東京駅から特急列車「わかしお」で約2時間。鴨川市は千葉県の房総半島の南部で太平洋に面した、人口約3万人の港町。津々浦々に漁港があり、砂浜や海水浴場があり、リゾート施設や宿泊施設が立地し、20世紀には鉄道で、21世紀には車で観光客が押し寄せる。駅弁は勝浦駅の駅弁屋が1970年代に進出、後にこちらへ移転し、当時はホーム上で、後に駅のコンビニで駅弁を販売したが、2023年1月から駅で買えなくなってしまった。1925(大正14)年7月11日開業、千葉県鴨川市横渚。
2014(平成26)年8月の発売。駅弁の女王こと小林しのぶ氏の監修のもと、近年に千葉県の鴨川市やいすみ市で観光資源としての活用を模索中の、江戸時代中期に活躍した安房の彫刻師である武志伊八郎信由(たけしいはちろうのぶよし)の通称「波の伊八(なみのいはち)」を、「伊」勢海老と蛸の「八」ちゃんと解釈した、イセエビとタコのお弁当。
波の伊八の代表作とされる行元寺(ぎょうがんじ)の欄間(らんま)彫刻「波に宝珠(ほうじゅ)」の写真に、タコとイセエビの文字やシルエットを描いた掛紙を使う。中身は右側にタコ飯、左側に小柄ながらイセエビの半身ふたつでまるごと一匹を使うイセエビ飯、真ん中にさんが焼、ひじき煮、サトイモやシイタケなどの煮物を置く。価格や掛紙の「伊勢海老まるまる一匹」の売り文句に違い、豪華な感じは良い意味で薄く、コンパクトでシンプルな感じを受けた。価格は2014年の発売時や2016年の購入時で1,800円、2021年時点で2,000円。
購入には4日前まで5個以上での予約が必要。価格や駅の立地も含めた入手の難しさによるものか、市販の時刻表などの駅弁紹介に出ないためか、時々テレビで紹介されていたにもかかわらず知名度は皆無。2016(平成28)年3月に日本食糧新聞社が「惣菜・べんとうグランプリ2016」の「駅弁・空弁部門」で金賞のひとつに選んだことがネット上に出回り、名を広めることができたかどうか。
※2022年4月補訂:値上げを追記現地で買った、波の伊八弁当。中身や価格は当然に、上記のものと同じである。この年の3月の受賞をアピールするシールが、掛紙の左下に貼られていた。
2006(平成18)年の前半に発売か。鴨川市商工会が2005(平成17)年度に始めた、食によるまちおこし事業「おらが丼」により、市内約30社がそれぞれ開発した丼のうち、駅弁屋が出したもの。白飯をアジやワラサそぼろとハンバーグで覆い、ひじき、ごぼう天、錦糸卵、ニンジンを載せ、かつおぶしと青菜の和え物と紅生姜を添える。ちょっとスパイシーな魚肉丼。
「さんが焼」は、千葉県の房総半島の港や船で親しまれた郷土料理。アジなどの魚を細切りにして、ショウガやネギや味噌など刻んで混ぜて、大葉を添えてハンバーグのように焼いたもの。焼かないものは「なめろう」と呼ばれる。その味を弁当で手軽に味わえる。現在の安房鴨川駅弁では、一番の人気ではないかと思う。価格は2007年時点で790円、2014年3月の消費税率改定で820円、2019年10月から1,000円。2021年時点で1,080円、2023年6月から1,150円。2023年1月に安房鴨川駅のコンビニが閉店したため、前日まで5個以上での予約販売となった。
※2023年11月補訂:値上げと現況を追記2020(令和2)年3月11日に購入した、安房鴨川駅弁のしおり。容器や中身や味は上記の2016年や下記の2014年と変わらないが、2019年の中頃に掛紙をやめてこのしおりを添付するだけになり、価格が180円も上がった。
2014(平成26)年5月16日に購入した、安房鴨川駅弁の掛紙。下記の2007年や2009年のものと同じでも、どうも版は異なる感じ。
2009(平成21)年10月30日に購入した、安房鴨川駅弁の掛紙。下記の2007年と同じに見えて、バーコード、製造委託記号、赤文字の注意書きが異なる。容器が横長になり、掛紙が小さく感じる。中身はほぼ変わらないが、この時は付合せがセロリ煮であり、ふたを開けるとその得体の知れぬ刺激臭が広がった。
2007(平成19)年4月7日に購入した、安房鴨川駅弁の掛紙。JR20周年のロゴマークをシールで貼る。絵柄は上記の2009、2014、2016年のものと変わらない。中身も変わらないが、これはおそらく2006年の発売当時の姿で、正方形に近い小柄で赤い容器を使っていた。また、この当時は安房鴨川駅弁らしくなく、東京都内の駅弁催事でも売られた。
2010(平成22)年までに発売か。上記の駅弁「さんが焼」を、1個のおにぎりにした商品で、駅弁と同じ場所で売られた。アジやサバのハンバーグを白飯で挟んで海苔を巻いたおにぎりが、商品名を書いたシールを貼った紙袋に収まる。さんが焼が千切りキャベツとともに、飯からはみ出るくらい、たっぷり挟まれていた。価格は2010年の発売時で200円、2014年の購入時で210円、2019年10月から250円、2021年時点で270円。2023年1月に安房鴨川駅のコンビニが閉店したため、前日まで5個以上での予約販売となった。
※2023年11月補訂:現況を追記2022(令和4)年3月19日に購入した、安房鴨川駅弁の紙袋。上記の2014年のものと、中身は同じ。紙袋の色や形状に、商品名シールの絵柄は、別物に替わった。
2001(平成13)年頃に発売か。赤くて小さな容器に、駅弁の名前と中身などのイラストを印刷したボール紙の枠にはめる。中身は味付飯を蒸しウニ、ひじき、錦糸卵、紅生姜、セロリ煮、赤にし貝とサザエで覆うもの。ふたを開けた瞬間こそ、セロリと紅生姜の刺激臭が鼻を突くが、食べれば無刺激で柔らかく、ほのかな海の味わいが感じられる。価格は2010年時点で900円、2014年の購入時で950円、2020年時点で1,050円、2021年時点で1,200円かつ要予約かつ要相談、2023年6月から同様で1,512円。2023年1月に安房鴨川駅のコンビニが閉店したため、前日まで5個以上での予約販売となった。
※2023年11月補訂:値上げと現況を追記2010(平成22)年1月15日に購入した、安房鴨川駅弁のスリーブ。下記の3か月前と、同じものである。
2009(平成21)年10月30日に購入した、安房鴨川駅弁のスリーブ。上記の2014年9月の現行品とほとんど変わらないが、この当時は価格の表記があり、販売者名に委託製造を思わせる「H」の記号が付いていた。
2002(平成14)年12月23日に購入した、安房鴨川駅弁のスリーブ。上記の2014年のものと、ほとんど変わらない。当時は勝浦駅の名前があり、価格に本体価格の別表記があり、左端の注意書きの文面も少し違った。
1959(昭和34)年に発売。昭和時代の勝浦駅や安房鴨川駅を代表した駅弁。市場に出荷できず地元で持て余した規格外アワビが、駅弁屋に持ち込まれたことが発売のきっかけだという。赤いプラ容器に酢飯を詰め、アワビ、ウニ、ホタテ、玉子焼、タケノコ、しいたけ、れんこん、ガリで覆う。アワビ入りの駅弁であることに違いないが、分量の問題で視覚でも味覚でも、その風味や雰囲気を感じるには根気を要す。保存技術の進化と物流の発展で、食材が世界中を飛ぶ平成時代以降の世の中では、産地に行けば高級食材を安価で味わえることは、もうないのだろう。価格は2009年時点で1,050円、2014年時点で1,100円、2020年時点で1,150円、2021年時点で1,250円。
※2022年12月補訂:写真を更新し解説文を整理2009(平成21)年10月23日に購入した、安房鴨川駅弁の掛紙。上記の2022年のものと変わらない。
上記の駅弁「あわびちらし」の、2002(平成14)年時点での姿、赤いプラ容器に酢飯を詰め、アワビ、タケノコ、しいたけ、玉子焼、ハス、ガリなどで覆っていた。アワビはどこかというと、写真の右上でバランに半身を預ける薄板3枚。昔はもっと入れていたのかもしれないが、2000年代にはアワビを探しながら食べたのにどこにも見つからなかったなどという感想が聞かれた。2002年の購入の数年後に、ウニやエビを入れて値段を上げて上記のものへリニューアル。
※2021年3月補訂:解説文を整理2009(平成21)年の発売か。コンビニ弁当のプラ容器に、醤油ベースで炊き込んだアサリの混ぜ御飯を詰め、豚串カツ、ごぼう天、玉子焼を載せ、ひじき煮と煮豆を添える。御飯もおかずも、体裁も風味もきれいな印象。価格は2010年頃で400円、2014年の購入時で450円、2019年時点で500円と、とても安い駅弁であったが、2019年10月に800円へ値上げ、2021年時点で864円、2023年6月から972円。2023年1月に安房鴨川駅のコンビニが閉店したため、前日まで5個以上での予約販売となった。
※2023年11月補訂:値上げと現況を追記安房鴨川駅や、かつての勝浦駅の幕の内弁当。ボール紙の箱には、行川(なめがわ)アイランド、鴨川シーワールド、イルカプール、太海フラワーセンター、仁右ヱ門島(にえもんじま)、鯛の浦と、近隣の観光名所が並べられた。中身は日の丸御飯に、エビフライ、鶏唐揚、焼鮭、玉子焼、ひじき煮、タラコ昆布などのおかず。海藻2種で南総の海の幸を演じたか、そうでないかもしれない、普通の幕の内駅弁。価格は2001年の購入時で630円、2015年時点で650円。2016年時点で売られていなかったようだが、2017年時点でパッケージの絵柄を新調し復活していた。2019年10月に800円へ値上げ、2021年までの販売か。
※2022年4月補訂:終売を追記し解説文を整理テレビ番組の企画から1996(平成8)年2月に誕生した駅弁。過去には八角形の容器の中にはサザエの炊き込み飯と、焼きハマグリ・菜の花・鯨竜田揚げ・鯵・ひじき等が入っていた。今回2009年の購入時では正方形の容器を使用、中身はサザエが3切れ載った炊込飯を中央に置き、クジラの竜田揚とさんが焼、コンニャクやサトイモやニンジンなどの煮物と玉子焼、煮魚とひじき、菜の花炒めと柿が四隅にそれぞれ詰められていた。作り置きや冷蔵をしていないためか、ふんわり心地良い風味。普通の柿は駅弁では初めて見た気がする。
安房鴨川駅のホーム上に駅弁屋の直営売店が存在した頃、ネット上などでの情報では普通に行けば買える駅弁のはずが、私が現地訪問を試みても無予約ではもちろん予約でさえも買えない、個人的に相性の悪い駅弁だった。駅弁の販売が改札外駅舎内のJR系コンビニに限られた訪問時点で、この駅弁はある程度の数がまとまれば作る予約限定駅弁になっていた。現存しないと考えられる。
掛紙には蒸気機関車が牽引する青い客車の列車が描かれるが、国鉄の動力近代化つまり蒸気機関車のディーゼル車や電気車への転換が早かった、そして長距離列車が乗り入れなかった房総半島で、こういう列車が走ったことがあるかは怪しい。1970(昭和45)年に千葉県内からSLが消えた後、1972(昭和47)年の鉄道百年でC57が走り、1989年8月に京葉線の新木場駅から蘇我駅まで「SLコニカ号」でD51が走り、2007年2月から4月までのJRグループ「ちばデスティネーションキャンペーン」に伴い同年2月に木更津駅と館山駅の間で運行された「SL南房総号」でD51が走り、2008年1月には再びD51が、2009年2月にはC57が房総を走った。
※2015年8月補訂:終売可能性を追記安房鴨川駅の幕の内弁当は特殊弁当より高価である。紙箱に白いトレーを入れるやや味気ない体裁で、中身は日の丸御飯に海老フライ・玉子焼・鶏唐揚・カンパチ照焼に帆立等の煮物類などが入っていたが、こちらも千円以上の駅弁としてはやや味気ない。630円の「わかしお弁当」より390円分高いはずの価値は感じられなかった。鴨川市街を見下ろすパッケージのイラストは良い。現存しない模様。
※2015年8月補訂:終売を追記