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 旅の友「駅弁」。実際に食べた駅弁を中心に、日本全国と世界の駅弁を紹介します。

1.疑義駅弁について※2008年10月改訂

テレビや雑誌などで年間を通して何度も駅弁紹介の特集が組まれたり、秋冬のスーパーやデパートで駅弁催事が企画され多くの買い物客を集めたり、駅弁に対する注目度は引き続き高位を維持しているものと思われます。その紹介や販売の方法を見ていると、旅情や郷愁を誘ったり、地域の特産物や名産品あるいは名所旧跡などを取り入れたりしていますので、普通の方々が駅弁に対して持つイメージはそういうものなのでしょう。

駅弁特集や駅弁催事があると、通常より雑誌や店舗の売れ行きが良いなどという話も聞きます。しかしそれに乗じてか、とても駅弁とは呼べないような商品に駅弁を名乗らせて、デパートやスーパーの駅弁催事で販売するケースが目に付くようになりました。あるいは駅弁サイトの制作を手掛けてから、またはネット上で駅弁情報を交換するようになってから、気が付くようになりました。

駅弁には、旧国鉄や一部の私鉄が駅弁だと認めている商品から、販売業者が自ら駅弁と名乗るだけの商品まで、あるいは駅弁と名乗らないもののその外観や中身や販売形態などから駅弁と呼ぶに相応しい商品や、その逆の商品など、様々な形態の商品が混在しています。また、当館の「駅弁入門」に記したとおり、駅弁には確固たる定義がないため、駅弁には本物がないかわりに偽物もありません。

しかし、実態を知れば購入者や消費者に失望を与え、駅弁全体に疑惑の目が注がれイメージダウンを招きそうな商品は、ニセモノと呼ばざるを得ません。当館ではそのような駅弁を「疑義駅弁」と名付け、次のような定義を与えたうえで、その定義をすべて満たす駅弁を紹介し、この問題を提起することとしました。

  1. 特定の実在駅の駅弁を名乗り、販売されている。
  2. 該当の実在駅での販売実態がないか、事実上存在しない。
  3. 販売時に上記の実態を売り場やチラシなどで公表していない。

2.過去に販売された疑義駅弁※2021年3月更新

疑義駅弁

2006(平成18)年1月以降、当館で疑義駅弁と考えている商品の紹介箇所には、右のようなアイコンを付けています。この展示室(ページ)では具体的な駅弁を紹介しませんので、各展示室をご参照ください。

2021(令和3)年時点で、今後も販売の継続が懸念される主な疑義駅弁は、次のとおりです。

(1)貞光駅弁「阿波尾鶏とりめし

中身

2005(平成17)年の秋に、各地のスーパーの駅弁大会で突然に出現した、貞光駅の駅弁を名乗る弁当。駅弁のない駅を名乗る駅弁の催事での出現に驚きましたが、同年9月16日から翌2006(平成18)年3月まで、毎週火・木曜日だけ貞光駅の売店で一日三個のみの試験販売を開始したそうです。現地よりむしろ催事で大々的に売られる商品と思われますが、一応は現地にも実態があったようです。

調製元は鳴門金時羊羹(ようかん)その他の芋菓子で定評や表彰歴のある、徳島県貞光の和菓子屋さん。貞光駅の駅構内営業の権利を持っており、日本鉄道構内営業中央会の会員なので、弁当に駅弁マークを使うことができます。貞光駅での試験販売は、2011(平成23)年頃に終了した模様。しかしこの弁当は2021(令和3)年2月時点でも、貞光駅の駅弁を名乗り、スーパーの駅弁大会に出荷され続けています。

なお、同じ調製元が調製する「阿波尾鶏トロッコ駅弁(1,300円)」は、2020(令和2)年10月から徳島駅〜阿波池田駅で運行を開始した観光客向けトロッコ列車「藍よしのがわトロッコ」の、阿波池田駅行き列車「さとめぐみの風」の乗車4日前までに予約すると、列車内で受け取れる、現地に実在する弁当です。外観や中身は「阿波尾鶏とりめし」とは異なります。これを、駅弁がなくなった徳島県で駅弁が復活したと紹介した報道がありますが、駅で売られたり、駅で買える弁当ではありません。

3.疑義駅弁が生まれる背景※2005年7月制作

疑義駅弁は世にほとんど知られていないため、それについて記したり考察した資料を目にしていません。また、当館の運営方針により各調製元への問い合わせもしておらず、運営者自身が駅弁業界との関連を持たないため、以下の考察は感想に近いものであり、客観的な根拠を持ちません。

メディアの情報は多くが東京から発信されます。東京駅と京王百貨店駅弁大会、あるいはそれに加えてせいぜい名古屋駅と(新)大阪駅と阪神百貨店駅弁大会の状況を見れば、記者は駅弁がますます盛況とのイメージを持って記事にしますし、視聴者や読者にもそのイメージが植え付けられます。しかし実態は四十年来の衰退産業。駅弁業者は年々減り続けて今や最盛期の5分の1程度、近年でも年に数件の倒産や廃業や撤退が続いています。

実演や輸送による遠隔地での駅弁販売は、そのギャップを利用した商売と呼べるでしょう。その主体は百貨店やスーパーであることも、催事屋であることも、駅弁屋であることもありますが、地元では市場が小さく販売が伸びないか困難な駅弁を、旅情と郷愁を付けて都会に持ち込めば、販売による直接的な収入の他に宣伝等の間接効果も望めるようです。

駅弁ファンの間では、現地以外の場所で販売する駅弁そのものに疑いのまなざしを向け、実演でも疑義駅弁でも現地で調製していない駅弁の存在を敵視する声もあります。しかし鉄道の衰退とホカ弁やコンビニの普及で、駅弁専業は相当な好条件を抱えていない限り不可能な状況にある中で、ウソでない範囲における現地での駅弁販売の存続に役立つ現地以外での駅弁販売は、個人的には肯定したいと思います。

現地でも売るけれど主戦場は駅弁大会という、疑義駅弁ではないけれど感心はできない商品は、少なからず存在します。その一部あるいは多数が、現地ではなく大都市近郊で調製されているとも聞きます。また、秋冬シーズンあるいは特定の駅弁大会に向けて駅弁の新商品を開発することは全国で一般的に行われています。これを一歩進めると、駅弁大会には出すけれど現地ではどうせ売れないから作らない、あるいはもともと現地で売る気のない商品、つまり疑義駅弁が生まれるのでしょう。

また、上記の事情とはまったく別の仕組みで生まれる疑義駅弁もあります。近年は大規模な駅弁大会が新作商品の市場調査として利用されることがあり、そこに試作品を投入して好評ならば現地で商品化し、そうでなければ販売断念ということをするそうです。後者であれば疑義駅弁となり、しかし二度と販売されなければ誰も気が付かなくなります。

産地偽装問題や食品表示の厳格化など、食品販売に関するウソに対する世間の目が非常に厳しくなってきている中で、疑義駅弁が堂々と販売され商品が増殖さえしている現状は、駅弁業界全体にとって確実にマイナスの影響をもたらすと思いますし、最悪の場合には日本の駅弁文化が消滅する可能性さえ考えられます。

駅弁ファンや鉄道ファンは特に、駅弁は鉄道旅行になくてはならないものだと考えがちですが、欧州その他の諸外国、あるいは山陰や四国や埼玉県などの事例を見ていると、そんなことはありません。駅弁への信頼の確保、あるいは駅弁文化の存続を願うのであれば、悪質な業者や行動の淘汰や業界の健全化を望むとともに、消費者も百貨店やスーパーなり駅弁屋あるいは行政機関や相談窓口などに、苦情を入れたり情報を発信することが必要かもしれません。

4.その後の疑義駅弁に関する動き※2007年5月更新

2005(平成17)年7月25日に当ページを開設して以降、個人的に疑義駅弁問題の改善につながるのではないかという動きが少し出てきましたので、ここに記します。

(1)日本鉄道構内営業中央会で製造委託が話題になった※2006年9月追加

日本鉄道構内営業中央会で、駅弁マークの使用について製造委託に関する議論があり、2005年の秋に届出書提出のルールや『「駅弁マーク」使用規則』の改正を実施したそうです。改正内容や規則の全文は分かりませんが、この事柄は当時、「駅弁屋のホームページ(http://www.ekiben.or.jp/)」内「事業報告」(リンク切れ)に掲載されました。「現地以外の場所で販売する駅弁そのものに疑いのまなざしを向け現地で調整(ママ)していない駅弁の存在を敵視する声」がこの動機であるとしています。

(2)輸送駅弁販売催事でチラシに調製地を書いた事例が出た※2006年9月追加

2005〜2006年の駅弁大会シーズンにおいて年明け頃から、一部の中小スーパーの駅弁催事チラシで、森駅の駅弁「いかめし」の写真に「この商品は群馬県内で製造しています」旨の注記が付くようになりました。

(3)駅弁大会専用駅弁を催事期間中には駅でも売るようになった※2007年5月追加

2006〜2007年の駅弁大会シーズンにおいて、新作として催事場で実演販売を実施した駅弁のいくつかが、その催事期間中だけ駅でも販売されていたことを確認しています。スーパーなどに輸送販売される駅弁の一部にも、そういうものがあるようです。

(4)雑誌が疑義駅弁問題を取り上げた※2007年5月追加

2007年5月発売の月刊誌「日経トレンディ」6月号が、「ブームの裏にあるもの 駅弁ビジネス過熱中!」のタイトルで、疑義駅弁問題を取り上げた模様です。

5.疑義駅弁は減少に転じたか※2008年10月追加、2021年3月補訂

2007〜2008年の駅弁大会シーズンでは、疑義駅弁あるいはその疑いがある駅弁を見掛ける機会が、一部特定のスーパーとデパートを除き少なくなったような印象があります。

過去に当ページや当館で疑義駅弁として紹介した駅弁のうち、あるものは現地での販売も始まり、あるものは駅弁屋ごと淘汰され、貞光駅弁は試験販売という位置付けながら2011(平成23)年まで現地での販売が続けられ、それが雑誌などでも徳島県唯一の公式駅弁と紹介されました。

また、過去にはあたかも現地の駅で販売されているような宣伝を行っていた、デパートでの駅弁大会で売られる実演販売専用弁当あるいはその駅弁大会のために用意された弁当について、その旨をチラシやブースに明示することも始まっています。JRの駅弁大会で売られる当該駅弁大会専用弁当についても同様に、駅名と商品名ではなく特別版である旨を掲示や掛紙にうたうようになりました。スーパーで販売される輸送駅弁についても、駅弁ではなく駅弁屋の味を再現したと表現する、駅弁でなく駅弁屋がつくった弁当と宣伝する、過去に見なかったタイプの弁当類が登場しました。

上記「2.」のとおり、疑義駅弁が完全に消滅したわけではないと思います。しかし、産地偽装や農薬残留など消費者を欺いたり脅かす問題がいっこうに収まらない食品業界の中で、駅弁業者やその団体あるいは駅弁催事業者は、より信頼できる商売を目指すようになってきたのでしょうか。

6.現地で調製していない輸送駅弁について※2008年10月追加、2021年3月追記

デパートやスーパーで売られる駅弁は、実演販売商品を除きすべて、現地で調製されてトラックや飛行機などで輸送されてきているような印象を持たれていると思います。また、駅弁大会を名乗る催事場ではほぼ例外なく、そのような案内で「駅弁」が売られています。しかし一部の少なからぬ駅弁、もしかすると中小規模の催事で売られるものはほぼ全量が、現地で調製し販売される駅弁と異なり、「製造委託」により調製されていると思われます。

製造委託そのものは、下請法その他の法律で定義され認められる商取引です。テーマパーク内で売られるチョコレートやクッキーなどで、テーマパークの名前で販売される商品がその一例です。一部の空弁や大都市私鉄の駅弁にも実例が存在し、通常は掛紙などに記載された調製元の会社名の末尾にアルファベットが付いていることで区別できました。2013(平成25)年6月の食品表示法の公布と2020(令和2)年4月の完全施行により、委託された製造者も表記されるようになりました。

製造委託による輸送駅弁が、疑義駅弁と言えるかどうかは悩ましいところです。当館では開館時にその事実に気付かず、2006(平成18)年1月に疑義駅弁の定義に加え、2008(平成20)年10月に定義から外しました。必要な食品表示を偽ったり、スーパーや販売員が「現地で作って航空便で持ってきた」などと宣伝すれば問題になりますが、例えば弁当の輸送に適さない遠隔地からの出品要請や、中小企業や家内工業で輸送や実演に対応できない場合、駅弁屋が実物の駅弁ではなくレシピで応える手法も考えられると思います。

昔ながらの駅弁は、駅前の駅弁屋が作り、駅で売られる弁当です。しかしそんな商売に固執する調製元は、駅弁業者の言葉を借りると「みんなつぶれ」ました。現存する駅弁屋の多くは、仕出し部門やホテル業その他の本業を持ち、しかし創業や発展の礎は駅弁業であることから、駅での駅弁販売も続けているという会社か、鉄道会社やその子会社か、駅売店に弁当を卸す市中の食品会社です。

駅弁催事は基本的に秋冬限定のイベントであり、これだけで喰っていける商売ではないと思いますが、駅弁の知名度と収益を確保してその存続を助ける機会であることは、確かだと思います。県庁所在地の新幹線駅でも駅弁屋が倒産や清算の憂き目に遭う時代、ウソのない範囲で大都市の催事場が活用されてもよいのではと思い、当館での考えを少々修整したいと思います。