札幌駅から特急列車「北斗」で約2時間。長万部町は北海道の南部で噴火湾に面する、人口約5千人の町。国道や鉄道が分岐し、高速道路も通じ、将来は新幹線の駅が約束されている、江戸時代からの交通の要衝。駅弁は昭和のはじめから2社が営業。今は駅では売られないが、駅前で「かにめし」と「もりそば」が地元と自動車の客に親しまれる。1903(明治36)年11月3日開業、北海道山越郡長万部町字長万部。
1931(昭和6)年に長万部駅で発売。全国初で、長らく全国で唯一だった、そばの駅弁。専用の厚紙箱に、もりそばと青ネギと練りワサビ、うずらの生卵とミカンとボトルのめんつゆを収める。内容も風味も、名前のとおりのもりそば。
かつて国鉄は、御飯の入らない弁当を駅弁として取り扱わなかったため、公式な駅弁にはならなかった。それでも昭和時代の駅弁紹介本では、珍しい駅弁として取り上げられていた。やがて駅では売らなくなり、特急列車の車内販売での注文販売も2019(平成31)年2月限りで終わり、現在は駅前のそば屋で注文すると作ってもらえる。見た目や内容は、駅弁の当時と変わらない。価格は2004年時点で600円、2015年時点で650円、2023年時点で700円。
※2023年6月補訂:値上げを追記2004(平成16)年9月12日に購入した、長万部駅弁の箱。上記の16年後とおおむね同じで、中身も変わらない。当時は調製元のところに「JR旅客構内中央会会員」の表記があった。
第二次大戦後のものと思われる、昔の長万部駅弁の掛紙。収集者は箸袋とともにスクラップブックに貼り付け、1954(昭和29)年8月7日の調製と判断し、箸袋に書き入れた。長万部駅の駅弁では、「かにめし」の掛紙があんなにたくさん残されているのに、そばの掛紙はほとんどみられないと思う。
1972(昭和47)年の発売という過去の長万部駅弁で、今はドライブインか駅近くの調製元で注文するお弁当。1960年代の資料にも「鮭飯」(100円)の存在がうかがえる。かにめしと同じ容器に、サケを描いた黄緑色の掛紙をかける。中身は白御飯の上をタケノコ混じりのサケフレークと鮭の煮付けで覆い、錦糸卵と紅生姜とグリーンピースで彩り、ワカメ佃煮、缶詰みかん、大根桜漬、奈良漬を添えるもの。つまりだいたい、かにめしのカニをサケに置き換えたもの。
フレークはぼそぼそ、この弁当の特徴である鮭の煮付けは、下記の「蝦夷めし」より分量もワイルドさも半分という軽い印象で、食べやすい感じだった。価格は2018年時点で1,080円。
※2020年12月補訂:写真を更新2011(平成23)年9月24日に購入した、長万部駅弁の掛紙。容器も内容も風味も、上記の2020年のものと変わらない。当時の掛紙には「駅弁かなや」の表記や、「食べがらはデッキの屑篭の中にお入れくださいます様御協力ください」の注記があった。やはりここでは「かにめし」なのだろう、ドライブインに注文販売の掲示があったにもかかわらず、レジでの注文時にはかにめしではなくて本当にいいのかと何度も念押しされた。
国鉄時代の資料にその名がないため、昭和60年代の発売か。それにしては古めかしい姿をしていると思う、通好みのマイナーな駅弁。有名な駅弁「かにめし」と同じ経木折に、駅弁の名前と食材「さけ」「ほたて」「毛がに」など描いた掛紙をかける。中身は中身は御飯の上にカニほぐし身とホタテ2個、そして衣というかタレをまとう鮭の切り身ひとつ。どこの駅弁や惣菜にも似ない、鮭のなんともいえない味付けに、遠くに来たなと感じさせる強烈な個性が出ている。
現地でも調製元の公式サイトでも紹介されないような存在でも、札幌の店舗と2020年代以降の催事での実演販売では買えて、現地でも大量に予約すれば買えるという。価格は2008年の購入時で1,260円、2016年時点で1,404円、2018年時点で1,512円。
※2022年4月補訂:値上げを追記し解説文を手直し1981(昭和56)年6月4日9時の調製と思われる、昔の長万部駅弁の掛紙。「かにめし」の掛紙は多く出回るが、幕の内弁当の掛紙はほぼ見たことがない。北海道と海産物と路線図が、とてもアバウトに描かれる。江差線の一部と松前線が描かれて、列車が長万部駅に発着したはずの瀬棚線が描かれないことが不思議。
1950年代、昭和30年前後のものと思われる、昔の長万部駅弁の掛紙。収集者は1954(昭和29)年6月17日の調製とみなし、掛紙の調製印欄に書き入れた。「かにめし」以外の長万部駅の駅弁掛紙が残るのは少し珍しいと思い、長万部駅の駅弁掛紙は異様に多く残されていると思う。
長万部駅の駅弁屋の商品の掛紙。この絵柄だけでは、時期も内容も特定できない。商品名はカニの甲羅に記され、松と思われる絵柄に囲まれる。