東京駅から新幹線で約1時間。高崎市は群馬県の中央部に位置する、人口約37万人の城下町ないし宿場町。県内最大の都市であり、2本の新幹線と4本の在来線と私鉄が交わる鉄道の要衝。「だるま弁当」や「とりめし」などの名物を擁す駅弁は、1886(明治19)年以降に松本、矢島、末村の各者が進出し、1958年に合併した高崎弁当のものが、横川駅弁や東京駅弁とともに売られる。1884(明治17)年5月1日開業、群馬県高崎市八島町。
高崎駅弁のおかみさん駅弁シリーズの第五弾として、2010(平成22)年6月26日から翌年3月末までの期間限定駅弁として発売した、販売元のNREたかべんと四万温泉協会青年部と旅行雑誌「じゃらん」との共同開発商品。竹皮柄のボール紙製容器に、男性を派手に暑苦しく描いた掛紙を巻く。中身は「男の握りめし」なる紅白の型押し飯に、イノシシ肉の照焼、豚肉のスペアリブ、玉子焼、たまり漬、しば漬。
食べた時には赤いおにぎりの不自然な着色がまず気になり、焼肉は固く、おにぎり弁当に980円も取るとは何事かと思った。あとでネットで復習すると、固い肉はイノシシで、掛紙やチラシに描かれる「あがしし君」は四万温泉の猪肉ブランドで、チラシは飲食大盛りサービスクーポンになり、共同開発元のアイデアが詰まっていた。第六弾が出れば消える期間限定駅弁ではあるが、レギュラー入りすれば篠山口駅弁に次ぐ全国唯二のイノシシ駅弁になるはず。
四万(しま)温泉は、群馬県の北西部、吾妻郡中之条町の四万川上流にある温泉。江戸時代から、あるいは千年以上の歴史を持つと言われ、1954(昭和29)年には酸ヶ湯温泉、日光湯元温泉とともに厚生省(当時)から国民保養温泉地に指定されている。温泉地そのものというよりは、リピーターを抱える優れた個々の旅館に人気が集まっている感じ。
2010(平成22)年7月1日に高崎駅で発売した、高崎駅弁のおかみさん駅弁シリーズの水上温泉版。第二弾の「おかみの太鼓判弁当」をリニューアルしたものか。竹皮柄の容器に、前作と同じ意匠で駅弁の名前を変えて背景を桃色にした掛紙を巻く。中身は舞茸御飯と枝豆入り梅御飯、牛しぐれ煮と山菜きんちゃく、鶏竜田揚とアユ甘露煮と玉子焼、湯の花饅頭など。見栄えも見た目も味も組合せも最高で、本シリーズ現存5種の中でベストを選ぶとしたらこれにしたいと思う。土休日の販売。2012年を最後に終売の模様。
水上温泉はかつての輝きを取り戻せず、水上駅での駅弁販売も復活していないが、水上駅には鉄道ファンが集まるようになっている。高崎駅と水上駅を結ぶSL列車が毎週のように走り、JR東日本高崎支社では機関車や客車をいろいろ組み合わせて話題を提供し続けているため、乗車や写真撮影にリピーターが付く。
※2015年8月補訂:終売を追記高崎駅弁のおかみさん駅弁シリーズの第四弾として、2009(平成21)年11月21日から翌年3月末までの期間限定駅弁として発売した、販売元のNREたかべんと高崎おかみさん会との共同開発商品。今回のおかみとは旅館の女将ではなく、高崎市内の会社経営の女性の集まりである模様。
ボール紙でできた黒く大きな長方形の容器に、観音開きの形で高崎の観音様を描いたボール紙を巻いて、ひもで十字にしばる。中身は赤飯、白飯、十六穀米うこん飯で三色の俵飯に、梅カツ、豚角煮、サトイモなどの煮物、鶏団子、玉子焼、パスタ風こんにゃく、シラタキ明太子あえ、コンニャク抹茶もちなど。
分量たっぷり、見栄えもOK、内容も個性的、そして高崎や群馬にちなんでいて、でも雑多な感じや押しつけがましいところもない、そしてうまい、まちおこし弁当のお手本。宣伝の方向性がまるで異なる駅弁催事とは無縁であろう、旅にふさわしい駅弁だと思う。2012年を最後に終売の模様。
高崎観音こと高崎白衣大観音(たかさきびゃくえだいかんのん)は、1936(昭和11)年に地元の実業家が群馬県高崎市に建立した、鉄筋コンクリート製で高さ41.8メートルの大観音像。東京駅発の上越新幹線では、高崎駅到着前の進行方向左側の稜線に見られる。
※2015年8月補訂:終売を追記高崎駅弁のおかみさん駅弁シリーズの第三弾として、2009(平成21)年7月18日から12月末まで、高崎駅と東京駅と特急「草津号」などの車内で販売。今回は「伊香保温泉女将の会」の監修。経木枠の楕円形の容器に木目柄のボール紙でふたをして、おかめの顔を大きく描いたボール紙の赤いパッケージを巻く。
中身はゴマ振り白御飯の上でも素甘菓子(甘い餅)で頬笑み、ぎっしり詰まったおかずは鶏ごぼう巻、豚生姜焼、牛すき焼、こんにゃくのアーモンドカツ、焼き鮭、シイタケやサトイモやアスパラなどの煮物、大根味噌漬など。焼物も煮物も漬物も、牛も豚も鶏も鮭も入る強力な布陣で、伊香保温泉の街並みにはない本物と本気を感じる秀逸な駅弁。
伊香保温泉は群馬県の中部、渋川市伊香保町で榛名山の裾野の山の中にある温泉。戦国時代には石段を中心とする温泉街が形成され、明治時代には多くの文人が訪れるなど、昭和の頃までは著名な温泉地として大いに栄えた。しかし最近の10年から20年で、公的な資料にも「衰退著しい」と明記されるくらい、時代遅れで魅力のない温泉地に変わり果ててしまった。
下記の駅弁「こだわり弁当女将の極うま!」に続く、高崎駅弁のおかみさん駅弁シリーズの第二弾として、2008(平成20)年12月20日から2009年3月31日まで、高崎駅に加えて東京駅と上毛高原駅、特急「水上号」の車内販売で販売。今回は「水上温泉おかみの会」の監修。竹皮編みの容器に割りばしとおしぼりとお品書きを置き、商品名と温泉名を書いた掛紙を巻き、紅白のひもでしばる。
中身はマイタケ御飯に豚角煮、アユ甘露煮、鶏照焼、きんぴら、シイタケやサトイモなどの煮物、玉こんにゃくなどと、リンゴはちみつレモン、温泉まんじゅう。草津温泉の第一弾と比べて、見栄えはぐっと駅弁らしくなり、しかし容器も中身も色彩の乏しい真っ茶色、内容と分量から割高感があるものの、風味は確か。これを駅弁のなくなった水上駅で、駅弁として売り出せないのだろうか。
水上温泉は群馬県の北部、、利根郡みなかみ町で谷川岳の麓に位置する温泉。昔から上州に数ある秘湯のひとつが、昭和に入り鉄道の開通により歓楽街として発展した。平成に入ると静岡県熱海を筆頭とする他の団体客向け歓楽街型温泉地と同様、時代の流れについて行けず衰退が始まり、2010年12月にはついに水上駅発着の特急列車が廃止されてしまった。
JR東日本高崎支社の観光キャンペーン「源泉ぐんま紀行キャンペーン」に合わせ、草津温泉の女将組織が監修のうえ、2008(平成20)年7月19日から10月31日まで、高崎駅と特急「草津」車内で一日約50個が販売されたお弁当。漆色の紙製正方形の容器に風呂敷と割りばしとおしぼりとお品書きを置き、女性の宿泊施設名入り顔写真50人分を掲載した掛紙をかけて、ひもで十字にしばる。
9区画に収まる中身は、舞茸むすび、うなぎちらし、天むす、野沢菜むすび、茶巾むすび、エビマヨネーズの軍艦で御飯が6区画、玉こんにゃくやタケノコなどの煮物と上州牛しぐれ煮でおかずが2区画、ぶどう3個でデザートが1区画。とても少量ながら、素材を生かしながらアレンジした個々のお料理は視覚と味覚でとても繊細。しかし容器は女将の監修を受けていないのだろう、白いトレーの使用で見栄えを台無しにしてしまった。
天下にその名を轟かす名湯・草津温泉。標高約1,200mの山の中へのアクセスに、戦前は軽井沢からの軽便鉄道が、戦後は国鉄吾妻線とバスとの乗継が利用されていた。2009年現在は新宿から高速バスで4時間3,200円、上野から特急とバスとの乗継で3時間強5,800円、東京から軽井沢経由で新幹線とバスとの乗継で3時間弱7,750円。これならば高速バスの独壇場だと思いきや、行ってみれば鉄道も意外に利用されていた。