東京駅から東北新幹線で約1時間20分。東北新幹線と東北本線、磐越西線、磐越東線が接続し、水郡線の列車が乗り入れる駅。郡山市は福島県の真ん中に位置する、人口約32万人の宿場町。明治時代に発展した農業に加えて、鉄道や国道や高速道路が四方から集まる立地に商工業が集積、東北地方で仙台に次ぎ福島を上回る都市圏を形成する。駅弁は明治時代から売られ、昭和時代から2010年代まで複数の駅弁屋が競った。1887(明治20)年7月16日開業、福島県郡山市燧田。
2014(平成26)年1月9日の京王百貨店の駅弁大会で、大会の目玉商品のひとつとして催事場で実演販売する駅弁という形でデビュー。以前ならばウナギの寝床と称したであろう、とても細長い容器の中に、白御飯を詰め、左から「麓山高原豚(はやまこうげんとん)」の炙りベーコン、豚みそそぼろ、豚炙り焼、豚角煮、豚しぐれと豚肉を列べて覆い、赤かぶ酢漬を添える。
掛紙に記載されるキャッチフレーズ「五つの味の豚の楽しみ」のとおり、5種類の豚それぞれが薫り高い、見た目も味も美味い駅弁。ただし、このページにあるとおり、京王百貨店の駅弁大会では毎年のように郡山駅の豚肉駅弁の新作が出て、これはいけるぞと思っても翌年には別の新作の陰でひっそり消えているので、これも来年の今頃は過去帳入りかと思った。価格は2014年の発売時や購入時で1,100円、2015年時点で1,150円、2020年時点で1,200円、2023年時点で1,300円。
※2023年10月補訂:値上げを追記2016(平成28)年夏の新作か。弁当箱を収める真っ黒なボール紙の枠には、駅弁の名前と会津若松の鶴ヶ城を描く。中身は白御飯の上をヒレカツで覆い、レモン、漬物、ソースを添えるもの。7切れのカツは身も味も淡泊なので、添付の「会津みそ使用自家製ソース」ボトル1本をドボドボと撒き、ソース漬けにするのだろう。これはなかなかおいしいB級グルメ。調製元が2020年の夏頃までに支店を閉めてしまい、この駅弁もなくなった模様。
※2021年3月補訂:終売を追記2013(平成25)年1月の京王百貨店の駅弁大会での実演販売のために、同年1月10日の開会とともに発売。小さくも深めな正方形の容器に御飯を詰め、焼き豚を花びらのように盛り付け、豚角煮と大葉と錦糸卵などを置く。見た目では演出の先行を感じたが、食べてみれば適度な柔らかさと味付けと香りに、添付のタレやコショウの使用を忘れ、「盛り」に違わぬ分量に大きな満足感。
これが現地で人気と注目を得たら、もう女将漬の出番はないような気がした。しかしこれもまた、翌年の京王百貨店駅弁大会まで持たなかった、あるいは持たせなかったようだ。
2012(平成24)年の夏頃に発売。細長い容器の真ん中に茶飯を敷いて、福島牛の牛肉煮、麓山高原豚の豚肉角煮、きんぴらごぼう、菜の花の醤油漬などを載せて、桃甘露煮、赤かぶ漬、豆みそ、玉こんにゃくを添えるもの。しっかりした固さを持つロングな豚角煮と厚めの牛肉煮で、お肉たっぷり感が高い。カリカリの豆が良いおつまみ。2014年までの販売か。
※2016年9月補訂:終売を追記2011(平成23)年の東日本大震災後に発売。駅弁の名前には震災復興への願いが込められているといい、2011〜2012年の駅弁大会シーズンでは各地でその販売を見掛けた。赤いプラ製トレーを接着した長方形の容器に透明なふたをして、商品名やいくつかのアイコンを描いた確かに黄色いボール紙の枠にはめる。
中身は白御飯の上を、福島県の銘柄豚である麓山高原豚を使ったという生姜味の豚肉煮で覆い、ごぼうのささがき、ニンジン、玉子焼、柴漬けを添えるもの。実演販売での温かい状態での購入と消費であり、米国産牛禁輸直後の2004年に大手牛丼チェーンの吉野家が発売した豚丼と同じような内容と味と肉の形をしていた感じで、おいしくいただけた。数か月間の販売で消えたらしい。
2012(平成24)年1月の京王百貨店の駅弁大会での実演販売に向けて登場か。漆器を模したような長方形のボール紙容器を、黒地に金文字で駅弁の名前を描いた掛紙で巻く。中身は白御飯の上を豚肉の生姜焼ともろみ漬で覆い、玉子焼、きんぴら、赤かぶ漬などを添えるもの。
内容からして、名前からして、会場からして(前年は同じ場所で女将漬辨當を実演販売)、上記の駅弁「秘伝豚肉の女将漬辨當」のリニューアルだろうか。御飯を余した女将漬辨當と違い、こちらは豚肉の分量がガッツリ増えた肉満載の弁当で、むしろ豚肉が余る感じ。しかし20年来の名作がこれでひとつ消えて残念。さらにこの駅弁も、2014年時点で消えている。
※2014年6月補訂:終売を追記2005(平成17)年頃から郡山、福島、会津若松の各駅で売られるトンカツ弁当。強度のない正方形の容器に木目調ボール紙のふたをして、あまりにもデザイン力のない絵柄の掛紙をかけて、ひもで十字にしばる。中身は白御飯の上にトンカツを1個置き、煮物と漬物を少々添えるもの。価格は2008年の購入時で800円、2014年時点で900円。2019年頃までの販売か。
駅弁の名前と中身が一致しているように見えて、しかし福島県でかつ弁といったら、これとかこんな感じの卵とじ丼であるはず。東北を代表する駅弁屋が東京資本に吸収されると、駅弁もこうなってしまうのだろう。見栄えも味も中の下で、風味と雰囲気を落としている。ただ、ソースはおいしかった。
※2021年3月補訂:終売を追記1992(平成4)年度に発売。「小原庄助べんとう」とともに、平成時代の前半の郡山駅を代表した名物駅弁。井形の容器に木目調の紙のふたをして、駅弁の名前を力強くアピールする正方形の掛紙をかけて、麻ひもで割りばしごとしばる。中身は県産米の白御飯の上に「豚肉の女将漬」こと、郡山で一世紀の歴史を持つすき焼としゃぶしゃぶで有名な日本料理店「京香」の女将に代々伝わるという、味噌とスパイスで調合したタレに約一週間漬けた後に焼いた豚肉が載り、あとは大葉や錦糸卵や煮物など。
豚肉は常温なのに歯応えサクッと、噛めばトロリと、辛目の味噌味が御飯によく合い、豚肉駅弁の名品を演出する。福島県田村郡小野町出身で発酵食品の第一人者である東京農業大学教授の小泉武夫氏がはこの女将漬けを絶賛されているとかで、掛紙にもこっそりその文面が載る。なお、2012年の公式サイト上での駅弁紹介では「製造中止」の注記が付いている。
※2012年11月補訂:製造中止を追記