函館駅から特急列車「北斗」で40分弱。森町は北海道の南部で噴火湾に面した、人口約1万人の港町。今でも漁業や農業がさかんであるほか、比較的温暖で雪が少なく温泉が湧いていることで、都会人の移住地としての人気も高い。ここの駅弁「いかめし」は、全国にその名を知られる名物駅弁であり、森町の知名度もこれによるところが大きい。1903(明治36)年6月28日開業、北海道茅部郡森町本町。
1941(昭和16)年に森駅で発売。日本を代表する駅弁のひとつ。マイカに餅米とうるち米を1:2の割合で詰め、熱湯で15分、しょうゆとざらめの煮汁でさらに15分煮込んだものを、小さな紙箱にふたつ詰める。イカの大きさにより時々3個、まれに4個入ることもある。
森駅は開業当時から現在まで、北海道南部の渡島半島で、太平洋の内浦湾あるいは噴火湾に面し、線路の横がすぐ海。1940年代の内浦湾では、イカがふんだんに獲れたという。時は戦時中。イカに米を詰めて煮たら、少ないお米で腹を満たせる、節米に協力できるというアイデアから、この駅弁が、今までにない料理が生まれたという。
第二次大戦後にはデパートに請われて、催事場に材料と調理器具を持ち込んだ製造販売、今でいう「実演販売」を敢行。駅前で作り駅で売る駅弁の殻を破る発想で、その存在を発信し、知名度と人気を得た。今ではこの「いかめし」は駅弁の枠を超え、森町や函館や道南の名物として君臨する。百貨店での駅弁や北海道の催事があると、ほぼ必ずいかめしの実演販売に出会え、出来立てを買える。
その結果、1980年代までには駅以外での売上が9割以上るいは95%以上と紹介され、昭和時代末期には駅で買えない駅弁と紹介されたこともあった。2018年3月に森駅のキヨスクが閉店し、森駅でいかめしを買うことができなくなったが、駅前の商店「柴田商店」で買えるほか、2020年まで夏休み期間中は駅のホーム上での立ち売りも実施された。
価格は2004年時点で470円。2008年9月から500円、2014年時点で580円、2015年時点で650円。スルメイカの世界的な不漁を理由に、2017年8月20日に780円へ値上げ。2023年時点で880円。
※2024年2月補訂:写真を更新2019(令和元)年6月29日に購入した、森駅弁の掛紙。上記の2023年のものや、下記の1960年代からのものと、絵柄は同じ。法定の食品表示が掛紙になく、これをまるごと包むラップに貼られる。2012年8月にオープンした東京駅の駅弁売店「駅弁屋 祭」では、通年で森駅弁のいかめしが売られ、実演販売でも現地からの輸送でもなく、製造委託によりどこかで作られているようなので、その際に使うバージョンか。高崎駅など首都圏の他の駅の、JR東日本クロスステーションの駅弁売店で買えることもある。
2010(平成22)年8月9日に購入した、森駅弁の掛紙。ようやく現地に行けて買えた、森駅のいかめし。2010年の訪問当時、いかめしは駅のキヨスクと、駅前の商店「柴田商店」で売られていた。時には万の単位で売れる都会での実演販売とは異なり、森駅では一日に数十個売れるかどうかということで、プラ製の折箱にいかめし2個を詰めてふたをして掛紙を巻いた駅弁を、まるごとラップで厳重に包んでいた。中身の水気を吸い、掛紙がふやけている。
もしこの「いかめし」が、森駅でのみ買える駅弁に留まっていたら、おそらく昭和40年代には駅弁屋ごと消えていただろう。この当時、駅弁に使われるイカはニュージーランド産。イカは函館の名物料理になるくらい、今でも道南エリアでは獲ることができたが、いかめしに合う柔らかなイカを追い求めた結果として、南半球にたどり着いたという。国産を使うと固くてまずいと客に怒られるらしい。
今さら語ることもない、デパートの駅弁大会や北海道物産展の定番商品である、森駅のいかめし。西日本での実演販売でいかめしを買うと、現地や東日本での掛紙を使うタイプでなく、このように牛乳パック素材の耐水紙箱に詰めて売る。中身や値段は変わらない。容器の中で水気がどうのこうのという料理でもないので、味が変わることもない。価格は2017年の購入時で780円、現在は上記のとおり880円になっているはず。
※2019年3月補訂:写真を更新2004(平成16)年2月23日に購入した、森駅弁のパッケージ。上記の2017年のものと何も変わらない、駅弁催事向け、実演販売向け容器。
2022(令和4)年1月の京王百貨店の駅弁大会14日間で、一日300個を実演販売。百貨店では現地でも予約により販売する駅弁と案内し、調製元社長は会期中にツイッターで「今年の新宿京王の駅弁大会だけでしか販売しません」と発信し、後に同年2月19日に限り完全メール予約制で調製元本社でも販売した、催事駅弁ないし疑義駅弁。東京で最大級の百貨店催事における目玉商品として、その販売はテレビやネットで多く取り上げられた。
京王百貨店の駅弁大会の名を記した丼に、いかめしの掛紙とデザインを共にする商品名の表記と、調製元で1941年にいかめしを発売した社長から数えて3代目の社長である今井麻椰氏の写真を掲載した赤い紙帯を巻く。紙帯の絵柄は器の柄でもある。中身は、森駅と日本を代表する駅弁「いかめし」のタレで炊いた御飯に、いかめしで使われるイカの煮込みを2杯置き、じゃがいも、ミニトマト、アスパラガスを添えて、チーズをかけるもの。
器と紙帯に記す「殿堂入記念」とは、京王百貨店の駅弁大会における実演販売の販売個数(時期により条件が異なる)で50年連続の1位となったことを示す。テレビでは味と北海道らしさを求めて、半年以上かけてこの内容とした旨が紹介された。催事場の限られた空間と人員で作って詰めて販売することも、考慮に入れられたと思う。イカと飯と丼に留まらない味と見た目の豊かさに、催事場では連日行列ができ、完売する人気だった。2週間限りで終えるに惜しい創作。
デパートの駅弁催事で、森駅の駅弁「いかめし」の実演販売の隣で売られていた商品。駅弁の掛紙と同じような絵柄を持つ紙袋に、コロッケを1個詰めて200円。今回買えたものは、コロッケ3個を惣菜向けプラ容器に詰め、紙袋を掛紙として使っていた。紙袋へのメモによると、中身は「バター」「コーン」「肉」か。ポテトに衣を付けて揚げた、ごく普通のコロッケであり、具の味もイカやいかめしの味もしなかったと思う。そもそも、これはもはや「いか」でも「めし」でもない。後の記事ではいかめしの煮汁を使うとか、公式サイトではイカと米といかめしの駅弁のタレを使用するとか紹介された。価格は2015年の購入時で1個200円、2019年時点で1個250円、催事向け商品であれば、定価はないのかもしれない。
※2022年4月補訂:値上げなどを追記商品の名前は「いかめしレトルト」とも。便宜上ここに収蔵するが、森駅以外で売られる商品。しかし2023年に森駅へ訪問したら、通常版のいかめしとともにこのレトルト版も、駅前の商店で買えた。北海道新幹線が新青森駅から新函館北斗駅までの間で開業した、2016(平成28)年3月に発売。森駅の駅弁で有名になったいかめしを2個、真空パックにしてタレを別添し、透明で大きなプラ容器に収め、駅弁の掛紙に似た意匠のフィルムを巻いて売る。これで日持ちを通常版の1日から3か月まで伸ばすことができた。
実見した範囲では函館駅や旭川駅、新千歳空港や羽田空港で販売。その他各地の空港や駅などの土産物店で手広く売られる模様。お湯や電子レンジでの加熱を推奨するが、そのまま食べてもよく、駅弁の味とたいして変わらない。価格は2016年の発売時で777円、2021年時点で940円、2023年時点で1,188円。
※2024年2月補訂:写真を更新し現地販売を追記2016(平成28)年11月6日に購入した、森駅弁のフィルム。法改正で食品表示が強化された以外、上記の2023年のものと変わらない。値段はだいぶ異なる。この当時は森駅以外の売店で販売されたとみられる。
日本鉄道構内営業中央会が駅弁誕生135周年を記念して、会員のうち21社が2020(令和2)年4月10日から販売した、駅弁の原点であるおにぎりをメインとした記念弁当「駅弁誕生135周年おにぎり弁当」の、森駅弁のいかめし阿部商店バージョン。これは現地でなく東京駅の駅弁売店「駅弁屋 祭」限定で「キャンペーン販売」し、製造を東京の空弁屋に委託し、わずか1週間ほどの販売だった模様。2021年時点でまれに催事で売られるようになった模様。
このキャンペーンに共通の駅弁マークを、シールで掛紙に貼り付ける。中身は白いおにぎり、茶色いおにぎり、ミニミニいかめしコロッケと煮物。有名駅弁のいかめしと、ほぼ同じ絵柄の掛紙を使いながら、その味や雰囲気はほとんどなかったように思える。森駅では売られたのだろうか。価格は2020年の購入時で800円、2022年4月の販売では890円。
※2022年5月補訂:値上げを追記2022(令和4)年4月10日に購入した、森駅弁の掛紙。森駅でなく東京駅で売られる商品かもしれない。値段と食品表示ラベルの貼り方以外は、上記の2020年のものと同じ。今回は駅弁の日に合わせ、日本鉄道構内営業中央会の会員のうち21社が、FMヨコハマのラジオ番組「FUTURESCAPE」とタイアップ。キャンペーンで各社に用意された「駅弁カード」が1枚付いてきた。
2017(平成29)年1月の阪神百貨店の駅弁大会で、680円で実演販売された商品。有名駅弁「いかめし」の中身にベビーホタテも詰め込んだ。関西では珍しく、掛紙を兼ねた紙容器でない、現地版の容器と掛紙を使う。もともとの味付けがとても濃い品物なので、ホタテの風味は感じられなかった。2022年の鶴屋百貨店の駅弁大会では、「鶴屋といかめし阿部商店のコラボ商品」として800円で実演販売。
※2022年2月補訂:現況を追記2011(平成23)年2月の熊本県熊本市の鶴屋百貨店での駅弁大会で実演販売されていた催事専用商品。耐水紙製の容器は西日本エリアでの「いかめし」の実演販売で使われるものと同じ、中身の見た目も「いかめし」と同じ、価格も「いかめし」と同じ、唯一中身だけが、米ではなくゆで卵1個ということで、「いかめし」と異なる。味も歯応えも違和感がまったくなく、森駅の名物駅弁はこれなんだとウソをつかれても信じてしまいそう。
2018(平成30)年までに250円で発売か。森駅の駅弁「いかめし」の、百貨店などでの実演販売で併売される商品。小粒のおかきを収めた袋に、駅弁の掛紙と同じ絵柄のシールを貼る。駅弁のいかめしをそのまま潰して作ったという米菓は、食べれば駅弁と同じ醤油味のイカの香りが、少しばかり漂った気がする。通信販売でも買える。
これは駅弁でなく、2023(令和5)年6月6日から20日頃まで、コンビニエンスストアチェーン最大手のセブンイレブンの、全国の店舗で販売されたコンビニおにぎり。同チェーン店のキャンペーン「北海道グルメフェア」の一環で、北海道森町の名物を阿部商店が監修した、イカのおにぎりを販売した。駅弁とはどこにも書いていないが、袋のデザインは森駅と日本を代表する名物駅弁「いかめし」そのもの。中身は味付け御飯の具をイカ煮としたもので、見た目の濃さに違い、風味はあっさり。2023年1月や2022年6月にも販売したらしい。調製元は各エリアの惣菜業者と思われる。
2022(令和4)年10月18日から31日まで、首都圏及び静岡・長野・宮城・福島・山形・岩手・新潟駅の駅のコンビニ「ニューデイズ」で販売。この年はこの前半2週間に「牛肉どまん中」「金色のひっぱりだこ飯」「チキン弁当」の、続く後半の2週間に「峠の釜めし」「いかめし」「深川めし」の駅弁風おにぎりが、それぞれ販売された。鉄道開業150年記念Newdays「鉄道の日フェア」の一環で、限定鉄道グッズ販売、駅弁風おにぎり販売、これらの駅弁風サンドイッチの販売、駅弁大会などが行われた。
これは森駅弁のいかめし阿部商店が監修し、埼玉県のJR東日本クロスステーションが製造し、駅のコンビニで販売する企画商品。駅弁のいかめしと同じ絵柄を持つ赤い袋に、イカの混ぜ御飯でできたおにぎりを詰める。味付けは駅弁と同じものだと思うが、見ての通りイカの存在は圧倒的に薄く、ほぼ醤油飯の味。
首都圏のスーパーマーケットでもおなじみの、真空パックのいかめし。今回は「森町名産」とあり、製造者の所在地も森町である。パッケージの説明文によると、北海道森町では古くから多くの家庭でいかめしを造っていたのだとか。駅弁で有名ないかめしに対する説明文とはまったく異なるのだが、どうなのだろう。味は見たまんまで、他のこの手の商品と同じく、駅弁よりサイズがだいぶ大きいので腹持ちがする。
2004(平成16)年1月13日に購入した、森駅弁の掛紙。京王百貨店駅弁大会の実演販売で購入。すべては現地と同じものだと思う。この頃にはまだ、バーコードの記載がない。
2001(平成13)年10月11日に購入した、森駅弁の掛紙。デパートの北海道物産展での実演販売で購入。容器包装リサイクル法による識別マークや、「元祖」の表記がまだない。調製元の電話番号の記載もない。
1980年代のものと思われる、昔の森駅弁の掛紙。その絵柄は昔も今も変わらない。値段や注意書きや調製元の表記に、少しずつ変化がある。
1974(昭和49)年10月29日の調製と思われる、昔の森駅弁の掛紙。今も変わらないこの絵柄は、いつから使われているのだろうか。登録商標は1960(昭和35)年4月出願、1962(昭和37)年2月公告とあり、商標法第3条2項を適用することから、それ以前から使われていることがうかがえる。
昭和30年代、1960年前後のものと思われる、昔の森駅弁の掛紙。現在のものと同じような絵柄になった。すでに見慣れたので今では特段の感想を持たないが、素で眺めると昭和時代中期の駅弁掛紙としてはとても大胆なデザインに思える。いかめしが50円で買えた頃は、箱の中に4個か3個のいかめしを詰めたというが、70円への値上げで現在の2個詰めになったという。
昭和30年代、1960年前後のものと思われる、昔の森駅弁の掛紙。収集者は1954(昭和29)年6月26日の調製と判断していた。森駅と日本の名物駅弁であるいかめしの掛紙が赤くなる前は、こんな青い姿をしていたのかと思う。
1954(昭和29)年6月26日12時の調製と思われる、昔の森駅弁の掛紙。「「はも」は内地で「あなご」と申します」と書いてあり、これはハモ飯でなくアナゴ飯か。調製印に年の表記はないが、「昭和29.7.10〜8.31 北洋博」の表記があり、1954(昭和29)年のものとみなした。収集者もそう考えたようで、掛紙にその数字を記した。函館市の函館公園と五稜郭公園でこの期間に地方博覧会「北洋漁業再開記念北海道大博覧会」が開催され、約80万人の入場者を集めたという。
現在の森駅の駅弁は「いかめし」のみであるが、1960年代まではこのはもめしにえび天ぷら弁当も知られたようで、幕の内弁当と寿司(助六寿司)も売られた。いかめしが都会のデパートで大当たりし、これらの駅弁は消えていった。