東京駅から上越新幹線「とき」で2時間強。新潟市は信濃川の河口で日本海に面した、人口約78万人の港町。水田や漁港から新幹線や空港までなんでもある、本州の日本海側では随一の大都市。駅弁は明治時代から売られ、新発田駅や新津駅の駅弁もここに来て、駅弁売店で多種が並ぶ。1904(明治37)年5月3日開業、新潟県新潟市中央区花園1丁目。
JR東日本のシニア向け商品「大人の休日」の駅弁として、2002(平成14)年3月に同社管内の各地で15種類が発売された駅弁のうち、新潟駅弁の新発田三新軒が出したもの。当時はそれほど注目されず、2007(平成19)年1月の阪神百貨店の駅弁大会での実演販売も人気でなく、現地や東京駅の駅弁売店「駅弁屋旨囲門」で細々と売られていたが、2009(平成21)年12月にTBS系列のテレビ番組「はなまるマーケット」で俳優の高嶋政宏が全国ベスト3の第1位に挙げたことにより東京で大人気の駅弁となり、現地や催事や他のメディアへも波及した。
ボール紙製のパッケージには、駅弁の名前と食材のイラストを描いた絵葉書が埋め込まれ、そのふたを開くと「おしながき」が登場する。中身は、新潟県産米の酢飯におぼろ昆布を敷き、甘くて厚めの玉子焼を貼り付け、えびそぼろを撒いたもの。具は実は飯と玉子焼の間に挟まれており、ウナギ蒲焼き、イカ一夜干し、コハダ酢締め、蒸しエビをていねいに並べる。知っていれば玉子焼をめくれば、知らなければ食べ始めた後に、主題が湧いてくるという仕掛け。味はもちろん、購入から空き箱処分まで長い間楽しめる製品構成の工夫がおいしくいただける。また、豪華な駅弁として東京駅で好評を博す。価格は2018年9月から1,350円、2019年時点で1,380円、2022年4月から1,500円。
駅弁屋の「三新軒」とは、県内最大のターミナル駅である新潟、信越本線・羽越本線・磐越西線が交わる鉄道の要衝である新津、羽越本線に新潟からの白新線が合流する新発田の駅弁屋が一緒になる際に、駅名の頭文字から付けられた。後に新潟と新発田が分離したが、2003年頃から新発田と無印本家の三新軒は経営統合をしている模様。その証拠に、移転後の新発田三新軒の住所が三新軒と同一である。
※2022年4月補訂:値上げを追記2015(平成27)年11月3日に購入した、新潟駅弁のパッケージ。発売当時から2021年時点まで、主な所には変化がない。これは東京駅で購入し、消費期限のシールに「県外店舗」の文字が見えるが、現地版との違いは分からない。
2003(平成15)年11月16日に購入した、新潟駅弁のパッケージ。このとおり「えび千両ちらし」は、2002(平成14)年3月の発売当時は、JR東日本のシニア向け商品「大人の休日」のひとつであった。
1951(昭和26)年に新潟駅で発売。笹の葉の色に萬代橋などを描くボール紙の箱に収めた正八角形の折箱に、小鯛の握り寿司を7個と奈良漬けの細巻きを4個、笹の葉に並べて置く。このような姿のアジ寿司やタイ寿司などの駅弁は、各地で酸味が強い傾向にあると思うが、この小鯛の甘酢漬はとてつもなく酸っぱく、食べると涙が出てきて、食べ終わると吸う空気まで甘く感じるほど強烈。どうもこれは異常でも製造ミスでもなく本来の姿のようで、この味が大好きだったという声も聞いた。見ただけではそれほど個性的には思えない、味でおそらく空前絶後、そして唯一無二の存在。価格は2002年時点で920円、2011年時点で980円、2015年時点で1,050円。
※2022年1月補訂:写真を更新し解説文を手直し2002(平成14)年3月24日に購入した、新潟駅弁の紙箱。上記の2021年のものと、値段と調製印以外は何も変わらないと思う。
2000(平成12)年の発売。細長い長方形の木目調容器にフタを押し込み、駅弁の名前にマス、サケ、カニのイラストを添えたデザインの紙ぶたをさらにかけ、透明な帯をする。中身は酢飯の上に「ま」(マス)、「さ」(鮭フレーク)、「か」(カニフレーク)、「いくら」と錦糸卵をこの順番に敷き詰める。味はもちろん、ユニークな駅弁の名前のこの由来がパッケージにそれとなく書かれている点も、旅の印象に残るはず。また、この構成だと飯のうまさが感じられる気がした。価格は2009年時点で1,050円、2015年時点で1,100円、2018年9月から1,150円、2022年4月から1,250円。
※2022年4月補訂:値上げを追記2007(平成19)年11月18日に購入した、新潟駅弁のふた。中身や味は上記の2018年のものと同じ。絵柄もほぼ同じ。構造にふたかスリーブかの違いがある。
2019(平成31)年の発売か。駅弁の長い名前のとおり、小柄な容器にコシヒカリの酢飯を詰め、ニシン、タラコ、ボイルえび、鮭フレーク、いくら、ウニ、カニ、とろろ昆布で覆う。ごちゃまぜの具と味が賑やか。
その名のとおり、鮭の押し寿司の駅弁。四角い木箱に笹の葉を敷き、酢飯を詰め、鮭で覆い、ふたでしっかり押す。富山駅で有名な駅弁「ますのすし」が、四角くなり、鮭になった感じ。駅弁での鮭の押寿司は過去に各地で買っていて、薄さも食感も風味もまるで紙のようなものばかり当たっていたが、これは富山駅弁ますのすし級の厚さと柔らかさと脂の乗りがあるおいしさ。
2013(平成25)年8月に発売。酢飯の上を、新潟県の岩船漁港で水揚げされた柳がれいの素揚げ4枚で覆い、妙高ゆきエビの素揚げを載せ、赤カブ漬と甘酢生姜とレモン果汁を添える。つまりカレイ素揚げ丼という、他の駅弁にない珍品であり、これはうまい。酢飯でなく白飯で食べたかったとは思う。価格は2014年の購入時で1,200円、2017年時点で1,250円、2022年4月から1,350円。
※2022年4月補訂:値上げを追記JR20周年記念駅弁の新潟駅版として、2007(平成19)年の夏頃に発売か。その20という数字を派手に、しかもふたを二重にして窓開きで商品名を書くという凝りようで描く、なんともはじけたパッケージ。
小柄な長方形の容器に収まる中身は、酢飯の上にわさび菜を散らし、車海老のボイルとサンマの酢締め炙りで半分ずつ覆い、その隙間を刻み玉子焼とガリで埋めるもの。プリプリのエビとジューシーなサンマに、酢飯混入のワサビや上にかけた昆布でアクセントを付ける風味は実力派で、食べればファンになりそう。後に黒い掛紙に「くるまえびとさんまのすしあわせ」と書く姿へ、容器をリニューアル。価格は2007年の発売時や購入時で1,050円、2015年時点で1,100円、2019年時点で1,150円、2022年4月から1,250円。
※2022年4月補訂:値上げを追記2018(平成30)年8月の発売。駅弁の名前には、押寿司のようなものであることと、サバとサケを比べることと、その具がおしくらまんじゅうのように詰まっていることが、込められているのではないかと想像する。押寿司向けに見える四角い容器に笹の葉を敷き、酢飯を詰め、塩サバの炙りスライスを重ね、鮭の焼漬のほぐし身を詰め、玉子焼と漬物で彩る。
中身の見た目に加え、押寿司でない中身も外観も、新作らしからぬ野暮さと前世代感を持ちながら、脂の乗りでうまい味が、やはり新作らしからぬ安心感や安定感を持つ。2019年のJR東日本の駅弁キャンペーン「駅弁味の陣2019」にエントリーされており、実際に食べた人から良い票が取れそう。パッケージに貼られた価格シールの「県外店舗」表記が気になる。
1年間ほどの販売か。2021年の夏に再発売されたようで、同年10月のJR東日本の駅弁キャンペーン「駅弁味の陣2021」にエントリー。
※2021年10月補訂:再発売を追記名前と価格が異なるが中身がまったく同じなので、下記の駅弁「万代押寿し」のリニューアル品ではないかと思う。今回は酢飯の酢がとても強く、新潟米コシヒカリの風味はいずこへ。新潟米やコシヒカリの人気も近年は低落気味で、駅弁屋にとっても試練だと思う。2011年頃まで販売か。
新潟市街で信濃川に架かる万代橋は、2004(平成16)年年7月に国の重要文化財に指定されたことを受けて、その名称を「萬代橋」へ戻すとともに、創建当時の姿を意識したリニューアルをかけた。30〜50年経てば架け替えることが当たり前である道路橋が、これほど長期の使用に耐える主因は、もともとこの橋には路面電車を通す計画があったため、それに対応する強度と幅員を持たせていたことにあると思う。電車は実現しなかったが、橋は後の自動車社会の到来で思わぬ効用を発揮した。
※2015年9月補訂:終売を追記長方形の木枠の中に中身を詰めて、ふたをゴムでしっかり押したものを、ボール紙製パッケージに収める。ふたを取ると中身は3分割され、笹の葉の隙間から具がチラリと見えるとおり、そしてパッケージ記載のとおり、たい(小鯛)・さけ(紅鮭)・えび(蒸しえび)の押し寿司が詰まっている。新潟駅弁は鮭と米が美味いが、この駅弁もそのとおりで、鯛と海老は添え物のようなもの。生笹の香りとともにいずれもおいしくいただける。価格は2002年の購入時で920円、2009年時点で980円、2014年4月の消費税率改定で1,000円。2018年までの販売か。
1886(明治19)年に信濃川の下流域の、新潟町と沼垂町の間に架けられた長い木橋には、よろず代までも新潟の発展へ寄与することを願い、「萬代橋(よろずよばし)」と名付けられた。これがいつしか「万代橋(ばんだいばし)」と呼ばれるようになったという。焼失による掛け替えで1909(明治42)年に二代目となり、現在のものは1929(昭和4)年の三代目。1964(昭和39)年の新潟地震では、隣に架けられたばかりの昭和大橋が崩壊したのに、万代橋はほぼ無傷だったとか。
※2019年8月補訂:終売を追記2017(平成29)年1月の阪神百貨店の駅弁大会で売られたお弁当。「働く女子のためのOLランチ弁当」と銘打って、駅弁屋11社の社名と代表作を名前にした11種の商品を、同じサイズと価格で輸送販売した。しかし話題にならず、買う人もなく、輸送駅弁売り場の端にまとめて置かれ、輸送駅弁が売り切れる頃になるとようやく客に買われていった。
これは商品名のとおり、新潟駅の駅弁屋である新発田三新軒のもの。酢飯をイクラと柳がれい素揚げで覆い、揚げエビ、豚漬焼、玉子焼、サツマイモ、笹団子などを添える、実におっさん向けなおつまみ弁当だった。