東京駅から新幹線はやぶさ号で約100分。仙台市は宮城県の中央に位置する、人口約110万人の城下町で県庁所在地。豊かな植生で杜の都(もりのみやこ)と呼ばれる、東北地方の首都として君臨する大都会。駅弁は明治時代から売られ、戦後昭和から平成時代に3社が競う日本一の激戦区であったが、JR東日本の子会社が駅弁売店を独占した2010年代からは活気がない。1887(明治20)年12月15日開業、宮城県仙台市青葉区中央1丁目。
2023(令和5)年9月1日に仙台駅で発売、10月から東京駅などでも販売。東北新幹線の車内販売で親しまれたおつまみ「ほや酔明」が、41年の時を経て弁当になった。その小箱と同じオレンジ色と絵柄をした掛紙には、ほやドルなる女性の写真も載った。仙台駅弁のウェルネス伯養軒、ほや酔明の水月堂、ホヤ料理専門店のまぼ屋、ほや酔明おにぎりを持つ米飯事業会社BonRizが弁当の開発に携わったそうで、その4社のロゴマークも載る。ロゴのないJR東日本クロスステーションリテールカンパニー仙台支店も開発者だという。
中身は掛紙裏面のお品書きのとおり、ほや酔明入り炊き込みご飯としそ巻き味噌、ほや酔明入りポテトサラダ、ほやのてんぷら、ほやの唐揚げ、ほやの酒蒸し、ほや醤油で煮込んだ笹かまぼこ、ほや風味うずらの煮卵、れんこんとパプリカ甘酢漬け。どこからどこまでも逃げられないホヤづくし。小柄で高価な駅弁ではある。
東北新幹線は、1982年6月に大宮駅から仙台駅を経て盛岡駅まで暫定的に開業。石巻市で1962年に創業した海産物店の水月堂物産は、車内販売会社に自社製品を売り込み、オレンジ色の小さな紙箱に収めたホヤの乾燥珍味「ほや酔明」を、新幹線の開業日から取り扱ってもらった。これが新幹線の酒飲みに狭く深く親しまれ、今に至る。2019年3月に東北新幹線の車内販売が大幅に縮小されたが、ほや酔明は駅売店や土産物店で買われるようになったほか、似たデザインと同じ大きさを持つピリ辛、しゃけ、ほたて、かきのシリーズ展開で、仙台駅などでなくてはならない光景となる。
上記の駅弁「ほや弁」の発売より前の、2022(令和4)年12月1日に、仙台駅など宮城県内の駅のコンビニ「ニューデイズ」で発売。今回はニューデイズの「東北フェア」の一環で、2023年9月12日から18日まで全店で販売。現地での外装は、コンビニエンスストアチェーン店の直巻きおにぎりと同じく、おにぎりの形ぴったりの丸い袋に商品名と食品表示のシールを貼るものだが、このキャンペーンでは全面に印刷を施した袋に詰めた。
中身はホヤの炊き込み御飯のおにぎり。ホヤの産地でなく首都圏で製造された食品ではあるが、味は上記の現地での駅弁と変わらず、ホヤガイと称される貝のような臭みあるいは固さ、あるいは鮮度が落ちると出てくるという苦みや渋みないし金属臭もしくはガソリン臭のない、たとえればウニ飯を淡泊にしたようなもの。これで東京の市民にホヤをアピールできただろうか。価格は現地版が200円、この催事版が220円。
JRグループの観光キャンペーン「東北デスティネーションキャンペーン(東北DC)」の連動企画として、2021(令和3)年4月20日から5月10日まで、東京駅や大宮駅など首都圏の駅のコンビニ「ニューデイズ」27店舗で販売。東京駅弁「Suicaのペンギン東北つまみぐい弁当」と仙台駅弁「東北福興弁当」「政宗公御膳」と米沢駅弁「牛肉どまん中」も併せて販売された。夏にも首都圏で販売か。
小柄で四角い容器に醤油飯を詰めて錦糸卵で覆い、金華さば酢じめ、あなごの蒲焼、炙り牡蠣、金華かれい酢じめ、花こえび佃煮などを並べる。派手なスリーブや東京での販売という印象に違い、中身は酢飯でなく海鮮でもなく、宮城の食材を満載し、食べて味わって満足できる機能的な内容と分量。地味と滋味が備わると思う。調製元のJR東日本クロスステーションは、かつての日本レストランエンタプライズ(NRE)や日本食堂の仙台支店。仙台駅では売られたかどうか。
2020(令和2)年1月26日に仙台駅で発売。発売のプレスリリースでは、地域活性化と東日本大震災復興をうたう。真ん丸の容器に茶飯を詰め、1枚の玉子焼で覆い、ふかひれのあんかけ1枚でさらに覆う。フカヒレの見栄えは、テレビのグルメリポートと同等。さすがに薄造りだが、この姿ならばお買い得な豪華駅弁として、ふとしたことで人気が爆発する可能性を感じた。しかし年内に終売か。
※2021年3月補訂:終売を追記2016(平成28)年12月の発売か。金色と中身の美しい写真がまぶしいボール紙箱に収めた容器に、茶飯を敷き、駅弁の名前のとおりウニとイクラとカズノコで覆う、シンプルな内容。光り輝く内外の見栄えに負けない、良好な味。2020年までの販売か。
※2021年3月補訂:終売を追記2014(平成26)年8月5日の発売。駅弁屋の日本レストランエンタプライズと、宮城大学食産業学部フードビジネス学科 と、宮城県本吉郡南三陸町の漁業協同組合などが協力して開発したという。駅弁の長い名前を書くパッケージには、地元絡みの様々なロゴマークが付き、底面には南三陸町長の挨拶文が入る。中身はタコめし、銀鮭酢めし、茎わかめの天ぷらと醤油漬。
タコの炊込飯には南三陸産のタコが使われ、銀鮭やイクラを載せるワカメの混ぜ酢飯も三陸産や宮城県産で、茎ワカメやこれに混じるホヤも三陸産だという。これを知っても、それを知らなくても、しっとりした食感に確かな海や磯の香りが、自然に混じっていると思う。発売2年を経ても「地元漁師のごっつぉう編」のみで販売が続き、こうやって東京駅にも入荷しているのは、好評の証だろう。しかし2016年限りで終売か。
※2017年4月補訂:終売を追記調製元と宮城県石巻産業振興事務所のオンラインショップ「いしのまき旬鮮市場」との共同開発により、2003(平成15)年7月に発売。積み上げに向かず売店で売りにくそうな形は、おかずのトレーに御飯の包みを置いて、掛紙で包んで、ひもで十字にしばったもの。
中身は、竹皮風の紙に包んだ小女子(コウナゴ)めしと、カキ佃煮、鮭塩焼、さんまつみれフライ、ホタテ照焼、焼たらこ、笹かまぼこ、厚焼き玉子、ゴボウやサトイモなどの煮物、赤かぶと長なすの漬物。食べにくくはあるが、こんな技巧は印象に残るし、食べても様々な食材が常温でおいしい、優れた駅弁に感じる。2018年までの販売か。
この駅弁のテーマである支倉常長は、江戸時代初期の1600年代の仙台藩士。藩主の伊達政宗の命により、幕府公認の慶長遣欧使節の日本人リーダーとして、スペインやローマを目指して慶長18年9月(1613年10月)、約180人の現在の宮城県石巻市月浦から出航した。1615年1月にスペイン国王フェリペ三世に会い、キリスト教の洗礼を受け、同年11月にはローマ教皇パウロ五世に謁見し、ローマ市民権を授与される。
しかしその頃の日本は、禁教や鎖国に向かっていた。元和6年8月(1620年9月)の帰国は、「失意のうちに」という枕詞を付けて紹介され、外交上や布教上の成果はなかったとされる。常長らが持ち帰った資料は、47点が現存して仙台市博物館が所蔵し、2001(平成13)年6月に国宝に指定、2013(平成25)年6月にユネスコ記憶遺産に登録された。この駅弁の掛紙には、常長一行が乗船したサン・ファン・バウティスタ号の図面が使われる。
※2020年4月補訂:終売を追記JRグループの観光キャンペーン「仙台・宮城ディスティネーションキャンペーン」の開催に合わせて、2013(平成25)年3月から6月までの期間限定駅弁として発売。好評により販売を継続し、2014年4月10日からはボール紙枠のデザインと中身の一部を変えたこの「第2弾」にリニューアルした。
樽型にもイカ型にも見える容器を、賑やかな絵柄と石巻の説明を書いたボール紙の枠にはめる。中身は酢飯を鮭とタラコの漬け焼き、三陸産のつぶ貝煮とイクラ醤油漬と花小えび、宮城県産の小女子とノリの佃煮と炙りかき、石巻産のアナゴ焼きと金華サバ酢締めなどで覆う、ちらしずし。大量ではない分量で、見て食べて感じておいしくなっている。2017年までの販売。
仙台駅の駅弁であるが、テーマは石巻。パッケージの底面で石巻と震災被害と復興への取組を紹介し、おしながきの裏面で駅弁の材料を提供した石巻市内の加工会社6社の名称を紹介する。この駅弁を買った場所も、石巻駅の中のコンビニ。ここまでするのならば、例えばこのコンビニに土休日のみ一日3個でもこれを置いて、石巻駅の駅弁を名乗ってしまえば、より注目と売り上げを得られるのではと思った。
※2021年2月補訂:終売を追記2015(平成27)年3月21日の女川まちびらき及びJR石巻線の全線運転再開を記念して、その同日に発売。震災の影響を受けた4年前の「赤皿貝炊き込み飯」と同じ形のホタテ型容器に、ワカメ御飯と生姜茶飯を詰め、菜の花や鮭フレークや錦糸卵を添え、女川のホヤ、サンマ、ホタテ、ムール貝、かまぼこを使う。添付のおしながきには女川の納入業者5社の名称が並ぶ。小粒な女川の具に滋味があった。約半年間の販売か。
リアス式海岸が太平洋に口を開ける天然の良港である女川は、2011年3月11日の東日本大震災ではその地形が災いし、実に20メートル近い高さの津波が市街を襲った。基礎杭を持つ2〜4階建の鉄筋コンクリート造の建物が、津波でいくつも転倒し、世界中の学者や技術者を驚かせた。JR女川駅と、停車中の列車2両と、駅の隣の温泉施設に据え置いた廃車1両も流失し、傷ついて倒れた車両の写真も震災の被害を伝えた。
あれから4年。津波の被害を直接受けた市街はまだ更地や造成地であるが、駅は内陸へ150m移設のうえ7mの盛土上に温泉施設とともに再建され、運転再開を迎えた。人口1万人弱の町で年に数百億円もの復興関連事業が進められている。
※2016年9月補訂:終売を追記2010(平成22)年に発売か。小柄で深めな容器に透明なふたをして、商品名を書いた窓付きのボール紙の枠にはめる。中身はウニ飯を蒸しウニとイクラ醤油漬とわさび菜で覆うもの。北海道の駅弁や疑義駅弁と何ら変わらない中身で属地性を感じないが、中身の詰め方にギッシリ感があり、食べて楽しくなる感じではある。価格は2011年の購入時で1,100円、2016年時点で1,150円。2019年までの販売か。
※2021年2月補訂:終売を追記2009(平成21)年に発売か。真っ黒な円形の容器をセロハンテープで固定し、中身の写真を印刷したボール紙の枠にはめる。中身は酢飯の上をホタテ、蒸しウニ、カニ風味フレーク、エビ、イクラ、ウナギ蒲焼、錦糸卵、シイタケ煮、酢れんこん、生姜甘酢で覆う、ウニがメインのちらしずし。具がボロボロこぼれて食べにくいものの、様々な味が口の中に広がる。価格は2010年の購入時で1,000円、2016年時点で1,100円。2018年頃までの販売か。
仙台駅の駅弁は、駅弁売店の営業がそれぞれの駅弁屋から日本レストランエンタプライズ(NRE)の運営に切り替わって以降、サンドイッチや幕の内や助六寿司のような現地でしか売らないような駅弁が姿を消し、ほぼすべての商品が日常的に首都圏へ輸送されるようになった印象。だから東京駅の駅弁売店「駅弁屋旨囲門」に通っていれば、仙台駅弁の大半を制覇できる。
しかしその枠から外れているのが、ウェルネス伯養軒の駅弁。仙台駅ではNREやこばやしの駅弁とともに売られているが、経営移管後は遠隔地の駅弁催事でほとんど見なくなってしまった。だから仙台駅で未収穫駅弁を集めると、ウェルネス伯養軒の商品ばかりになってしまう。伯養軒の時代にはパッケージに付いていた駅弁マークも、まだ復活していない。もっとも、ウェルネス伯養軒も今回のパッケージで駅名を間違えているくらいなので、まだ駅弁屋になりきれていない。
※2020年4月補訂:終売を追記秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2009(平成21)年秋の新商品か。底の浅い円形の容器に透明なふたをして、駅弁の名前その他文字が主体のボール紙の箱に詰める。中身は白御飯の上に刻み海苔を少々散らし、錦糸卵、カキ1個、煮焼アナゴ1切れ、ホタテ照焼1個、ウニとイクラを少々、味噌のしそ巻1本と鮭を1片載せるもの。
見栄えや内容に対して大仰な名前を名乗る印象で、「海鮮」では御飯の1/3も覆えない少量駅弁。この少量こそがこの駅弁の特徴であり、味は確かな仙台駅弁で、値段もお手頃なので、そういうニーズで駅弁売店にて選択されている。2011年頃までの販売か。
※2016年9月補訂:終売を追記宮城県とJRの駅弁レシピ公募「第1回みやぎOrara駅弁コンテスト」でグランプリを獲得した作品の商品化で、2006(平成18)年12月1日に発売。木桶を模した円形の容器を、中身の写真を取り入れたデザインなボール紙の枠にはめる。中身は茶飯の上に1/4ずつ、サケ、イクラ、カキ、アナゴを載せるもの。
内容は仙台を含め各地で人気のものの詰め合わせで、最近の駅弁で閉口する柴漬けの刺激臭もなく、食べてうまい、誰もがそういう感想を述べそうな駅弁。しかし公募の駅弁にしては内容に個性がない、この地域の駅弁屋なら誰でも思い付くような気がした。商品寿命は長くなりそうだが、コンテストの意義をちょっと問いたい商品。2014年8月の「みやぎ南三陸海宝弁当 地元漁師のごっつぉう編」の発売と入れ替わりに終売か。
※2016年9月補訂:終売を追記これはどこの駅弁なのだろうか。調製元が仙台駅の駅弁屋なので、ここでは仙台駅弁として収蔵するが、駅弁の名前に入る「津軽」は青森県の西半分であり、仙台や宮城にかすりもしない。イカ型の容器にイカ飯と、ホタテとイクラとフカヒレで茶飯を覆う御飯を詰める中身は、名前から八戸駅弁に思える青森駅の駅弁「八戸いかまんま」と、ほとんど同じ。現存しない模様。
※2016年9月補訂:終売を追記透明なトレーを入れた小柄な正方形の容器に、ふたと掛紙を兼ねたボール紙のふたをかけて輪ゴムでしばる。中身は茶飯の上にうに・錦糸卵・かにでストライプを描き、グリーンピースで色を加え、生姜を添える。
これは盛岡駅伝統の駅弁と思いきや、現物に盛岡の文字がなく製造者が伯養軒の仙台支店なので、ここでは仙台駅弁として収蔵するが、実は巨大な食品表示ラベルの下に「盛岡 味の伯養軒」の印刷が隠れている。「三陸」の地域名は、宮城県エリアの陸前と岩手県エリアの陸中と青森県エリアの陸奥を示すから、つまり仙台でも盛岡も青森でもウソにならず、この地域一帯を支配する調製元にとって便利な名称か。
この駅弁を買った当時の調製元は2005年に清算されたが、社名改めブランド名を引き継いだ後継業者が、この駅弁をそのままの姿で売り続けた。2018年頃までの販売か。
※2020年4月補訂:終売を追記仙台駅の駅弁として売られているが、実態は新幹線の車内販売用や、東京駅など他駅での販売用と思われる。ボール紙製パッケージに巻かれた円形の発泡スチロール製容器を使用、中身は味付け御飯の上に蒸しウニ・味付けアワビとゴボウ・椎茸・タケノコ等が載る、アワビとウニの釜飯風弁当。
アワビとウニはそれなりの品を使用しており、米どころだけあって御飯そのものもおいしいが、全体的に水っぽい味がする。価格も内容や量に対して割高感があるが、新幹線車内や東京駅では他の駅弁がもっと高いため、よく売れているようだ。現在は売られていない模様。
※2016年9月補訂:終売を追記