東京駅から新幹線で約1時間。高崎市は群馬県の中央部に位置する、人口約37万人の城下町ないし宿場町。県内最大の都市であり、2本の新幹線と4本の在来線と私鉄が交わる鉄道の要衝。「だるま弁当」や「とりめし」などの名物を擁す駅弁は、1886(明治19)年以降に松本、矢島、末村の各者が進出し、1958年に合併した高崎弁当のものが、横川駅弁や東京駅弁とともに売られる。1884(明治17)年5月1日開業、群馬県高崎市八島町。
1990年代から上越線で親しまれる観光列車「EL&SL奥利根号」の、2008(平成20)年夏の運転開始に合わせて、同年7月19日に発売。駅弁の名前は「上州D51弁当」とも。北海道の疑義駅弁を含む海鮮弁当でよく使われるタイプの丸いプラ容器を真っ黒にして、フタを縁取りナンバープレートとハンドルを描くだけで、蒸気機関車の煙室扉つまり前面に見えてくるデザイン。これを駅弁の名前と機関車のイラストを描くスリーブに収め、ナンバープレートを印刷した黒いお箸を付ける。
中身は竹炭で黒く染めた御飯の上にエビ、榛名豚チャーシュー、鶏肉焼、シイタケやタケノコなどの煮物、うずらの卵、クリ、梅干、蒲鉾、マイタケなどを載せるもの。SL列車に乗れば買わずにはいられないだろうし、味も負けていない。蒸気機関車D51498が現役である限り商品寿命を保てそう。2010年度には年間で約1万8千個を売り上げたという。価格は2008年の発売時で800円、2011年時点で900円、2014年時点で1,000円、2020年時点で1,100円、2022年時点で1,250円、2023年時点で1,350円。
※2024年9月補訂:写真を更新し値上げを追記2011(平成23)年7月15日に購入した、高崎駅弁のスリーブ。上記の2024年のものと変わらない。容器も中身も変わらない。
上記の駅弁「上州D51弁当」の、2008(平成20)年の発売時や購入時の姿。容器と中身は上記の2011年のものと変わらない。当時は特製のお箸でなく高崎駅の駅弁に共通の割りばしを付け、スリーブの上面でなく側面にSLがいた。
D51形蒸気機関車は不思議と現在のメディアでは人気者の扱いであるが、もとは貨物列車向けの機関車であり、だから戦時輸送で乱造され1115両もの大所帯となり、ありふれていたがゆえに昭和40年代のSLブームでも末期になるか三重連でも組まない限りあまり被写体にならなかった。昭和50年代のブルートレインブーム、鉄道ブームで乱造された鉄道本の雑学記事で、製造数で日本一の蒸気機関車と紹介されたことで、その名が当時のベビーブーム世代の少年達に刻まれたのではないかと思う。「デゴイチ(デー、ゴー、イチ)」は愛称ではなく形式名の読み方そのものであり、「ディーゴジュウイチ」と読むのは誤りとされる。
※2022年4月補訂:新旧で解説文を入れ替え蒸気機関車「C6120」の復活運転に合わせて、2011(平成23)年6月4日に発売。駅弁として3年先輩の「上州D51」と同じ容器に、C6120のナンバープレートを金色に印刷し、その顔写真と駅弁の名前を記したボール紙の帯で留める。中身は白飯を山菜しょうゆ漬、もやしナムル、ほうれん草ナムル、にんじんナムル、牛しぐれ煮、錦糸卵で覆い、海苔を被せて、C6120の焼き印が入る玉子焼を据え、コリアンコチジャンを添付する。
なぜ高崎とも汽車とも関係なさそうな、韓国風ナムル弁当になったのだろうか。中身の味も容器も、完成度はD51に軍配が上がると感じたが、味が悪いわけではなく、駅弁売店により彩りを添える。実際に2011年の7月から8月にかけて、約7,400個も売れたという。価格は2011年の発売時や購入時で900円、2014年時点で1,000円、2020年時点で1,100円、2023年時点で1,350円。
C61形式蒸気機関車は、第二次大戦の終戦を受けた旅客列車向け機関車の不足と貨物列車向け機関車の余剰により、貨物用のD51形式蒸気機関車を1947(昭和22)年から3年かけて33両を改造して生まれた。同様にD52を改造したC62の人気の陰で、主に東北地方で特急や急行を牽引した後、昭和40年代に全機が引退、そのうち20号機が群馬県伊勢崎市内の公園に展示された。
JR東日本はすでに蒸気機関車を2両(C57形式180号機とD51形式498号機)復活させて観光列車に活用していたが、うちD51が2008年12月に宮城県内で故障し、その後の観光列車の運行スケジュールに支障が生じた。そこで予備機を求めて全国で保存車両を探し、この機関車に白羽の矢を立て、2010年1月から13か月かけて叩き直して走れるようにしたもの。JR北海道がC62形式3号機の運転を1995年に止めてから、旅客用大型蒸気機関車の国内での運行がなかっただけに、全国の鉄道ファンから熱い視線が注がれた。
※2024年9月補訂:写真を更新し値上げを追記2011(平成23)年7月15日に購入した、高崎駅弁のスリーブ。上記の2024年のものと変わらない。容器もお箸も変わらない。当時の中身は、黒米混じりの御飯つまり古代米の赤飯に、牛肉煮、鶏八幡巻、マイタケ煮、クリ、うずら卵、梅干し、ニンジンと、C6120の焼き印が入る玉子焼と、SLの動輪に見立てた真っ黒なレンコンが3輪。
名前は異なるが、つまり下記の駅弁「EL&SL奥利根号特製高崎名物幕の内弁当」と同じもの。専用紙箱が市販紙箱と専用掛紙の組み合わせに変わり、中身のいくらいなりが山菜いなりに変わっている。相変わらず個々の食材は見栄えも風味も良く、でも内容に脈絡がなく詰め方が雑な、食事というよりおつまみセットの雰囲気な記念駅弁。上記のプラ容器の駅弁の発売により、役目を終えた模様。
上野駅と水上駅を結ぶ臨時快速列車「EL&SL奥利根号」は健在だが、これ以外の列車名で上越線にSLが走ることがあるため、紙箱のストック切れのついでに駅弁の名前に汎用性を持たせたのかもしれない。
※2017年7月補訂:終売を追記2005(平成17)年の夏休み期間中限定に売られた駅弁。23センチ四方もある巨大な正方形ボール紙容器には、臨時列車名と蒸気機関車が大きく描かれる。中身はひつまぶし、岩魚鮨、稲荷寿司の三種の御飯に、ローストビーフとポテトフライ、舞茸天・焼き魚・蒲鉾・玉子焼に付け合わせ。脈絡のない内容はともかく、容器の大きさに負けてスカスカな見栄えはいただけないが、他に流用ができない専用の紙箱で記念駅弁を用意する姿勢はうれしいもの。
「EL&SL奥利根号」は、上野駅と水上駅の間で多客期によく運転される、全車普通車指定席の臨時快速。高崎駅と水上駅の間が蒸気機関車の牽引で運転され、多くの乗客ともっと多くの撮影者を集めるが、上野駅と高崎駅の間の電気機関車も希少な旧型機を使うし、いまや電車でもディーゼルカーでもない客車列車そのものが稀少なので、玄人はそちらも一緒に楽しんでいる。