名古屋駅から近鉄特急またはJR快速列車「みえ」で1時間強。松阪市は三重県中部で伊勢湾に面した、人口約16万人の城下町。かつて商業で栄えた、日本一の銘柄牛「松阪牛」の主要産地として名高い工業都市。駅弁は1895(明治28)年創業の駅弁屋が、主に牛肉のものを販売。1893(明治26)年12月31日開業、三重県松阪市京町。
2002(平成14)年9月28日に松阪駅で発売。音楽が流れる、全国初の駅弁。ボール紙のパッケージから、牛顔型の真っ黒なプラ容器の耳がはみ出る。ふたを開けると、大正時代の文部省唱歌「ふるさと」の電子メロディが流れる。中身は白飯を牛肉煮で覆い、紅生姜、切り干し大根、柴漬けを添えるもの。薄く引き伸ばされた牛肉煮の甘辛な味付けが脂肪の旨味を消さず、冷めた常温の飯とおいしくいただける。おかしな名前と奇抜な見た目によらず、うまい牛肉駅弁。
容器は山形県の米沢駅の駅弁屋と共同プロデュース。調製元はこの駅弁のためのイメージソング「カントリー(こだわり駅弁バージョン)」のCDまで売り出した。2002年の秋から2003年の冬にかけての各地の駅弁大会では、入荷や発売開始後に数分で完売する凄い人気で、その前年のBSE騒動と偽装松阪牛問題の影響は完全に払拭できたのではないかと思う。価格は2002年の発売時で1,260円、2014年時点で1,350円、2020年時点で1,500円、2023年時点で1,700円。パッケージは発売20周年を記念し、2022年9月15日からこの「二十歳・成人式のモー太郎弁当」となった。
2001年に社会を揺るがしたBSE騒動と偽装牛肉問題を機に、消費者の信頼回復を主目的に、第3セクターの三重県松阪食肉公社は松阪牛の個体識別管理システムを導入した。これにより消費者が肉の個体情報・農家情報・と畜出荷情報を、インターネット等で確認できるようになった。松阪牛ブランドの価値が上昇し、価格は倍額に高騰、他のブランド牛産地にますます差を付けている。
一方で、その認証が受けられる産地を、2002年8月19日から松阪市など当時の三重県内22市町村に限定してしまい、エリア外の生産農家はとんだとばっちり。生産量の減少か、需要の拡大か、認証の取得難か、今まで偽装表示が溢れていたからかどうか、高級店を除き松阪牛がメニューや売り場からすっかり消えてしまった。
※2023年5月補訂:値上げを追記2020(令和2)年1月15日に購入した、松阪駅弁のパッケージ。その絵柄は2018年の秋頃に、「平成ウシカニ合戦勃発」版から元に戻ったらしい。松阪ブランドのマーク、動画のQRコード、容器の取り出し方の説明など、いろいろ手が加わっている感じ。容器や中身や風味は変わらない。
2017(平成29)年1月21日に購入した、松阪駅弁のパッケージ。松阪駅の駅弁「黒毛和牛モー太郎弁当」について、2016(平成28)年12月10日から2018(平成30)年9月末までの予定で、名前に「平成ウシカニ合戦勃発」を加え、絵柄をこれに変えて販売した。同年8月の雑誌「POPEYE」でのこの駅弁と鳥取駅弁「かにめし」との対決企画「平成ウシカニ合戦勃発」動画公開記念。容器と中身は変わらない。
2013(平成25)年1月1日に購入した、松阪駅弁のパッケージ。松阪駅弁「モー太郎弁当」の容器や中身や味は、発売当時から変わらない。ここでは「電子レンジOK」の標記が登場し、パッケージのレイアウトが少し変わった。
2004年1月25日に購入した、松阪駅弁のパッケージ。下記の1年前との差異は、「松阪牛」が「黒毛和牛」に変わっただけ。
2003年1月10日の調製である、松阪駅弁のパッケージ。容器や価格や中身や風味は現行版と同じ。使用される牛肉は昔も今も仕入れ先を含めて変わらないそうだが、上記の認証産地限定により駅弁の名前が今のものに変わってしまった。
2003(平成15)年10月9日に松阪駅で発売。この駅弁の新発売に合わせて誕生したキャラクター「モー太郎」のイラストを描いた、どう見ても弁当には見えないボール紙のパッケージの中に、肉の旨味が凝縮された和牛しぐれ煮を具とした、ちょっと硬めの酢飯を使った巻き寿司を密封パックで収める。切れ目が入るので割りばしだけで食べられる。モー太郎のシール付き。価格は2003年の発売時で900円、2014年時点で950円、2020年時点で1,000円、2023年時点で1,200円。
※2023年5月補訂:写真を更新し値上げを追記2016(平成28)年5月21日頃の調製と思われる、松阪駅弁のパッケージ。伊勢志摩サミットの開催を記念して、仙台駅から小倉駅まで11種類の駅弁について、パッケージに駅弁の名前の英文表記とほぼ共通のロゴマークを印刷し、東京駅の駅弁売店で販売した。価格と中身は通常版と同じ。モー太郎寿司に限り、添付のシールにまでロゴマークが入っていた。
2004(平成16)年1月10日に購入した、松阪駅弁の紙箱。2003年の発売時から2023年時点のものまで、外箱にも内容にも変化がない。
駅弁屋と双葉社「漫画アクション」での連載漫画「駅弁ひとり旅」との共同企画により、2010(平成22)年9月に発売。長方形の加熱機能付き容器を使用、中身の写真と漫画の主人公を描いたボール紙の枠にはめる。
中身は白御飯の上に錦糸卵を敷き、黒毛和牛のロースをぐにゃぐにゃっと載せ、ニンジンとナバナで彩るもの。やや固めの牛肉が分量も食感もしっかりした感じで、加熱機能付き容器の駅弁にありがちな具の少量感はない。価格は発売時や購入時で1,380円、2014年時点で1,400円、2020年時点で1,500円、2023年時点で1,700円。
※2023年5月補訂:値上げを追記2008(平成20)年の鉄道の日(10月14日)に発売。木目が表裏に印刷される小柄な長方形の容器を使用、これを中身写真と商品名やいくつかのロゴマークを印刷したボール紙の枠にはめる。その窓からは容器表面に印刷した「松阪名物黒毛和牛」の文字が顔を出す。中身は白御飯250グラムを黒毛和牛もも肉100グラムで覆い、菜の花と南高梅を中身に添え、粗挽き黒コショウを袋で添えるもの。
松阪駅の人気駅弁「モー太郎弁当」を、容器も牛肉も真面目に渋く本格的に作り替えた印象。値段は高いか、赤ワインで煮込んだという牛肉は常温なのに恐ろしく柔らかく、味付け控えめでその風味を存分に味わえる。当初は現地では要予約、催事では「道弁」なる道路の弁当として販売。価格は2008年の発売時で1,380円、2014年時点で1,400円、2020年時点で1,500円、2023年時点で1,700円。
松阪駅の駅弁屋である新竹商店は、1969(昭和44)年に国道42号沿いで「ドライブインあら竹」を開業。第二次大戦後に占領軍や政府の政策で道路の整備が進み、自動車の時代やマイカーブームが訪れ、ドライブインやスカイラインが流行り出すと、群馬県の横川駅や北海道の長万部駅など、各地の駅弁屋が道路沿いにも進出するようになり、鉄道の衰退で駅弁屋の副業から本業になっていった。松阪での鉄道が、紀勢本線の東側区間が幹線鉄道としての風格を保ったのは、1959(昭和34)年の全通後わずかな期間まで。昭和40年代になると近鉄特急の攻勢を受け、昭和50年代になると車社会化が進展し、沿線の駅弁屋は櫛の歯が抜けるように消えていった。松阪の駅弁もドライブインがなければ過去帳入りし、三重県から駅弁屋が全滅、牛肉弁当は街弁か土産物になっていたかもしれない。
※2023年7月補訂:写真を更新2009(平成21)年1月24日に購入した、松阪駅弁のスリーブ。名前や内容は、上記の2023年のものと同じ。2008年の発売当時は、鉄道の駅弁でなく道路の弁当という位置付けだったのか、スリーブには日本鉄道構内営業中央会の駅弁マークでなく、「道弁」と書かれた催事業者の商標が使われた。また、窓開きのスリーブから、プラ容器のふたに書かれた「松阪名物黒毛和牛」の文字が見えた差異がある。
2017(平成29)年1月の京王百貨店の駅弁大会で売られた、掛紙復刻弁当。かつて松阪駅の幕の内駅弁で使われた掛紙を使用、福井県の駅弁催事業者のロゴマークとキャッチフレーズも記される。価格や内容や容器は、上記の駅弁「黒毛和牛 牛めし」と同じ。値段は2020年以降に売られればきっと1,500円、2023年以降なら1,700円になると思う。
※2023年5月補訂:値上げ可能性を追記2001(平成13)年10月14日の鉄道の日に「松阪牛うま〜いどん丼」の名前で発売。四角い加熱機能付き容器に、三重県産米の白飯を詰め、松阪名物黒毛和牛の焼肉と錦糸卵とそぼろで覆い、かまぼこで彩り、地元産の素材を使用した漬物などの付合せを添える。焼肉丼とそぼろ丼でドンドン召し上がれという意味で「どん丼」だそうだ。
駅弁の名前が変わった理由は、「黒毛和牛モー太郎弁当」と同じ。21世紀初頭の日本を揺るがした食品偽装問題について、駅弁がこれを行った事実はないのだが、このように新旧を並べると同じ目で見られてしまうのか、2005年には公式サイトや「元祖特撰牛肉弁当」の裏ぶたに案内文を載せるようになった。
この駅弁は、発売当時に人気となり、特に百貨店などでの駅弁催事、いわゆる駅弁大会で存在感があった。その後は「モー太郎弁当」が発売され、「元祖特撰牛肉弁当」が駅弁大会への輸送に対応し、影の薄い存在になったと思う。価格は2001年の発売時で1,160円、2014年時点で1,200円、2020年時点で1,500円、2023年時点で1,700円。
※2023年5月補訂:値上げを追記2002(平成14)年1月6日に購入した、松阪駅弁のスリーブ。容器や中身は、上記の2005年の「黒毛和牛うま〜いどん丼」と同じ。駅弁の名前は2002年の発売当時、「松阪牛うま〜いどん丼」であった。