岡山駅から特急列車で約2時間半。松江市は島根県の県庁所在地で日本海と2つの湖に面する、人口約20万人の城下町。中心市街地にも水路が残る水の都に、年間約900万人の観光客が訪れる。駅弁は明治時代からの駅弁屋が、島根県の料理や食材にこだわった駅弁を駅弁売店に取り揃える。1908(明治41)年11月8日開業、島根県松江市朝日町。
2020(令和2)年9月に運行を開始したJR西日本の団体専用列車「WEST EXPRESS 銀河」の車内でツアー客に提供し、松江駅でも発売。掛紙には夜空と列車とお品書きと、松江駅弁のパッケージ写真が描かれる。中身はその絵のとおり、松江駅弁のオールスター。ベニズワイガニのワイン寿司、島根牛の味噌煮御飯、蕎麦屋のだしめし、あご(トビウオ)の天ぷらと野焼き、サワラの味噌漬焼、鶏肉煮、しじみのしぐれ煮、アラメ煮、煮物、漬物、おはぎなど。ツアー客に提供する夕食の弁当としての御飯とおかずの構成と分量を備えながら、島根や松江がうまい。お酒にも合いそう。価格は2020年の発売時で1,500円、2023年時点で1,650円。
JR西日本を含むJRグループ各社は2000年代に、夜行列車を次々に廃止し、割引や乗り放題の切符も次々に売り止め、定価で新幹線や特急に乗るビジネス客、高価でゆとりのある旅を楽しむ高齢者、数十万円から百万円以上の出費をいとわないクルーズトレイン客の獲得に力を入れてきた。その結果、かつて周遊券や夜行列車で日本中を旅した若者は高額で不便な鉄道を嫌い、自動車や航空あるいは海外へ移行し、日本を鉄道で旅行する存在でなくなった。そこでJR西日本は、「遠くへ行きたい、を叶える列車」をキャッチフレーズに、40年落ちの普通電車6両を魔改造し、かつて東京と大阪を半世紀以上結んだ夜行列車の列車愛称「銀河」の名を使い、かつての夜行列車の料金と時間帯を持つ新たな列車を提案した。
このWESTEXPRESS銀河は、当初は京都駅と出雲市駅を結ぶ夜行特急列車として、2020年5月8日から週1〜2往復の運行を予定し、市販の時刻表にも時刻を掲載した。しかし新型コロナウイルス感染症の流行を理由に運行を延期、4か月遅れでデビューを果たした際には、子会社の日本旅行で旅行商品を買った客のみ乗せる団体専用列車にその姿を変えた。後に大阪駅〜下関駅、京都駅〜新宮駅と目的地を移行しても、ツアー客専用であることに変わりない。抽選販売の定員はわずか50名で連日の完売。ツアーバスや航空のLCCの客を取り込めているようには思えないがどうか。
※2023年6月補訂:値上げを追記2017(平成29)年の秋までに発売か。掛紙には蕎麦の名前や出雲そば屋の店頭写真が見えるが、そばの駅弁ではない。中身は五目飯に柴漬けを添え、あご焼きと玉子焼と鶏の塩麹焼、焼鮭と煮物、揚げそばと和菓子など。松江駅のそば屋で使われる出汁を使って炊き上げたという出汁飯だけで食が進み、おかずにも酒のつまみにもできそうな付合せ。現地で蕎麦を食べられず駅弁を買い山陰線に乗ったら、よりおいしそうだと思う。価格は2017年の発売時で1,280円、2023年時点で1,400円。
※2023年6月補訂:値上げを追記出雲大社大遷宮と古事記編纂1300年を記念して、2010(平成22)年10月13日に発売。あるいは下記「出雲大社参拝記念招福ちらし」のリニューアルか。長方形の容器を、中身の写真を背景にアイコンや食材名や商品名や宣伝文など様々な情報を盛り込んだボール紙の枠にはめる。
中身は島根産コシヒカリを使う五穀米の上を、カニほぐし身、鶏肉旨煮、アナゴ蒲焼、トビウオでんぶ、ユリの花などで覆うもの。パッケージに記されるとおり、調味料も古代出雲にちなんだという。食材に脈絡がない感じも、個々に落ち着いた風味があり、混ぜて食べても不自然な感じがしない、雰囲気の良い味だった。価格は2012年の購入時で950円、2015年時点で1,050円、2016年時点で1,150円、2018年時点で1,180円、2019年時点で1,200円、2020年時点で1,240円。
古事記(こじき)は小学校の社会科の教科書にもその存在が載る、和銅5年(712年)に編纂されたという日本最古の歴史書。衆議院の解散につながった2000年の総理大臣の失言に表現を借りると、天皇を中心とした神の国のことについて書かれている。島根県商工労働部観光振興課では2012年の「古事記編纂千三百年」と2013年の「出雲大社平成の大遷宮」を記念する観光キャンペーン「神々の国しまね」を展開、2012年7〜11月に「神話博しまね」を開催するなど、神話の由来地をアピールしている。
※2020年6月補訂:値上げを追記1988(昭和63)年頃に発売。駅弁史上で初めて日本酒を2本も入れた駅弁。日本酒の瓶を2本描いた長方形の容器の中身は、表紙の絵そのままの一合瓶「國蝉(こつき)」「湖上の鶴」が各1本入り、もちろん駅弁なので御飯物とおかずが入っているが、牛肉すき焼き、わかさぎ甘露煮、白魚天、赤貝煮付け、ズワイガニなど、俵飯4つの他はどこからが付け合わせなのかが迷うほど多種少量のおかずが収められている。ただし予約制。
今回に駅弁大会で購入したものは、俵飯がラップされていたり、すき間とカップばかり目立ったりで、どうも見栄えが悪いと感じた。しかし松江の他の駅弁にも入っている宍道湖由来の珍味がいろいろ詰まり、この歳になってようやく酒の甘辛を感じられるようになったため、この駅弁の魅力を少しだけ味わえた気がした。価格は2009年の購入時で1,500円、2014年4月の消費税率改定で1,550円、2020年時点で1,580円。
※2020年6月補訂:値上げを追記10〜3月限定の駅弁。松江駅弁の他の商品と同じ構造のパッケージ。中身は赤貝も混じる炊込飯の上にシラウオや赤貝などを載せて、有頭海老や竹輪などを添えるもの。この赤貝飯も松江の郷土料理だそうだが、ここは他の駅弁にもそういう枕詞が付くので、とにかく目立たない駅弁。弁当の風味や実力に関係なく、売り場で最後まで残っていそうなタイプ。価格は2006年の購入時で950円、2014年4月の消費税率改定で980円。
赤貝に関する記述がパッケージにある。宍道湖に隣接する中海はかつて、全国有数の赤貝こと二枚貝サルボウの産地であったが、1949(昭和24)年から漁獲高が減り始め、ヘドロの堆積や沿岸の干拓その他の環境変化により、10年でほぼなくなり今に至る。中海の水質改善は事実上始まったばかりで、仮に資源が回復したとしてもそれまでには沿岸の赤貝文化は消えてしまうだろうが、駅弁ではどこまで残ってくれるだろうか。
※2015年10月補訂:値上げを追記小泉八雲の生誕150年を記念して、2000(平成12)年に発売。優雅な松江堀川遊覧をイメージし宍道湖七珍味と松江銘菓を織り込んだという中身は、ほぼ正方形の容器を内部で9分割、トビウオのでんぶ寿し・かに寿し・大和しじみもぐり寿しの3種の御飯、ウナギ・海老・酢の物などが5区画、真ん中の1区画には松江名菓。内容に過不足はなく、多品種少量の具を詰めた高級駅弁はこうあってほしいと思える完成度の高い駅弁だと思う。購入時は1,300円、2008年7月25日から1,400円、2014年4月の消費税率改定で1,440円。
宍道湖七珍味とはスズキ・モロゲエビ・ウナギ・あまさぎ(ワカサギ)・シラウオ・コイ・シジミのことだそうで、頭文字を取って「相撲足腰(すもうあしこし)」と覚えるそうな。
※2015年10月補訂:値上げを追記2020(令和2)年1月の京王百貨店の駅弁大会で販売。おそらく福井県の催事業者のプロデュースで、記載された価格から大正10年代のものと思われる、松江駅弁の掛紙の絵柄を使用し、復刻掛紙駅弁として販売した。中身は復刻でなく、容器も値段も通常版の米原駅弁「出雲招福ちらし」。相変わらず具が不思議なちらしずし。
2017(平成29)年1月の阪神百貨店の駅弁大会でデビューか。掛紙にはノドグロ一匹分の漫画と、ノドグロの写真や宣伝文が描かれる。小ぶりな正方形の容器に酢飯を詰め、ノドグロの切り身の酢漬けと炙りを並べ、漬物や昆布煮や赤貝煮などを添える。小さく淡く柔らかく、酢漬けと炙りで変わらない感じのノドグロは、高価のためか分量が少ないため、頑張って味わう。価格は2017年の発売時や購入時で1,380円、2018年時点で1,420円、2019年時点で1,450円。2019年までの販売か。
※2021年3月補訂:終売を追記2015(平成27)年秋の発売か。掛紙には大きなノドグロの漫画と、ノドグロとカニと松江城の写真や宣伝文が描かれる。小ぶりな正方形の容器に、赤ワインを混ぜた酢飯を詰め、カニほぐし身とノドグロの切り身の酢漬けを並べ、ニンジン、インゲン、みょうが、錦糸卵などで彩る。小さく淡く柔らかいノドグロは、高価のためか分量が少ないため、頑張って味わう。2017年までの販売か。
※2020年4月補訂:終売を追記2014(平成26)年1月に、松江駅と京王百貨店の駅弁大会でデビュー。おおよそ駅弁のものとは思えない絵柄の掛紙は、小学館の月刊女性ファッション雑誌「AneCan」の表紙と同じようにできている。中身は白御飯の上にアナゴの味噌煮と醤油煮、というより身の詰まった感じな固めの焼きアナゴを並べ、漬物とフルーツ餅を添える、シンプルで普通の駅弁。
よって、この駅弁の特徴は、掛紙である。女性誌っぽい衝撃的なデザインの表紙に加え、左右の観光案内も雑誌っぽいつくりで、発売時にネット上でも、京王百貨店駅弁大会を報じるテレビの情報番組でも話題になった。価格は2014年の購入時で1,300円、2017年時点で1,350円。雑誌は2016年末に廃刊されたが、駅弁の掛紙は変わらなかった。2017年までの販売か。
※2020年6月補訂:終売を追記秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2010(平成22)年秋の新商品か。正方形の容器を、中身のアップ写真と商品名を賑やかに印刷するボール紙の枠にはめる。中身は白御飯の上で牛肉煮、錦糸卵、カニほぐし身のストライプを描くもの。いずれも他の松江駅弁で実績があり、うまくないはずがない。あとはこの組合せが好まれるかどうか。そして、この商品が現地で売られているのかどうか。現地で買えたという報告が見られないまま、2012年で終売の模様。
※2015年10月補訂:終売を追記石見銀山の世界遺産への登録を題材にして、2006年11月に発売。赤い木目調の細長い容器に、サバや銀貨や古地図を描いた掛紙を巻き、ゴムでしばる。中身は白御飯の上に糸こんにゃくやタマネギやささがきごぼうなどを敷いたうえで焼き鯖を載せた、駅弁の名前どおりのすき焼き風の鯖丼。だしのボトルと大和芋おろしのパックが添えられており、これをかけてもよい旨の案内が緑色の紙に書いてある。分量は少なめだが個性ある内容。2008年頃までの販売か。
400年前に日本一かつ世界有数の銀山として栄え、しかし江戸時代までに資源枯渇により衰退、その当時の町並みが地味に少々の観光客を集めていた石見銀山。2007年5月に世界遺産への登録延期勧告が報道されるまで、石見を「いわみ」と正しく読める人も多くなかったと思うが、翌月に巻き返して登録を獲得するとやはり、観光客が大挙して押し寄せることになる。
地元ではマイカーや観光バスの乗り入れ禁止に加えて路線バスを廃止に追いやろうとするまで来客を迷惑がっている模様で、それならばなぜ世界遺産への登録を頑張っていたのかと思う。なお、松江と石見銀山は今でこそ同じ島根県であるが、銀山が栄えた頃は出雲と石見で別の国であり、特急とバスを乗り継いで2時間弱かかる間柄。
※2015年10月補訂:終売を追記長方形の容器を金ぴかのパッケージに入れる。中身は縁起の良い食材ということで鯛・エビ・鴨肉・宍道湖産ウナギ・シラウオなどをていねいに載せるちらしずし。味や量というより見た目にとても縁起の良い駅弁だ。
出雲大社へは国鉄大社線が出雲市から分岐していたが、国鉄廃止対象線転換の最後となる1990年3月で廃止、現在は出雲市からバスまたは松江から一畑電車を乗り継ぐ。なお、1993年3月に神西駅を「出雲大社口」に改称したが、出雲大社までの交通手段がなく利用者が戸惑い、1999年3月に出雲神西への再改称を余儀なくされた。
第二次大戦前の調製と思われる、昔の松江駅弁の掛紙。千鳥城つまり松江城と、宍道湖と松江大橋を描く。湖面に浮かぶのは嫁ヶ島か。松江の城下町や中心市街地と鉄道駅は、昔も今も宍道湖と中海を結ぶ流路の南と北であり、古くは大橋1本で、現在は新大橋と宍道湖大橋とくにびき大橋を加えた4本の橋で結ばれる。