上野駅から特急列車で1時間ちょっと。水戸市は茨城県の中部で那珂川が流れる、人口約27万人の城下町で県庁所在地。江戸時代に徳川御三家のひとつ水戸徳川家が収める水戸藩が置かれ繁栄した。駅弁は明治時代から3社が競い賑やかだったが、2000年代に撤退、休業、倒産ですべて消えた後、2011年に地元の居酒屋が進出し駅弁が復活した。1889(明治22)年1月16日開業、茨城県水戸市宮町一丁目。
1995(平成7)年に水戸駅で発売。江戸時代の携帯薬箱であり、昭和時代を代表する人気のテレビドラマ「水戸黄門」における重要なアイテムであった印籠を、水戸で駅弁の容器にした。印籠の形状をイメージした黒い二段重ねのプラ製容器の、下段に炊込飯を詰めてハマグリ、タコ、錦糸卵で覆い、上段に豚肉、煮物、梅甘露煮を詰める。テレビドラマのレギュラー放送が終了したため、そろそろ水戸と印籠のつながりに説明を要しそうだが、今でもここにしかない形の駅弁として販売が続く。2010年の水戸駅弁の断絶を乗り越えた、唯一の駅弁である。価格は2010年の引き継ぎ時で大洗駅にて1,000円、2014年時点で1,080円、2023年時点で1,200円。
テレビドラマの水戸黄門は、1969(昭和44)年から2011(平成23)年までTBSテレビ系列で放送された時代劇。江戸時代前期の水戸藩主である徳川光圀について、江戸時代末期から諸国漫遊記が盛んに制作されて人気を呼び、氏の別称である水戸黄門の名が後世の人々にも定着した。ドラマでは黄門様の御一行が旅先で事件に出会ったり巻き込まれ、相手と家臣の助さん(すけさん・佐々木助三郎)や格さん(かくさん・渥美格之進)などとの格闘シーンに発展し、最後に水戸黄門が徳川家の葵の御紋が入る印籠を付き出して正体を現すことで、相手がひれ伏してハッピーエンドという1話完結の物語。これで水戸と印籠が結び付けられた。駅弁の容器にもスリーブにもちゃんと、葵の御紋が印刷されている。
※2023年10月補訂:値上げを追記上記の駅弁「印籠弁当」の、2014(平成26)年時点での姿。5年後と容器も内容も値段も変わらないように見えて、中身の詰め方が異なるので、まるでリニューアルでもかけたかのように見える。容器の色は黒に戻り、2013(平成25)年10月に水戸駅での販売が3年8か月ぶりに再開された。
※2019年8月補訂:新版の収蔵で解説文を手直し鹿島臨海鉄道の大洗駅で、2010(平成22)年中に発売か。水戸駅の駅弁屋の倒産により、同年1月13日限りで失われた有名な水戸駅弁「印籠弁当」について、外観つまり容器とスリーブがそのまま、大洗駅の駅弁屋に移籍していた。中身はまったく変わり、下段で炊込飯の上に錦糸卵、エビ、貝、青梅の甘露煮などを載せ、上段で梅肉入り豚しゃぶ、玉子焼、シイタケ、ニンジン、がんもどきを詰めていた。
印籠弁当が大洗駅弁になったことについて、これを解説する紙片が、今回購入の弁当に挟まれていた。
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この度は印籠弁当をお買いあげいただきまして誠にありがと
うございます。
印籠弁当につきましては、創業120年水戸の老舗として有名
な鈴木屋様が販売しておりましたが、昨年1月13日を持って、そ
の長い歴史に幕を閉じる事となりました。
しかし、鈴木屋様から「水戸の駅弁印籠弁当の伝統を途絶え
させたくないので、引き継いで欲しい」とのお話しを頂き、当社
としても同じ思いから、お引き受けした次第です。
残念ながら、水戸駅での販売はかないませんが、梅祭り期間
中には、偕楽園でも販売いたします。また、ご予約頂ければ大
洗駅にてもお取り置きいたします。
今後とも、当社お弁当をご愛願頂けますようお願い申し上げ
ます。
お弁当の万年屋
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価格は100〜200円下がり、水戸駅弁の時代と異なり、黒い容器と茶色い紙枠を組み合わせた。水戸駅での販売も実見しているが、イベントと予約注文でしか売らないとする記事もある。
※2019年8月補訂:新版の収蔵で解説文を手直し2006(平成18)年秋の新作。下記の駅弁「印籠弁当」の黒いプラ容器を、漆塗り風の赤黒い色に変更し、中身も3段分から2段に変更。下段に茨城産「黄門米」を使ったしめじと椎茸の炊込飯に舞茸を載せる御飯をたっぷり詰め、上段に鶏肉2点と豚肉、玉子焼き、カップ納豆を詰めた。
高価少量への不満は通常版と同様に出るだろうし、その観点では今回は内容も減ったぞと酷評される可能性もある。しかし印籠弁当はおそらく水戸駅で一番の知名度と人気のある駅弁。容器の高級感は間違いなく向上し、中身はむしろシンプルになり、風味の柔らかさも良い感じなので、入手できれば好評が上回ると思う。販売期間や販売数に限定があるようなので、むしろ入手できるかどうかが課題。通常の印籠弁当も併売。
この駅弁は水戸駅で最も有名で紹介例の多い駅弁であったが、2010年1月の調製元の倒産により失われた。
※2010年3月補訂:終売を追記水戸駅の駅弁「印籠弁当」の、2006(平成18)年時点での姿。印籠形の黒いプラ容器をスリーブに収めるようになり、3段重ねから2段重ねに変わり、一方で下段に内容器を挿入することで中身は3段分のままである。中身は上段が椎茸と海老とタケノコのちらしずし、中段がワカサギ揚げやレンコン揚げや納豆カップなど、下段が御飯と豚肉という具合に、だいぶリニューアル。価格も50円の値上げ。
この駅弁は水戸駅で最も有名で紹介例の多い駅弁であったが、2010年1月の調製元の倒産により失われた。
※2010年3月補訂:終売を追記水戸駅の駅弁「印籠弁当」の、2001(平成13)年時点での姿。徳川家の葵の御紋と「水戸黄門」の文字を金色でプリントした、印籠の形を模した黒いプラ容器の、下段にじゃこ入り豆御飯、中段に椎茸やエビが載った手まり寿司が4つ、上段に角煮と煮物類を詰める。季節により変化する中身は、印籠〜携帯用薬箱〜健康という流れで、健康に良い食材で構成したという。おかず向けの食材が少ないとはいえ、淡泊で体に良さそうな味が出ている。2006年までに上記のとおり容器をリニューアル。
※2019年8月補訂:新版の収蔵で解説文を手直し