘地や観光地として再興、文人や要人が好んで住んだり訪れた。東海道本線が横須賀線を分岐する大船駅では、1898(明治31)年から大船軒が駅弁を販売、鎌倉の文人や駅前の映画撮影所の関係者に親しまれた。1888(明治21)年11月1日開業、神奈川県鎌倉市大船1丁目。
2016(平成28)年から鎌倉散策弁当の題名で販売される、大船駅弁の季節商品のうち、12月から2月まで販売される「早春だより」。これは2018(平成30)年版で、この時は1月6日から3月30日まで販売。赤い掛紙にアニメの背景画のように描かれた絵柄は、鎌倉の荏柄天(えがらてん)神社。いつもの季節駅弁の容器を使う中身は、中央に黒米入り酢飯を据え、その周囲を牛肉煮、春菊などのかき揚げ、タラの明太子和え、白菜とゆで卵、鳥つくね、ゆず大根、リンゴのコンポートなど、様々なおかずで囲うものだった。JR東日本グループ会社の事業再編という不思議な理由により、2021年3月限りで終売。
※2021年3月補訂:終売を追記2016(平成28)年から鎌倉散策弁当の題名で販売される、大船駅弁の季節商品のうち、3月から5月まで販売される「春ごよみ」。これは2018(平成30)年版で、この時は4月1日からの販売で、この時は「熱海散策弁当」の題名が付いていた。掛紙では黄色い空に菜の花と桜が咲いているのだろうか。正方形の容器の中身は、グリーンピースと桜花で彩るタケノコ御飯の周囲を、サワラ西京焼とゴボウ煮、菜の花豆腐とあさりの煮物、牛もも肉と春キャベツとベーコンとじゃがいも、白魚と炒り玉子の和え物と桜わらび餅と漬物で囲うもの。7年前と内容と味の雰囲気は変わらない。掛紙は以前の鎌倉風景のほうが良かったかも。JR東日本グループ会社の事業再編という不思議な理由により、「早春だより」が2021年3月限りで終売となったため、これも今後はおそらく出ないだろう。
※2021年3月補訂:終売を追記2016(平成28)年から鎌倉散策弁当の題名で販売される、大船駅弁の季節商品のうち、6月から8月まで販売される「夏越し(なごし)」。これは2020(令和2)年版で、6月2日からの販売。今回は題名がなく、駅弁の名前も少し変わった。今回の中身は、新生姜の炊込みご飯、アジの唐揚げ、豚とナスとトマトの炒め物、パイナップル、牛肉とソラマメ、キス磯辺揚、ヤリイカとワカメのぬた、玉子焼、鶏団子とエビの煮物、カリフラワー酢漬。JR東日本グループ会社の事業再編という不思議な理由により、「早春だより」が2021年3月限りで終売となったため、これも今後はおそらく出ないだろう。
※2021年3月補訂:終売を追記大船駅弁の季節商品「夏越し」の、2012(平成24)年版で、6月3日の発売。鎌倉の釈迦堂切通し(通行禁止)の写真をイラスト調に加工した絵柄の掛紙を使用、中身はサクラエビとシラスと鮭フレークを添えた白御飯に、ヒレカツ、マグロ西京焼、アサリ時雨煮、かまぼこ、玉子焼、そら豆、ようかん、アジ酢漬、アナゴ押寿司、さくらつぼ漬け、パプリカやナスなどの素揚げ。
大船駅弁の夏の季節商品の、2011(平成23)年版で、5月前後に販売か。下記の春や秋の駅弁と同じ正方形の容器を使用、江ノ島電鉄極楽寺駅の写真を加工したデザインの掛紙で包む。中身は生姜の炊込飯に、サトイモやタケノコなどの煮物、サーモン押寿し、カツオのマヨネーズ焼、玉子焼、アジフライ、牛肉煮、かまぼこ、菜の花、わらびもちなど。ごく一部の食材で夏を表現し、しかし内容や見栄えは雑然として、でも味が悪いわけではない。
そのまま使うと何か問題が生じるのだろうか、掛紙の写真はどこの駅か分からないように駅名掲示などが改変されている。掛紙の絵柄でこういう配慮が見て取れるのは、東京駅弁の日本レストランエンタプライズ(NRE)と神奈川県内でしか記憶がない。商品数や新作数の多さもあるのだろうが、このエリアは何か世知辛いのか。
大船駅弁の季節商品「春ごよみ」の、2011(平成23)年版。下記の駅弁「晩秋紅葉ごよみ」と同じ容器を、鶴岡八幡宮の本宮(上宮)を描いたと思われる掛紙で包む。中身は梅混じりの御飯に、サトイモやタケノコなどの煮物、サーモン押寿司、トンカツ、サワラ照焼、鶏肉焼、ハマグリ、かまぼこや玉子焼など。
大船の季節駅弁はこの春も良くなってきた。煮物や貝の味付けが柔らかくなり、サーモン押寿司やハマグリといった過去の大船駅弁にない味が入ったのは、東京駅弁の日本レストランエンタプライズ(NRE)の傘下となった影響だろうか。
大船駅弁の春の季節商品の、2004(平成16)年版。他の新作駅弁で見たような容器や掛紙の形とサイズ、デザインは墨字や朱印と桜花の写真で鎌倉と春を強調する。中身は半分が桜花を添える御飯で、残りの半分が里芋や人参などの小柄な煮物、残りが焼売や焼鯖や薩摩揚。
この内容では当然に御飯は白飯か茶飯だと思ったが食べると酸っぱく、何事かと掛紙を見ると右端に小さく「ちらし弁当」と、原材料名に「酢飯」とあって一安心。なぜこの内容で酢飯を入れたのだろうか。入れ替わるように終売となったと思われる春秋の季節駅弁「鎌倉四季の味」と比べて、見栄えもおかずも価格差の120円以上に品質が落ちてしまった感じを受けた。
大船駅の秋の駅弁の、2010(平成22)年版。容器が正方形に戻ったが、中の仕切りは松花堂タイプでなく飯を中央に添えた井形になった。紅葉が盛り上がるポスタライズ写真を大きく描いた掛紙を使用、中身はしめじ飯にサトイモやシイタケなどの煮物、鶏と豆腐のハンバーグ、海老天、焼鮭、焼売、玉子焼、鯵の押寿し、サツマイモ甘露煮など。
良い時と悪い時の差が激しいと思う大船駅の秋駅弁は、今回は中庸か。各地が紅葉色でほのかに染まり、品質や風味に非難も賞賛も当たらない絶妙な無難さを備えた。
大船駅の秋の駅弁の、2009(平成21)年版。今回は見栄えも中身も価格もガラリと変えてきた。長方形の赤い容器に、駅弁の名前や紅葉を描いたボール紙でふたをして、ひもで十字にしばる。中身はきのこ御飯に栗を載せ、銀鮭粕漬とつくね串、シイタケやタケノコなどの煮物、ちくわ磯部揚、サツマイモ天、エビ五色揚、ゴマ団子など。
ここの秋駅弁は、当館が開館した頃は本当に秋らしく、その後はどんどん落ちていった印象があったが、今回は小柄でもしっかり作ってきた印象。香りや味付けもほどほどに、ていねいに折り付けていた。
大船駅の秋の駅弁の2008(平成20)年版。前年と同じ容器と掛紙を使用、中身は栗載せ白御飯としめじめし、銀鮭粕漬、ハーブチキン、サツマイモ天ぷら、シイタケとニンジンとサトイモの煮物、カマボコと玉子焼、うぐいす豆、柴漬けなど。値上げしたのに中身をコストダウンしているし、古都鎌倉の秋をこのレベルの弁当で表現してはいけないと思った。容器と見栄えと分量と風味の薄っぺらさがどうも気になる、デパ地下の500円弁当相当品。
大船駅の秋の駅弁の2007(平成19)年版。強度のないトレー接着容器に透明なふたをして、紅葉を描いた掛紙で包む。中身は舞茸御飯、八穀米、玉子焼、サツマイモレモン煮、サンマ南蛮煮、チキンナゲット、肉団子と蒲鉾の串刺しなど。小粒に揃えた9種のおかずが見栄えと風味で秋と古都を表しているような気がして、しかし全体的に悪い意味で華奢(きゃしゃ)な感じも受けたのはなぜだろう。2割は安い横浜の秋駅弁のほうが高級に見えた。
大船駅の秋駅弁の、廉価版の2004(平成16)年版。最近の大船駅弁に共通な、やや小柄な長方形の容器に、CGとイラストで紅葉がいっぱいな掛紙をかける。中身はしめじが載った舞茸御飯に鮭塩焼と、里芋や椎茸や人参や竹輪などの煮物。
悪い駅弁ではないのだが、隣接エリアの駅弁屋がおくる横浜や小田原の秋駅弁にすべての面で凌駕されている印象で、どうも分が悪い。以前はそうでなかったので、まずは味気なさが出る容器のリニューアルを期待したいところ。
下記の駅弁「きのこちらし秋日和」の、2003(平成15)年版。掛紙の絵柄が異なるが、中身は前年のものと同じ。見栄えが異なるので、現地で未収蔵の駅弁と判断して買ってしまった。味が良いままであったのは救い。当館に写真付で収蔵した駅弁も700種類を超えて、旅行中でない限り収蔵済みの駅弁のチェックをしていないため、今後はこんな重複購入が増えてくると思う。
大船駅の秋限定のちらし寿司。長方形の容器の中に海老のかき揚げ、焼鱒、煮物をおかずとして、酢飯の上にたくさんのシメジを、玉子やレンコンや紅生姜と混ぜて敷いている。煮物焼物は他の大船駅弁でお馴染みの良い味。紅生姜嫌いでも、紅生姜が混ぜられたきのこちらしはそのまま普通に食べられたので、この配合は絶妙と見た。
1998(平成10)年3月1日に発売した、春秋限定のお弁当。写真は「秋」で、正方形の容器の中身は、扇形に固めたしめじ御飯に、煮物類やカニカマ揚げ、イワシ南蛮煮に大学芋と、秋の香りがいっぱい。大船駅といえば「鯵の押寿し」だが、大船で本当においしい駅弁は幕の内弁当かもしれない。