上野駅から快速電車で30分強。我孫子市は千葉県の北西部に位置する、人口約13万人のベッドタウン。かつては利根川の河岸や水戸街道の宿場町があり、鉄道も常磐線が成田線を分ける、交通の拠点であった。昭和初期からの駅弁屋が健在だが、現在は駅弁を売らず、駅のホーム上で売店と立ち食いそば店を経営する。1896(明治29)年12月25日開業、千葉県我孫子市本町二丁目。
1980年代頃に使われていたと思われる、昔の我孫子駅弁の掛紙。山下清が著名な画家になる前の第二次大戦中に、我孫子駅で駅弁屋と立ち食いそば店を営む調製元に勤めていたことが縁で、掛紙に使うために四季で四種の絵を依頼し、しかし三種を描いたところで亡くなったそうな。
調製元は今も我孫子駅構内にいくつもの立ち食いそば店を置き、その味は評判であるが、駅弁業はやめており、駅弁もこの掛紙も入手できない。山下清の作品が高価で取引されるように、この掛紙も昭和末期のものにしては高価で(といっても、状態が良くても高くて数千円程度)取引されているらしい。
1980年代頃に使われていたと思われる、昔の我孫子駅弁の掛紙。千葉県立の手賀沼公園が描かれているが、服装は半袖で、木は葉が落ちており、季節はどちらだろう。この頃の手賀沼は毎年1度、全国一汚い湖沼として全国ニュースで紹介されていた。
我孫子駅で名物の、唐揚げそば。丸めの麺に真っ黒なつゆをかけて、大きな大きな鶏唐揚を2個ぶちこんで、刻みネギを少々かける。唐揚げが2個入ると440円、1個では340円。見てのとおり駅弁ではないが、駅そばあるいは駅麺として強力なファンが付いており、ホーム上の立ち食いそば店は一日中賑わっている。営業者の弥生軒は、上の掛紙で紹介しているとおり、かつて駅弁も販売していた。
2009(平成21)年1月の京王百貨店の駅弁大会で復刻販売された、かつての我孫子駅弁の幕の内弁当。経木枠の正方形の容器に経木のふたをして、駅弁の現役当時に使われていた掛紙のコピーで包み、ひもで十字にしばる。中身も当時を再現したそうで、日の丸御飯に鮭塩焼、カマボコ、玉子焼と、ミートボール、きんぴらごぼう、ニンジンなどの煮物、タクアンと昆布豆など。
企画は興味深いが、成果は散々。容器や中身や風味はNREの東京駅弁そのものであり、掛紙も復刻は絵柄だけで紙の大きさや質感がまったく異なるなど、肝心である復刻の内容が中途半端であった。これでは駅弁ファンや地元客の琴線にもかからないと思うし、実際に販売ブースには閑古鳥が鳴いていた。
かつての我孫子駅弁の調製元である弥生軒は現在でも盛業で、我孫子駅の各ホームで早朝から深夜まで立ち食いそば店を営業しており、名物の「唐揚げそば」をわざわざ食べに来るファンも付いているが、駅弁の販売はしていない。今回の復刻販売においても、弥生軒は商品の監修のみ行い、調製は東京駅弁の日本レストランエンタプライズが担当した。