札幌駅から特急列車で約4時間。函館市は北海道の南部で津軽海峡に面した、人口約24万人の港町。1859年の開港や1908年の鉄道連絡航路開設で北海道の玄関口となり、高度経済成長期は漁港や工業港としても栄え、現在は旧市街や函館山や海産物などが観光客を魅了する。駅弁は国鉄時代からの駅弁屋の経営がJR北海道の100%子会社に引き継がれ、駅弁が改札外の売店で売られる。1904(明治37)年7月1日開業、北海道函館市若松町。
東京駅から新幹線で4時間強。函館本線の小さな中間駅であった渡島大野(おしまおおの)駅に新幹線の駅を併設するにあたり、現駅名に改称。駅の位置は函館の郊外であるが、函館市内ではなく北斗市内にあるため、同市が駅名に北斗の名を入れることを強硬に要求、政治的にこのような長い駅名にされてしまった。駅弁は新幹線改札内と駅舎内の各地の売店で売られる。1902(明治35)年12月10日開業、北海道北斗市市渡1丁目。
1966(昭和41)年の発売。函館駅で定番の駅弁。長方形の経木枠の容器に木目柄のボール紙でふたをして、ニシンの漢字「鰊」を大きく描いた掛紙をかけて、ひもで十字にしばる。中身は白御飯の上をニシン甘露煮と味付けカズノコで覆い、茎わかめと大根味噌漬を添えるもの。時の洗礼を受けた味わいには、古典の安心感がある。価格は2008年時点で840円、2014年時点で880円、2018年の購入時で980円、2022年時点で1,000円。
ニシンは北海道を支えた。江戸時代に北海道から北陸地方までの日本海側でよく獲れたニシンは、保存食や肥料に加工され、北前船に乗り京都や江戸など各地へ出荷された。北海道の南部、道南の箱館(現在の函館)、福山(現在の松前)、江差は、かつて「蝦夷三湊」と呼ばれ、ニシン漁で大いに栄えた。後の開港で都市化された函館にその痕跡は薄いが、松前や、特に江差には、当時を偲ぶ建物が残されており、観光客が訪れることもある。
※2022年4月補訂:値上げを追記2008(平成20)年1月20日に購入した、函館駅弁の掛紙。東京のデパートでの実演販売で購入した。デザインも中身も味も、上記の10年後と変わらない。調製元が替わったので、社名の表記が異なる。
1980年代のものと思われる、昔の函館駅弁の掛紙。上記の四半世紀後と変わらない。当時は注意書きがこれだけシンプルで済んでいた。
2023(令和5)年6月1日に北海道四季マルシェ札幌ステラプレイス店、つまり札幌駅ビルで発売。9月には函館駅と新函館北斗駅でも発売。小函と表現する小柄な長方形の容器に、酢〆のブリに大根酢漬とゆず皮を載せた握り寿司3個と、金時生姜で彩るブリのスモーク寿司3個を詰める。そんな小道具の香りが効いて、各地のスーパーやデパートで買えるブリの握り寿司とはひと味違う感じ。函館産ブリを使うとのことで、函館の駅弁となった。
2023(令和5)年9月1日に「鮭いくらごはん」「大沼べこ辨」とともに、函館駅と新函館北斗駅で発売。自分の気に入ったものを特別扱いする意味を込めた「贔屓」を名前に採用し、「鮑」 「帆立」「北寄貝」「つぶ貝」の4種類の貝をご飯の上にのせた貝づくしの駅弁、が公式な紹介文。掛紙の色彩や絵柄が、かつて昭和時代に青函連絡船内で販売されたお弁当「つぶ貝弁当」に似ており、これも意識したのではないかと思える。
長方形のプラ容器の全面に白飯を敷き、きんぴらごぼうとつぶ貝煮、蒸し北寄貝、蝦夷あわび酒蒸しで覆い、岩海苔あん、茎わかめ醤油煮、会席漬で彩り、帆立の燻製、花人参煮、厚焼玉子を添える。貝と磯のちらし弁当。普段は「ひいき」と平仮名で見ることが多いと思う文字に、貝が4匹も潜んでいたことを、この駅弁が教えてくれた。
2023(令和5)年9月1日に「貝の贔屓めし」「大沼べこ辨」とともに、函館駅と新函館北斗駅で発売。過去の函館みかどで販売した人気駅弁の復刻商品という。小柄な長方形の容器に北海道産米の白飯を詰め、焼き海苔で覆い、秋鮭、いくら醤油漬け、れんこん酢漬、大根みそ漬、金時生姜を載せる。東北地方や北海道で普及するサケとイクラの駅弁も、海苔と酢の物で変化があり、味がふくらんでおいしい。
黒く四角い小柄な容器に御飯を詰め、細かいズワイカニほぐし身の醤油煮で覆い、柴漬けを添える。今のみずみずしいカニのぶっとい脚やブロックの身を自慢するのではない、長万部駅など昭和の頃のカニ飯駅弁はこうだった、カニと飯が合う昔懐かしい感じの風味。接頭辞の「みかど」もまた、当時は駅弁屋の社名で、今はブランド名として使われる、昭和の頃からの名前。価格は2016年の購入時で900円、2019年時点で1,000円、2022年時点で1,100円。
※2022年4月補訂:値上げを追記JR北海道の車内誌によると、2003(平成15)年の発売で、2019(令和元)年9月のリニューアル。長細いプラ容器に、麻の葉文様と商品名を描いたシンプルな掛紙を巻く。中身は酢飯をホタテ、カズノコ、カニ、タコ、イクラ、ウニ、サーモン、錦糸卵、甘酢生姜で覆うもの。デパートの北海道催事でよく見るような豪華な海鮮丼を、ずいぶんと素っ気なく詰める。価格は2020年の購入時で1,300円、2022年時点で1,400円。
※2022年4月補訂:値上げを追記上記の駅弁「蝦夷ちらし」の、2016(平成28)年時点での姿。名前と中身と値段は、上記の2020(令和2)年11月のものや、下記の2013(平成25)年12月のものと同じだが、見た目はずいぶんと異なり、この時は窓開きのスリーブに上げ底の容器を収める、北海道物産展の海鮮弁当のような姿をしていた。
※2020年12月補訂:新版の収蔵で解説文を手直し上記の駅弁「蝦夷ちらし」の、2013(平成25)年時点での姿。掛紙の絵柄を見ると、昭和の昔からありそうな感じ。容器は上げ底で上げふたな催事向けで、具の内容はカズノコ、ホタテ、イクラ、サケ、ニシン、ウニ、カニ、玉子焼、ワカメ、しば漬など。
函館駅の駅弁屋は、みかど函館営業所が2012年1月にJR北海道の子会社であるジェイ・アールはこだて開発へ事業を譲渡し、子会社の整理により2014年10月に北海道キヨスクへ吸収されたが、客から見たら気が付かないくらい以前と同じように、駅弁が販売され続ける。
※2016年12月補訂:新版の収蔵に伴い解説文を変更北海道新幹線の新青森駅〜新函館北斗駅の開業に合わせて、2016(平成28)年3月26日に発売。おしながきを兼ねる掛紙にも「北海道新幹線開業記念駅弁」と明記される。「箱舘新景」「北斗七星」に続く、函館駅の北海道新幹線開業記念駅弁の第3弾。
中身は礼文島産むらさき雲丹の炊き込みごはんに、北海道産蝦夷鮑の酒蒸し、生海苔あん磯風味、礼文島産蝦夷ばふん雲丹、北海道産いくら醤油漬などを載せたもの。函館駅でとびっきり高価な駅弁であり、アワビとウニがふんだんに使われながら、豪華でも奇をてらわないつくり。2018年までの販売か。
北海道新幹線の開業に伴い、新青森駅と函館駅を結ぶ特急列車「スーパー白鳥」「白鳥」が廃止になり、ついでに函館駅に発着するすべての夜行列車が粛清されたため、函館駅から本州連絡の機能が消えた。函館駅の改札内やホーム上では、それを前にした2015(平成27)年9月に、すべての売店と立ち食いそば店が閉店して淋しくなり、年末年始や開業・さよなら景気の商機を逃している。一方で改札外の売店群は拡充、訪問時には駅弁売店の位置を変えずにその裏手で売り場が広がり、様々な土産物が買えるようになっていた。
※2019年8月補訂:終売を追記1990年代の発売だろうか。正八角形の小柄な容器に透明なふたをして、サケとイクラを描いたイクラ色の掛紙で包む。中身は白御飯の上に刻み海苔と錦糸卵を敷き、イクラの醤油煮を中央に盛り、カマボコと白生姜を添えるという、名前どおりのイクラ丼。小粒なイクラが珍しい感じ。駅弁大会でも物産展でもイクラは大粒こそが命だと競う感じがあるが、地元の駅弁であればこういうものがあっていい。2013年頃までの販売か。
※2016年12月補訂:終売を追記2007(平成19)年1月の京王百貨店の駅弁大会で実演販売。かつて青函連絡船の船内で販売されたというお弁当。長方形の容器を大きな掛紙で包むが、その絵柄には惜別の雰囲気があり、鉄道連絡船廃止前の頃のものなのだろう。中身は日の丸御飯に大きな紅鮭を添え、昆布巻と枝豆を添えるだけ。
見栄えはシンプルというより安っぽいが、焼鮭をこのサイズで喰わせる駅弁は、なかなかない。催事場ではあまり人気を集めていなかったが、きっと昔の雰囲気を味わえる、地味だけど良い弁当だと感じられた。
2007(平成19)年1月の京王百貨店の駅弁大会で実演販売された、かつて青函連絡船内で販売されたお弁当。ふた付きの赤いプラ容器に、巻き貝と函館山と鉄道連絡船を描いた掛紙をかけて、ビニールひもで十字にしばる。中身は白御飯の上にきんぴらと日高産つぶ貝を載せて、グリーンピースと錦糸卵とさくらんぼを散らし、ガリを添えるもの。
青函連絡船が廃止されて約20年が経過し、駅弁屋に当時の資料はなかったそうだが、その当時に駅弁を作っていた人と、印刷屋に掛紙の製販フィルムが残っており、駅弁をかなり正確に再現できたそうだ。しかし残念ながら催事場での人気はいまいちだった。つぶ貝という食材の人気度もあるが、青函連絡船が本州と北海道を結ぶメインルートの座から外れて約40年、この弁当を懐かしむ声は、主催者が思うほど大きくなかったのだろう。
上記の駅弁「つぶ貝弁当」の、2008(平成20)年時点での姿。容器は正八角形の発泡材と透明なふたに変わり、掛紙はボール紙の枠に変わり、味付けも今と昔は異なるというし、青函連絡船も廃止後20年も経過すると知る人も減ってきただろうが、駅弁の中身はあまり変わらない。通常は無地を使う、フタに中身が付かないようにするフィルムには、調製元の名前とロゴマークだろうか、金色でこれが印刷されており、駅弁の見栄えをぐっと締めていると思う。現存しない模様。
※2015年7月補訂:終売を追記井形に組んだ正方形の容器を、中身の写真を大きく載せたボール紙の枠にはめる。中身は茶飯の上に錦糸卵を敷いて粒ウニとイクラを載せるシンプルな内容。高価なのはウニの分量に妥協がないためか。北海道の主要都市や特急列車車内販売には、こういう駅弁が必要だと思う。2013年頃までの販売か。
※2016年12月補訂:終売を追記1990年代の発売か。函館名物の朝市が駅弁になった。四角い容器に白飯を詰め、これを収めるボール紙箱に文字と写真で記すとおり、かに、いくら、数の子、ほたて、紅鮭、いか、にしんと錦糸卵を載せる。内容はそれなり、価格もそれなり。現存しない模様。
※2015年7月補訂:終売を追記昭和50年代、1980年前後の、8月26日22時の調製と思われる、昔の函館駅弁の掛紙。毛ガニをまるごと描く、北海道の各地に類例があった、駅弁の掛紙としておなじみの絵柄。今も道内の各地にカニ飯の駅弁はあるが、かにずしの駅弁は残らなかった。
昭和50年代、1980年前後のものと思われる、昔の函館駅弁の掛紙。上記のものと、まったく同じ。こちらには調製印がない。
昭和50年代、1980年前後のものと思われる、昔の函館駅弁の掛紙。上記の掛紙「かにずし」2枚と、まったく同じ絵柄。600円の価格が印刷でなく押印となっている。