新大阪駅から新幹線と特急列車「やくも」を乗り継いで約3時間。米子市は鳥取県の西端で日本海と中海に面した、人口約15万人の城下町。県庁所在地でないにもかかわらず、商業都市として山陰地方を代表する都市のひとつとなっている。駅弁は国鉄時代からの駅弁屋が「吾左衛門鮓」シリーズなどの駅弁を販売。1902(明治35)年11月1日開業、鳥取県米子市弥生町。
翌年の大山(だいせん)の開山1300年を記念して、2017(平成29)年4月までに発売。発売当時は2017年5月から2019年10月まで鳥取県が実施した事業「大山開山1300年祭」のロゴマークを初めて付けた新商品として、その発売は鳥取県知事が同席し記者発表された。長方形の容器に被せた紙のふたには、商品名とおしながきと、中身とした3種の鳥料理の名前と写真を描く。
中身は半分が鶏飯で、白飯を大山どりの鶏そぼろと玉子そぼろで覆い、紅生姜で彩るもの。半分がおかずで、大山どりの照り焼き、大山どりの油淋鶏(ゆーりんちー)または中華風酢鶏、大山高原野菜のお漬物、季節のお浸し、玉子焼、ちくわ磯辺揚、にんじんとだいこんの煮物、花れんこん。鳥取県米子市の鶏肉製造工場の商品「大山どり」をふんだんに使った鶏飯。価格は2017年の発売時で1,200円、2020年時点で1,250円、2023年時点で1,296円。
1970年代に発売された昭和時代からの駅弁で、鳥取県西部の郷土料理「大山(だいせん)おこわ」が駅弁になったもの。竹皮編みの容器に、シイタケと鶏肉を混ぜてニンジンとクリを載せた五目おこわを詰め、玉子焼、山芋とカニの磯辺揚、鶏つくね、とうふちくわ、カボチャやエビなどの煮物を添える。御飯の密度が高いので、見た目の分量以上に満腹感がある。価格は2010年時点で840円、2013年時点で1,000円、2014年4月の消費税率改定で1,030円、2020年時点で1,050円、2023年時点で1,404円。
大山おこわは、鳥取県西部の大山山麓、伯耆国の汗入(あせり)エリアの郷土料理。祭事の料理としてのおこわそのものを指すようで、おこわであることと、できれば醤油味であること以外に、定義のようなものはないらしい。この駅弁も含め、商品やレシピで見る大山おこわはだいたい、醤油味の五目おこわ。大山の向こう側の岡山県真庭市や美作国の蒜山(ひるぜん)には、もち米に鶏肉や油揚げその他をふんだんに混ぜて蒸すという、結果的に大山おこわと同様の内容となる郷土料理、蒜山おこわがある。
※2024年9月補訂:写真を更新し値上げを追記2014(平成26)年11月1日に購入した、米子駅弁のスリーブ。上記の2024年のものと変わらない。中身も容器も変わらないのに、それでいて2023年までに急激な値上げをした理由は、よくわからない。
2014(平成26)年の発売か。白飯を牛肉で覆い、白ネギ焼と紅生姜とタレを付け、玉子焼とラッキョウ漬を添える、全国各地でよくあるタイプの牛肉駅弁。米子駅の駅弁は「吾左衛門鮓」シリーズその他、棒寿司や酢飯の駅弁だらけなので、こういう普通のものがあると不思議な感じ。固めの味は、ふわふわしていた。価格は2016年時点で1,080円、2020年時点で1,100円、2023年時点で1,458円。
※2024年9月補訂:値上げを追記「くいしん坊」や「山陰名物舟子弁当」の副題が見える。掛紙によると、寛永年間、廻船問屋・米屋、吾左衛門の妻が村祭の御馳走に、舟子達に作ったと伝えられる舟子弁当だそうな。ふたまで経木折なのに、白いプラ製トレーにすべて収めた中身は、山菜おこわ、カニ寿司、吾左衛門鮓鯖、エビフライ、かまぼこと玉子焼、漬物などで、御飯たっぷりの内容。名前からして幕の内駅弁かと思ったら、そうではなかった。
調製元の駅弁屋は、江戸時代に米問屋と廻船問屋、今でいう米穀商社と海運会社を営んでいた。機械がない時代に多くの人員を雇用していたのだろう、その舟子つまり船頭か船員への、賄い飯かボーナスか。しかし当時にこんな内容の弁当を調製できたのかどうか。価格は2010年時点で1,220円、2014年4月の消費税率改定で1,260円、2020年時点で1,400円、2023年時点で1,728円。
※2024年9月補訂:値上げを追記2011(平成23)年10月3日に購入した、米子駅弁の掛紙。上記の2020年のものと同じで、容器や中身も同じ。よく見比べると、2つのロゴマークの有無、調製元の所在地、「毎度ありがとうございます」の表記に差異がある。
大きなパッケージに収まる井形の硬いプラ製容器に酢飯を敷き、錦糸卵を貼り、カニの細身なほぐしと脚を流す。高価で美味な「吾左衛門寿し」を名乗る片鱗を感じる。付合せの昆布がよく合っている。価格は2013年の購入時で950円、2019年時点で980円、2020年時点で1,200円、2023年時点で1,350円。
※2024年9月補訂:値上げを追記米子駅の幕の内駅弁。駅弁の名前を書いた専用のボール紙箱を使用、白いプラ製トレーに収まる中身は、日の丸御飯に奈良漬、かまぼこと玉子焼とうなぎ蒲焼、シジミ煮、マス唐揚、ワカサギ甘露煮、ニンジンやサトイモなどの煮物、焼サバ、ちくわ磯部揚、ひじき煮、煮豆、パインとチェリーなど。初見は仕出し弁当風も、多種のおかずの味が常温で生きる駅弁の鑑。価格は2010年時点で920円、2014年4月の消費税率改定で950円、2020年時点で970円、2023年時点で1,188円。
※2024年9月補訂:値上げを追記秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2008(平成20)年秋の新商品か。酢飯を錦糸卵で覆い、サバとマスとカニとアジと玉子焼をサイコロ状に刻んで散らし、イクラも散らし、吾左衛門鮓鯖1切れと玉子焼と海藻佃煮を添える。写真よりも実物で、御飯の部分がキラキラと光り、みずみずしい味を持つ。箸でいただくには、つまみ上げにくくはある。価格は2013年のリニューアル当時で980円、2014年の消費税率改定により1,000円、2020年時点で1,200円。2022年時点で名前を「海の宝石箱」に変え、同年内に終売か。
※2024年9月補訂:終売を追記米子駅の駅弁「海の宝箱」について、2016(平成28)年1月の京王百貨店の駅弁大会で、容器に「51回記念元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」どんぶりを使い、一日あたり300個を1,500円で実演販売したもの。前年に名古屋駅「抹茶ひつまぶし日本一弁当」で同じことをした際には、連日即売切の大人気であったのに、これは不人気。中身は通常版と同じはずが、暖かく乾燥した催事場で長く留め置かれたためかどうか、酢飯は酸味が強く、具はパサパサで、いつもの味が出ていなかった。
上記の駅弁「海の宝箱」の、2008(平成20)年の発売当時の姿。酢飯を錦糸卵で覆い、サバ、マス、アジ、カニ、玉子焼とイクラを散らす趣旨は同じ。当時は付合せが漬物のみで、飯と具が多く、値段も高かった。2013年にリニューアル。
※2021年2月補訂:新版と旧版で解説文を整理2013〜2014年の駅弁大会シーズンのみの販売か。現地で売られたかは定かでない。丼に酢飯を詰め、錦糸卵、カベニズワイガニのほぐし身、玉子焼、白いか、イクラを散らし、奈良漬けを添える。柔らかいイカの香りを楽しめた。
2014(平成26)年1月の京王百貨店の駅弁大会と阪神百貨店の駅弁大会で登場。商品名は「復刻版吾左衛門弁当」ともされる。戦前の米子駅弁の掛紙でデザインした、駅弁催事業者マーク入りの掛紙を使う。中身は米子駅弁のカニ飯、サバとサケの吾左衛門鮓、赤貝しぐれ煮、玉子焼、ちくわ磯辺揚、野菜の酢の物、パイナップルとサクランボなどで、たしかに現行の吾左衛門弁当に似ている。何も知らずに、食べてもおいしいお弁当。催事場以外で売られるかは、定かでない。値段は2014年の購入時で1,000円、2015年から1,030円、2018年から1,080円。2019年の京王百貨店の駅弁大会までの販売か。
※2024年9月補訂:終売を追記クリーム色で正六角形のボール紙製容器には、カニが中海に漬かっているようなマンガが描かれる。白いプラ製トレーに収まる中身は、酢飯を錦糸卵で覆いベニズワイガニのほぐし身と細いカニ脚肉を載せ、パイナップル、しじみ、ワカメ佃煮、奈良漬、さくらんぼを添えるもの。つまり古き佳き時代からの山陰地方特有のカニ寿司駅弁。パインとさくらんぼを詰める点にも古めかしさが出ている。価格は2011年の購入時で1,020円、2014年4月の消費税率改定で1,050円。2017年までの販売か。
※2020年4月補訂:終売を追記円形の硬いプラ製容器に、ウナギ蒲焼の写真やウナギのイラストなどを描いた掛紙をかける。中身は茶飯を錦糸卵で覆い、ウナギ蒲焼を3切れ載せて、たれとナス漬けとはじかみとさくらんぼを添えたもの。メインのウナギは安っぽい弾力感のあるものであったが、分量は確保されているし、見栄えも掛紙写真と同じ。価格は2011年の購入時で920円とお買い得だったが、ウナギの高騰のためか、2014年時点で1,260円、2015年時点で1,300円に値上げ。2015年までの販売か。
※2021年2月補訂:終売を追記秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2008(平成20)年秋の新作で、吾左衛門酢(吾左衛門寿し)の実演販売での併売商品として誕生したと思われる。プラ製の井形の容器に、表面に商品名を、裏面に由来文を書いたボール紙でふたをする。中身は茶飯の上に赤貝(サルボウ貝)を30個程度ばらまき、昆布巻や玉子焼、カマボコ揚や煮物などを添えるもの。
催事場ブースでの主役は吾左衛門鮓で揺るぎないだろうが、こちらも味で負けないなかなかの駅弁。現地で販売されているかは分からないが、赤貝飯は出雲の郷土料理であるため、駅弁になくても食堂や弁当で食べることはできるだろう。価格は2008年の購入時で900円、2014年4月の消費税率改定で930円。2017年までの販売か。
※2024年9月補訂:終売を追記JR西日本の駅弁キャンペーン「駅弁の達人」の実施に伴い、2004(平成16)年5月1日に発売。経木枠の長方形の容器に木目調のふたをして、昭和9年頃のデザインを取り込んだ掛紙をかけて、紙ひもでしばるのは正統派の駅弁スタイル。中身は2枚の経木で斜めに仕切り、大豆・押麦・いりごま・玄米・キヌアの五穀米を五角形に詰め、鶏照焼や穴子巻やハタハタ唐揚げを加え、イワシ団子や玉子焼などを添える。食材は主に地元産品を使用したそうで、内容でも薄味な風味でも健康志向が感じられる駅弁。2004年度JR西日本「駅弁の達人」対象駅弁。現在は売られていない模様。
※2013年5月補訂:終売を追記上記の駅弁「山陰吾左衛門寿し本舗蟹寿し」の、2001(平成13)年時点での姿か。長方形のボール紙製のパッケージにホカホカ弁当風な簡素な容器が入る。中身は酢飯の上に錦糸卵とカニの身が載るだけのシンプルな構成。昭和中期には登場しているはずが、なぜか時刻表や調製元のウェブサイトなどの資料に登場しない、幻?の駅弁。ただし味はよい。
昭和40年代のものと思われる、昔の米子駅弁の掛紙。今も米子駅を含め、山陰本線の沿線各地にはカニの駅弁が存在するが、昔のように松葉がにを使うことは、もうできないだろう。