和歌山駅から特急で約40分または普通列車で約1時間。御坊市は和歌山県の中部で紀伊水道に面する、人口約2.3万人の寺町。エンドウ類や果樹類と花卉などの農業と麻雀牌の生産、鉄道ファンにはミニ私鉄の存在で知られる。駅弁は駅開業まもない頃から売られ、駅舎の隣の食堂で稲荷寿司や早なれずしなどを販売していたが、2014年に閉店した。1929(昭和4)年4月21日開業、和歌山県御坊市湯川町小松原。
1953(昭和28)年に発売された、御坊駅のいなりずし。キツネを描いた黄色く細長い紙箱に、丸く小さなおいなりさんを5個並べた容器を収める。軽い甘さと辛さが調和したおあげに包まれた、もちっとした食感の椎茸や胡麻の混じり飯は、汽車旅で小腹が空いた際や口元が寂しい時にすいすい入る味とサイズ。2004年度JR西日本「駅弁の達人」対象駅弁。
この駅弁は駅弁屋の閉店により、2014年には買えなくなっていた模様。
※2015年4月補訂:終売を追記上記の駅弁「子安いなり寿し」の、2004年時点での姿。見た目と内容は変わらないものの、容器が惣菜向けのプラ容器になっていた。これで中身の水分が閉じ込められてしまい、容器の調湿効果が失われ、もちっとしていたいなりずしに少々のベチャつきが感じられた。コストや調達の問題はあるのだろうが、容器の変更は残念に思えた。
1969(昭和44)年までに御坊駅で発売か。御坊駅の名物駅弁で、全国で唯一のなれずし駅弁だと思われる。紙と木でできた長方形の容器にすき間なく、飯にサバを合わせ笹の葉で巻いた筒を6本並べ、清姫と駅弁の由来を書いた専用の紙箱に収め、JR西日本管内の駅弁屋の団体の公式サイト「駅弁図鑑」のURLを記したシールで留める。
寿司のルーツといわれ、今も紀州で親しまれる、柔らかく炊いた御飯にこうじと塩魚を合わせ、重石を載せて約1〜2週間漬けた発酵食品である「なれずし」。これを食酢を使って一晩や数時間で完成させた「早なれずし」が、この駅弁。少々の独特な酸味がある。しおりには2〜3日目が食べ頃と書かれ、しかし法令の制限からか消費期限は当日限り。2004年度JR西日本「駅弁の達人」対象駅弁。
駅弁の名前にされた安珍清姫伝説は、紀州国の道成寺(どうじょうじ)にまつわる伝説。のちに安珍(あんちん)とされた旅の僧が、のちに清姫(きよひめ)とされた宿の娘に気に入られ、帰りに立ち寄る口約束で逃げた安珍に激怒して追いかけるうちに蛇身へ変身した清姫が、道成寺の鐘で安珍を焼き殺すストーリー。江戸時代までに能や歌舞伎や浄瑠璃などの今でいう伝統芸能の題材として親しまれた。道成寺駅から徒歩5分、御坊駅から自転車で5分の道成寺では今も、絵とき説法によりこの物語を随時紹介する。
この駅弁は駅弁屋の閉店により、2014年には買えなくなっていた模様。
※2022年8月補訂:解説文を手直し御坊駅の幕の内駅弁。市販の高級仕出し弁当向け容器に、日の丸御飯に漬物を添えたトレーと、とんかつ、肉団子、かまぼこ、玉子焼、高野豆腐、うぐいす豆、みかんなどを入れたおかずのトレーを詰める。注文すると冷蔵のおかずと詰めたてホカホカの御飯をその場で収めた、駅弁とホカ弁の合いの子のようなもの。2003年の購入当時で1,000円を超える幕の内弁当に相当するほどの高級感はなく、上記の他の駅弁にするか、これを売る食堂で普通に食事をしたほうがよかったと思った。
この駅弁は駅弁屋の閉店により、2014年には買えなくなっていた模様。
※2022年8月補訂:解説文を手直し