東京駅から電車で約45分。大船駅のある鎌倉市は、神奈川県の東部で相模湾に面した、人口約17万人の古都。13世紀に幕府と呼ばれる武家政権がここを拠点とし、農漁村に戻るも明治時代に別荘地や観光地として再興、文人や要人が好んで住んだり訪れた。東海道本線が横須賀線を分岐する大船駅では、1898(明治31)年から大船軒が駅弁を販売、鎌倉の文人や駅前の映画撮影所の関係者に親しまれた。1888(明治21)年11月1日開業、神奈川県鎌倉市大船1丁目。
1913(大正2)年4月に大船駅で発売。汽車の時代から東海道線や横須賀線の旅客に、鎌倉の文人や大船の映画人などに愛された、伝統の駅弁。2023年の4月末までに使い始めた紙容器に、抹茶色あるいは竹色に見本写真と商品名を美しく描いた掛紙を巻く。掛紙の裏面で鯵の押寿しの歴史を、中ぶたでその特徴を、多くの文字で紹介する。
中身はマアジのSサイズ「小あじ」を、半身で酢飯に巻き付けて握り、8個まとめて押した、「関東風に握り、関西風に押す。」と紹介するアジの押し寿司。かつて相模湾でふんだんに獲れたといい、明治・大正時代には沿岸の鎌倉・大船や国府津・小田原の駅弁になった。今では酸味が強すぎる昭和までの味に思えるが、これも伝統ということで。
かつての調製元は、1898(明治31)年に大船駅で創業した大船軒。2009年にJR東日本の100%孫会社となってからも引き続き、大船駅西口の社屋で駅弁を調製したが、2023年4月にJR東日本の100%子会社であるJR東日本クロスステーションへ吸収されたことで、5月限りで大船での調製を終えて埼玉県戸田市での調製に変更。以前から相模湾を離れていたという食材を含め、大船や鎌倉との接点は消えたが、「大船軒」をブランドネームとして、「湘南鎌倉名物」を名乗り続ける。
大船駅で買える駅弁だが、東京都内から静岡県熱海までの間で手広く売られる商品。価格は2012年時点で1,200円、2014年時点で1,250円、2018年時点で1,280円、2022年9月から1,380円、2023年時点で1,450円。
※2023年8月補訂:写真を更新し解説文を書き換え2019(令和元)年8月3日に購入した、大船駅弁のスリーブ。九州で水揚げされたマアジのSサイズ「小あじ」を半身で酢飯に巻き付けた、押し寿司というか握り寿司を一口サイズで8個整列し、甘酢生姜と醤油の小袋を詰めた。2012(平成24)年7月に従前の「特上鯵の押寿し」を、「伝承鯵の押寿し」へ改称のうえリニューアル。同時に、小鯵の高騰や入手難により中鯵のスライスでつくった「鯵の押寿し」は、「鯵の押寿し中鯵」となった。いずれも包装を掛紙からボール紙枠に切り替え。
おそらく秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2022(令和4)年秋の新商品か。この年の1月に「桜(さくら)」(1,350円)「梅(うめ)」(1,250円)「桃(もも)」(1,150円)「李(すもも)」(1,100円)の4種が発売された、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放送に合わせた期間限定商品の新版にみえ、掛紙の絵柄や紙容器のつくりが共通する。
中身は既存の大船駅弁「伝承鯵の押寿し小鯵八貫入」と同じく、小鯵を酢飯に巻き付けた押寿司が8個。それでいて値段が、購入時でその通常版より70円高い。これは他の4種と違い、駅での販売がみられない、調製元の公式サイトで紹介されない、催事専用商品と思われる。このシリーズでは「李(すもも)」も、中身が駅弁の「鯵の押寿し中鯵八貫入」と同じなのに値段を120円上積みしており、それに気付いた駅弁ファンが商品と調製元にがっかりした。
2022(令和4)年10月1日から東京駅など東京エリアで期間限定にて販売。9月21日から23日まで東京駅の地階で先行販売。日本鉄道構内営業中央会の鉄道開業150年記念復刻駅弁企画により、同月から期間限定で販売された31社34駅弁のひとつ。JR東日本の駅弁キャンペーン「駅弁味の陣2022」にエントリー。
大船駅弁「伝承鯵の押寿し」の復刻版というが、下記にある以前のものと同じく、中身は上記の通常版と同じで、掛紙に昔のものの絵柄を取り入れた。今回はその絵柄も、5年前の2017年10月から11月までのときと同じ大正7年頃のもので、これをなぜか色を薄めて使う。酸味の強い、半身の小アジの握り風の押し寿司。
2019(令和元)年5月3日に購入した、大船駅弁の掛紙。同月の改元を記念し、絵柄を「祝令和元年」に差し替えたうえ、容器をスリーブにはめるのではなくこの掛紙を巻いた。中身や価格は通常版と同じ。
2015(平成27)年10月23日に購入した、大船駅弁のスリーブ。下の2012年のものと同じに見えて、竹色の地柄に差異がある、QRコードが追加された、などの変化が見られる。中身は変わらない。
2012(平成24)年7月19日に購入した、大船駅弁のスリーブ。同年同月のリニューアルにより、ここのこの駅弁でも掛紙の使用をやめ、ボール紙の枠に容器をはめる形になった。このほうが安くて合理的なのだろう。昔からの駅弁ファンはがっかり。
2017(平成29)年10月8日に購入した、大船駅弁の掛紙。同年秋のJR東日本の駅弁キャンペーン「駅弁味の陣2017」へのエントリーに合わせて同年10月から11月まで、1918(大正7)年頃に使われていた掛紙の絵柄を取り入れた、この掛紙を巻いて販売された。価格と中身は、通常版と同じ。1899(明治32)年から1945(昭和20)年まで法定の要塞地帯であった三浦半島の地図が、東京湾要塞司令部の許可のもと、掛紙に描かれている。
2015(平成27)年1月31日に購入した、大船駅弁の掛紙。下の2013年4月と同じ、1914(大正3)年当時に使われていた絵柄の掛紙を使い、アイコンと解説文で東京駅の開業100周年を記念した。価格と中身は通常版と同じ。東京駅の駅弁売店で実演販売されたので、調製元が日本レストランエンタプライズになっている。
2013(平成25)年4月13日に購入した、大船駅弁の掛紙。大船駅弁「鯵の押寿し」誕生百年を記念して、2013年4月10日から14日まで、大船駅と東京駅で300個ずつが、調製元が保管していた百年前の版木で刷った和紙の掛紙を使い販売された。それなのに食品表示ラベルとリサイクル識別表示マークと百年駅弁のロゴのシールを、掛紙そのものに貼ってしまったのは残念。価格と中身は通常版と同じ。
2013(平成25)年4月13日に購入した、大船駅弁の掛紙。大船伝統の名物駅弁「鯵の押寿し」の発売100執念を記念して、2013年4月2日から6月まで、100年前の販売開始時に使われた掛紙の絵柄を取り入れた、この掛紙を巻いて販売された。価格と中身は通常版と同じ。
2013(平成25)年4月7日に購入した、大船駅弁の掛紙。上のものとまったく同じはずが、こちらは法定のリサイクルマーク「紙」「プラ」がついていないエラー掛紙。
2005(平成17)年2月26日に発売された、同年8月末頃までの期間限定駅弁。とても小さな長方形の容器に木目調の紙のふたをして、掛紙をかけて紙ひもでしばる。中身は大船駅弁名物「鯵の押寿し」が4個だけ入るもの。一日100個程度の限定販売。
酢飯をぐるりと包む、光沢豊かで見た目に柔らかそうな鯵は、通常は冷凍陸送のものを冷蔵空輸で取り寄せているとあり、一口目は脂の乗りが感じられるものの、強い酸味がすぐに出てきて、水気の多い御飯とごちゃまぜになる。つまり、鯵は良いのに味はいまいち。この日に購入した大船駅弁のすべてに御飯の不味さを感じたので、運が悪かったのか、品質が落ちたのか。
大船駅で百年の歴史を刻む伝統の駅弁「伝承鯵の押寿し」の、2001年時点での姿。中身は変わらないし、いつまでも変わらないと思うが、当時はスリーブでなく掛紙を使い、容器は少し大きかった。この昔ながらのバージョンは、過去には材料が入った時のみ作るとした記事があり、掛紙に「限定生産品」と書いた時期があった模様。
2002(平成14)年11月5日の調製である、大船駅弁の掛紙。これは駅ではなく、デパートやスーパーで販売されたもの。容器や中身は駅で買えるものとまったく同じだが、掛紙に記載された定価が、税込価格1,000円ではなく税抜価格953円であり、駅弁マークの位置や成分表示の有無など細かい点で異なる。駅売りの駅弁に割引はないが、ここではスーパーの閉店直前で半額にて買えた。
2011(平成23)年10月8日から10日までに東京駅で開催された「第14回東日本縦断駅弁大会」で販売されたお弁当で、昔の大船駅弁を復刻したもの。といっても復刻は掛紙だけであり、容器や中身や価格は現行の駅弁「特上鯵の押寿し」と同じである。1928(昭和3)年当時の掛紙で復刻したようだが、すべて手書きの絵柄は見るからにデザインのかけらもなく、カラーコピーの質感といい、なぜ今回これを持ち出したのか不思議に思った。
2010(平成22)年4月10日2時の調製である大船駅弁の掛紙。同年4月10,11日に東京駅構内で開催された「駅弁の日 東日本縦断駅弁大会(春)」で、八戸、一ノ関、山形、小田原、大船、千葉、高崎、新宿が出た8種類の復刻駅弁のうちのひとつ。1959(昭和34)年当時の掛紙を再現したという。中身は昔も今も同じである。掛紙に今の値段が印刷されたり、容器や付合せが復刻駅弁と考えればまったく味気ないが、調達やコストの面からは仕方がないのだろう。
2008(平成20)年7月20日6時の調製である大船駅弁の掛紙。2008年6月から8月まで、マンガ「鎌倉ものがたり」25周年と大船軒創業110周年を記念して、普段の掛紙にその登場人物を2名追加で描いた。価格や中身はいつもの「特上鯵の押寿し」と同じ。
2006(平成18)年4月1日の値上げで登場したバージョン。従来の8個入り1,000円の「特上鯵の押寿し」が1,200円へ値上げされたことに伴い、中身を6個に減らして価格は従来並みの980円にした商品が生まれた。中身は鯵の押寿しの個数を除いて当然に従前品と同じで、掛紙や外観もそっくり。商品戦略や特殊事情を除き10年以上長い間、駅弁の値段はほぼ据え置かれてきた感があるので、このような単純値上げにデフレや景気低迷の終焉(しゅうえん)を感じる。2012年7月に「伝承鯵の押寿し」へリニューアル。
※2013年12月補訂:リニューアルを追記