札幌駅から函館本線と宗谷本線を乗り継いで約3時間。名寄市は北海道の北部に位置する、人口約3万人の農業都市。餅米の産地として知られるほか、陸上自衛隊の駐屯地が置かれ、かつては国鉄線が四方へ広がる鉄道の町でもあった。駅弁は1910(明治43)年からの駅弁屋が、2009年6月限りで廃業し、今は売られていない。1903(明治36)年9月3日開業、北海道名寄市東1条南6丁目。
1990(平成2)年5月に発売。正方形の容器に透明なふたをして、平成年間にしては古風な絵柄とデザインの黄色い掛紙をかけて、ひもで十字にしばる。中身は五目酢飯の上に錦糸卵を敷き、真だこのスライスを6切れ載せ、佃煮や紅生姜を添える。オホーツク産特大品の浜ゆでだというジューシーで柔らかいタコにファンが多く、名寄駅一の評判駅弁か。調製元の廃業により、2009年6月限りで失われた。
日本最北の鉄道路線である宗谷本線には、札幌駅や旭川駅と稚内駅を結ぶ4往復の急行列車が長い間活躍していたが、旭川駅〜名寄駅の高速化事業の完成に伴う2000年3月のダイヤ改正ですべて特急化、新型車両を入れた「スーパー宗谷」2往復では札幌駅〜稚内駅で約1時間もの時間短縮が実現した。最高時速120キロに対応した重軌条に、小説や映画の「塩狩峠」の頃の細道の面影はない。
※2010年7月補訂:写真を更新リクルートの旅雑誌「じゃらん〜北海道発」の企画駅弁のひとつとして、2004(平成16)年9月20日に3か月間一日8個の限定販売にて発売、後に通年販売の駅弁となった。正六角形の容器に透明なふたをして、手作り感たっぷりなデザインの掛紙で包み、割りばしを置いてひもでしばる。中身は北海道上川郡風連町の有機栽培米「ほしのゆめ」の白御飯の上に、名寄鈴木ビビッドファームのSPF豚(無菌豚)のロースの味噌焼を載せてゴマをかけ、山くらげとガリと小ナス漬を添えるもの。
昔懐かしい硬くて少々臭いのある豚肉、と書くと辛口になるが、鉄道も中心市街地もすっかりさびれてしまった名寄で、御飯やおかずの内容があまり重ならない6種もの駅弁を取り揃えているのは感心すべきこと。幕の内や助六も食べてみたい気がした。価格は2004年の発売時で750円、2009年の購入時で780円。調製元の廃業により、2009年6月限りで失われた。
現在の名寄駅は宗谷本線の主要駅で中間駅のひとつに過ぎないが、かつては東西南北の4方向に路線を広げる鉄道の要衝であった。1989年4月に名寄本線が、1995年9月に深名線が廃止され、駅の利用者も往時の数分の一であろうが、駅弁はむしろ元気になった。
1970(昭和45)年7月に「きのこ弁当」の名前で発売。華奢な惣菜容器に透明なふたをして、カエデとアカゲラを描いた掛紙をかけてひもで十字にしばる。中身は炊込飯の上にシメジ、ホタテ、コーン、エビ、キクラゲ、うずら卵、紅生姜が載るもの。ホタテとコーンで「北の味」、シメジで「きのこ」を出したのだろうが、インパクトは弱いし食べれば微妙な、でも類例は他に苫小牧駅弁くらいであろう間違いなく個性的なB級グルメ。かつてはきのこがもっとたくさん入っていたのだろうか。調製元の廃業により、2009年6月限りで失われた。
1988(昭和63)年に発売。今回は2004(平成16)年1月の京王百貨店の駅弁大会で、目玉商品の扱いで実演販売されたものを購入した。小柄な正方形の容器に透明なふたをして、中身の写真を載せた現地版とは異なる掛紙で包み、やはり現地版と異なり事務用の輪ゴムで十字にしばる。中身は現地と同じく白御飯の上にニシンとカズノコと姫竹とキクラゲとワカメを載せるもの。価格は京王百貨店の駅弁大会ではたしか800円、2005年6月時点で840円。
ニシンとカズノコはそれぞれ単体で美味いのだが、飯や他の具との調和が見られず、着色料が御飯に流れ出るキクラゲとワカメの着色が毒々しい。販売数量はともかく、その評判は聞こえてくる限り芳しいものではなかったようで、これが現地の他の駅弁の販売に響かないとよいが。この駅弁は調製元の廃業により、2009年6月限りで失われた。
※2009年7月補訂:終売を追記上記の駅弁「ニシン・カズノコ弁当」の、2009(平成21)年6月時点での現地での姿。外見と内容と風味において変わりはないが、価格が60円アップの900円となっていた。どこかにも書いたが、駅弁催事での実演販売や製造委託による輸送販売な駅弁と、小さな駅で毎日少量が調製される駅弁では通常、少なくとも味にはだいたい違いがあるものだ。赤と緑の蛍光色の毒々しさは相変わらずであったが、ニシンとカズノコの駅弁は北海道に合っていると思う。調製元の廃業により、2009年6月限りで失われた。
名寄駅の開業100年を記念して、2003(平成15)年7月19日に9月までの期間限定で発売、好評のため通年販売の駅弁になったという。駅弁の名前と中身の写真を大きく掲載した、インターネットの通信販売サイトのような賑やかなデザインの掛紙を使う。中身はバターライスの上に錦糸卵を敷き詰めて、バター味のカキとホタテを3個ずつ置いて、赤い山クラゲと緑色の茎ワカメをコーナーに置くもの。
この味付けに「汽車」の客は顔をしかめるかもしれないが、「電車」の客に対してはローカル駅にもこういう駅弁があっていい。逆に電車の客は赤と緑の蛍光色に引いて、汽車の客は彩りが豊かだねと評価するのかもしれないが。この駅弁は調製元の廃業により、2009年6月限りで失われた。