東京駅から新幹線で約3時間半。岡山市は岡山県の中央に位置する、人口約71万人の城下町で県庁所在地。市街に複数の百貨店を抱える商業、臨海部や内陸部に工業団地を抱える工業や、桃や米などが特産の農業が盛んであるほか、新幹線に8方向からの在来線が集まる鉄道の要衝でもある。駅弁は明治時代の鉄道開業当時からの駅弁屋の駅弁から、地元の弁当屋が駅構内の店舗に卸す弁当まで、様々なものを朝から晩まで選べる。1891(明治24)年3月18日開業、岡山県岡山市北区駅元町1丁目。
2019(平成31)年4月20日に岡山駅で発売。調製元と岡山県立岡山南高等学校の商業クラブと中国四国農政局との、産学官連携事業で開発された商品。販売初日は生徒4名が店頭に立ち、予定の70個を超えて150個を販売したという。正方形の容器に被せたふたには、商品名と中身の写真に、高校生セレクトや産官学連携といった紹介文も軽く記される。
9区画の中身のおしながきは、ふたの側面に記載。えびめし、祭ずし、岡山県産赤米入りおにぎり、さわらの西京焼き、アミエビ黄ニラ野菜かき揚げ、森林どりピザチキン、きびだんご、デミカツ、桃太郎ポークの焼肉風。御飯が3区画あるから食事にも、多種なおかずでおつまみにも、岡山の味覚だけで構成された郷土料理としても活用できる、ポップな見た目で見落としそうな実力派。価格は2019年の発売時で1,180円、2023年時点で1,280円、2024年時点で1,380円。
2024(令和6)年4月10日に岡山駅で発売。JR西日本岡山グループが2015年3月から実施する、岡山・備後エリアの観光開発・誘客事業「ふるさとおこしプロジェクト」の一環で、2021年に発売した岡山県漁業協同組合連合会の共同開発商品「岡山海苔天」の、販売者である岡山県漁業協同組合連合会と、調製元の三好野本店と販売元のジェイアールサービスネット岡山が連携し、岡山県産のおいしい「黒」をテーマに開発した駅弁だという。養殖の海苔や牡蠣を食べる被害が増えているクロダイの消費拡大のために駅弁を開発したとも紹介される。
黒くない容器を収める黒いスリーブは、海苔とその養殖の絵柄でできている。中身は岡山県産黒鯛の竜田揚げ、黒さが光る岡山県産の若海苔、岡山県産作州黒(黒豆)、岡山県産朝日米、岡山県産牛肉しぐれ煮、岡山県産森林どりの照り焼き、とある。白飯を海苔で覆い辛子明太子を載せ、タイの竜田揚げ、鶏照焼、牛肉しぐれ煮、れんこんの辛子マヨ和え、えび南蛮漬とがんもどきと玉子焼、花にんじん、ひじき煮、黒豆とさつまいも。食べれば黒も海苔もそれほどには感じられない、おいしい幕の内弁当。
2022(令和4)年10月3日に岡山駅と新大阪駅と新神戸駅と東京駅で発売、31日まで販売。日本鉄道構内営業中央会の鉄道開業150年記念復刻駅弁企画により、同月から期間限定で販売された31社34駅弁のひとつ。この年の8月に発売した「黄ニラあなごめしと岡山づくし」の、スリーブを差し替えたもの。この版の販売は年内か年明けまで続けたようで、1月の京王百貨店の駅弁大会でも輸送販売。
スリーブには昔の駅弁掛紙3種類を、1950年代のものを大きく、第二次大戦前のものを小さく載せた。中身は最新の岡山駅弁づくし。中央で御飯を濃淡の焼穴子と煮穴子で覆い、四隅は千屋牛の牛丼、たまごカツ、焼き鶏丼、きびだんご。値段も記念で高額なお弁当。
山陽新幹線全線開業40周年を記念して、新神戸、姫路、岡山、福山、広島、小倉、博多の各駅で10種類が誕生した記念駅弁や復刻駅弁の、岡山駅バージョン。記念日の2015年3月10日から、ちょうど1年後の2016年3月9日までの販売。パッケージには開業時の写真や山陽新幹線の年表が記される。
中身はアナゴ飯、赤米入り俵飯と白米の俵飯、豚唐揚、鶏照焼、海老天、ナスやニンジンなどの煮物、シラスと小松菜のおひたし、レンコンの和え物、ひじき煮、サツマイモきんとんなど。メリハリのある多種多様ななんでもまるごと弁当で、満腹でなければ車内販売からビールを買い求めるべき内容。販売期間を過ぎても、継続して売られている模様。価格は2015年の発売時や購入時で1,000円、2022年8月から1,100円、2023年6月から1,200円。
山陽新幹線(新大阪駅〜博多駅)は、1975(昭和50)年3月10日の全通。総論として華やかな歴史に彩られる他の新幹線と違い、国鉄の値上げと赤字と破綻、二度のオイルショックを経た日本経済の低成長、瀬戸内や北九州の工業地帯を襲った産業構造の変化、航空輸送との厳しい競争、コンクリート構造物の劣化などなど、2011年3月の九州新幹線鹿児島ルートの全通により列車と車両と行き先が賑やかになるまで、様々な課題に直面し続けたのではないかと感じる。
※2022年9月補訂:値上げを追記2015(平成27)年頃のものと思われる、岡山駅弁のスリーブ。駅弁の名前は上のものと同じだが、こちらの表面には山陽新幹線開業当時の写真がない。
JR西日本の駅弁キャンペーン「駅弁の達人」の実施に伴い、2004(平成16)年5月1日のリニューアル。この時点で発売から15年が経過したという割に、過去の収穫報告がまったくといってよいほど見つからないのは、明治時代からの駅弁屋がいる岡山駅で、JR系の売店で駅弁屋でない業者の弁当が売られたことが、旅客などに駅弁と見てもらえなかったためか。
長方形の容器をふたつ重ねて、華やかな赤いパッケージに収める。中身は下段に海苔を着て具が顔を出す「天むす」の三角おにぎりが、海老・げそ・ししとうで三種五個、上段に鰆西京焼や若鶏照焼など多種のおかずで、メリハリの利いた味が好ましい。
岡山が発祥といわれる民話「おむすびころりん」のあらすじがしおりで入るので、駅弁との関連も書いてあげれば、なお良かった。2004年度のJR西日本の駅弁キャンペーン「駅弁の達人」の対象駅弁。価格は2004年の購入時で1,000円、2014年4月の消費税率改定で1,030円、2021年時点で1,080円。
※2021年3月補訂:値上げを追記2022(令和4)年8月1日に岡山駅で発売。岡山駅弁の三好野本店と倉敷市の養鶏業者である阪本鶏卵とのコラボ商品。長方形のプラ容器に味飯を詰め、きんぴらごぼうで覆い、岡山県井原市美星町の阪本鶏卵美星農場で生産する鶏卵「星の里たまご」の厚焼き玉子を挙げた玉子カツを4切れにカットしたものを載せ、いぶりがっこ入りポテトサラダ、大根おろしたれ、七味唐辛子を添える。飯のおかずに困るかもしれないけれど、たまごカツとは他の駅弁では見たことがない、斬新な内容。2023年6月15日限りで終売。
※2023年6月補訂:終売を追記2021(令和3)年9月1日に発売。調製元によると2014年発売の「出張帰りのおつまみ弁当」の復刻版といい、松竹の映画「あさひるばん」の公開を記念して2013年11月20日から12月28日まで販売されたその名前の駅弁の流れを汲むものだと思う。
スリーブに描かれた昔ながらの飲み屋街は、今の岡山に現存するのだろうか。中身はその「お品書き」のとおり、従前の焼き物と稲荷寿司の内容を一新し、8区画の容器にデミカツ、さわら白醤油焼き、煮物(たこ・野菜)、祭ずし、あさりの佃煮、牛肉しぐれ煮、鶏ももネギ塩焼き、ポテトサラダが収まる。おつまみを名乗るも御飯の存在感があり、値段も分量も一食分。2022年までの販売か。
※2023年5月補訂:終売を追記2019(令和元)年9月1日に発売。岡山駅で分割・併合して、東京駅と出雲市駅を結ぶ寝台特急列車「サンライズ出雲」と、東京駅と高松駅を結ぶ寝台特急列車「サンライズ瀬戸」がテーマ。スリーブには列車の走行写真が使われるが、おそらく伯備線を単独運行するサンライズ出雲のものであり、瀬戸の姿がない。
中身は列車の目的地である出雲と香川にちなみ、味付飯を鮭塩焼と玉子焼ではみだして覆い、鶏照焼、ハス和え、シジミ佃煮、醤油豆などを添えるもの。ささやかなおつまみ駅弁。1998(平成10)年7月の運行開始から21年2か月、特段の話題も記念もないのに、なぜこのタイミングでこのような駅弁が誕生したのかが不思議だった。2020年8月限りで終売。
※2021年3月補訂:終売を追記2017(平成29)年9月1日に発売。パッケージには香川の栗林公園、徳島の鳴門の渦潮、愛媛の道後温泉、高知の桂浜・坂本龍馬像で四国4県の名所イラストと、四国4県分の中身のおしながきが描かれる。中身は右上が香川のたこ飯としょうゆ豆、右下が徳島の阿波尾鶏とうなぎご飯、左上が愛媛の鯛めしとすき焼き風牛肉煮、左下が高知の生姜風味のかつおご飯と土佐煮。御飯が本当に四種あり、それぞれがおかず要らずの味で、おかずをおつまみにできる、呑めて楽しい賑やかな駅弁。半年間ほどの販売か。
※2019年8月補訂:終売を追記2015(平成27)年7月24日の発売。岡山県高梁市の備中松山城が、駅弁の名前とパッケージの写真に使われる。中身はつまり鶏飯で、茶飯を鶏照焼のスライス、シイタケやタケノコなどの煮物、アユ甘露煮、きんぴらごぼう、菜の花で覆い、ゆべしを添えるもの。ゆず味噌の使用で柑橘系の香りが広がり、風味を印象付ける。駅弁大会よりむしろ、現地で買って新幹線で食べて美味い駅弁。2016年5月頃までの販売か。
松山城、愛媛県松山市の松山城と区別するため通称「備中松山城」は、仁治元年(1240年)の築城とされ、戦国時代に今の石垣と天守ができた山城。天守は全国12箇所の現存天守で最も高い、標高約430メートルに位置する。雲海に浮かぶ城跡の写真で「日本のマチュピチュ」と観光客が何十倍にも膨れ上がった兵庫県朝来市の竹田城と同じように、冬場にパッケージの写真のように雲海の上に浮かび上がることがあり、2016年には登城者が年間10万人に達する見込み。城主はパッケージの内側の表のとおり、目まぐるしく変わった。
2014(平成26)年9月1日に発売。JR西日本岡山支社とジェイアールサービスネット岡山と三好野本店との連携による、玉野市の地域の魅力を活かした駅弁。もち麦を混ぜて蒲焼きのたれで炒めた雑穀飯にアナゴを混ぜ、温玉という半熟卵のようなものを載せて紅生姜を添える。紙帯に説明文があるとおり、これが岡山県玉野市のご当地グルメ「たまの温玉めし」。それを知らずとも、駅弁として廉価な穴子飯。1年間ほどの販売か。
たまの温玉めしとは、玉野商工会議所と玉野市観光協会が毎年開催するイベント「たまの・港フェスティバル」の、2010(平成22)年5月の第14回で最優秀賞を得た「玉野市のB級ご当地グルメ」で、雑穀入りご飯と穴子の焼き飯に温泉たまごをトッピングしたもの。2011(平成23)年11月から翌年3月まで、土休日にJR宇野駅の玉野市観光案内所で駅弁を名乗り販売されたという。以後も全国各地のB級グルメイベントや玉野市内のスーパーで売られるという。公式な駅弁になったのはこの時だけ。
岡山駅の無名駅弁。木枠の長方形の容器に、商品名や駅弁マークなどを印刷した掛紙を巻く。中身は太巻きが1本、9切れにカットされて詰まる。贅沢な一本に仕上げた、具材も豪華に7種類、巻ずしの駅弁は全国的に珍しい、などの公式発表があるものの、単に食べただけでは地域性を感じられない、しかし食べておいしく腹持ちもする惣菜だった。価格は2009年の購入時で850円、2014年4月の消費税率改定で880円、2022年8月から1,000円。2022年までの販売か。
※2023年6月補訂:終売を追記山陽新幹線の新大阪駅〜岡山駅の開業30周年を記念して、新大阪・大阪・新神戸・西明石・姫路・相生・播州赤穂・岡山・福山・新尾道・尾道・三原・広島の13駅で2002(平成14)年3月15日から、共通デザインの掛紙と約千円の価格で約2か月間の期間限定にて一斉に売り出した記念駅弁の岡山駅版。
「30」種の食材を用いた「さんじゅう」重ねの幕の内弁当で、価格は1,0「30」円。下段に1個「30」グラムの俵飯を6つ詰め、上中段にエビフライや焼き魚や牛肉など焼物煮物和え物を並べている。これが千円ちょっとで購入できるとは、まさに記念駅弁。販売期間は後に年内まで延長された。
ところで、山陽新幹線の開業日は新大阪駅〜岡山駅の開業日である1972(昭和47)年3月15日とされているが、新大阪駅〜岡山駅は開業と同時に1964(昭和39)年10月開業の東海道新幹線の東京駅〜新大阪駅を含め旅客案内上は「新幹線」を名乗り、1975(昭和50)年3月の岡山駅〜博多駅の開業とともに、「東海道新幹線」の東京駅〜新大阪駅と「山陽新幹線」の新大阪駅〜博多駅となったもの。さらに運輸省(当時)の公式記録に山陽新幹線の名前が登場したのは、国鉄分割民営化後の1987(昭和62)年4月1日である。相当マニアックかつ斜に見ると、「山陽新幹線」は開業30周年ではなく、27周年か15周年だと言える。
※2004年10月補訂:調製元の所在地と電話番号を変更1977(昭和52)年の発売か。JR西日本の駅弁キャンペーン「駅弁の達人」の実施に合わせて、2004(平成16)年5月1日にリニューアルされた、岡山駅の二段重ね幕の内系駅弁。小ぶりな経木枠の正方形の容器を重ね、下段に岡山県産朝日米の白御飯を敷き詰め、上段に鰆西京焼や玉子焼や蛸唐揚や海老塩焼や煮物などのおかずを詰める。
朝日米は、岡山県内でのみ栽培されているコメの品種。1931(昭和6)年以来変わらない品種寿命の長さ、政府米銘柄区分「一類」指定など、その実力はプロが高く評価するという。駅弁の名前のとおり御飯が美味く、おかずも味に加え見栄えが良い。同時にその形態が白黒写真やイラストでしか見たことがないが戦前の駅弁にそっくりと思え、古風な掛紙や連結金具を付ければ面白い。2004年度のJR西日本の駅弁キャンペーン「駅弁の達人」の対象駅弁。2005年頃までの販売か。
※2015年10月補訂:終売を追記2001(平成13)年の新作。黒いトレーを入れた駅弁らしいサイズの長方形ボール紙容器には、瀬戸大橋3ルート各橋のイラストが踊る。中身は祭ずし・たこ飯・ままかり鮨の三種の御飯に、煮物や焼き物のおかず、デザートに吉備団子。駅弁の名前の割には岡山な内容が多いと感じるが、岡山駅の駅弁屋の駅弁であることに加え、経済的に徳島は大阪を、香川は岡山を、愛媛は広島を向くが大阪・岡山・広島は四国側だけを見ているわけではない力関係を表している、と考えるのは読み過ぎか。現在は売られていない模様。
本州と四国の架橋は一世紀を超える主に四国側の切実な願いで、1955(昭和30)年5月に宇高連絡船紫雲丸の沈没で修学旅行生など168名が犠牲になることで火が着いたが、政治的妥協の産物で1969(昭和44)年に3ルートも建設することとなってしまい、その建設運営を担当する本州四国連絡橋公団は赤字で首が回らない状態、今はどうやってソフトに破綻させるかを議論しているところ。さすがにさらなる2ルートの建設推進運動は、やや下火になっている感じ。
※2013年5月補訂:終売を追記岡山名物きびだんご。駅弁ではないが、駅売り銘菓として百年程度の歴史があり、今もほとんどの駅構内売店に置かれている。各社各様の商品があり、この日は配布に便利な個別包装のものを購入。これはファンシーな絵柄の紙箱に直径約2センチ、10個の餅菓子が入って350円。こういう味は個人的にやめられない、とまらないから、あまりたくさん買わないようにしている。
今でこそ桃太郎ときびだんごと岡山は密接に結び付いているが、1900年前後まではどうも、それぞれの関係はあまりなかったらしい。その頃に桃太郎の話が教科書や唱歌に登場し、きびだんごが日清戦争などの復員輸送で岡山土産として知名度を上げたことで、うまい具合に名物ができたらしい。
この日は特急と新幹線の短い乗換時間にあわてて土産を購入したが、あとで調べたら製造者の廣榮堂は1856(安政3)に現在の吉備団子につながる団子を創作したらしいとか、2004年8月に「駅弁の達人」対象駅弁の収集のついでに路面電車に乗り、偶然に降りた電停の近くにあって団子を買った店が、この本店だったことを知る。
岡山駅から宇野線の電車で50分前後。玉野市は岡山県の南端で瀬戸内海に面する、人口約5万人の港町。宇野は1910(明治43)年に官営鉄道が開業し鉄道連絡船が就航したことで、四国への主要な玄関口として約1世紀栄えた。1988年の瀬戸大橋の開通で鉄道での、2009年の通行料金値下げで航路での、四国連絡機能が失われ、港は静まった。宇野駅では鉄道連絡船が最も栄えた1970年代に、岡山駅や高松駅の駅弁が売られた。1910(明治43)年6月12日開業、岡山県玉野市築港一丁目。