京都駅から新快速電車で約20分。草津市は滋賀県で琵琶湖の南端に位置する、人口約15万人の宿場町。道路交通の要衝であり、ベッドタウンとして近年に飛躍的な発展を遂げている。駅弁は、明治時代からの駅弁屋が改札外に売店を持ち、戦国時代以来の名物「うばがもち」とともに販売。1889(明治22)年7月1日開業、滋賀県草津市渋川1丁目。
草津駅のいなりずし駅弁。小ぶりで形の良い長方形の経木枠の容器に一口サイズの甘めないなりずしが10個も入る。安くて美味くて、駅弁趣味者好みの古風な掛紙もかかり、文句なし。草津駅弁は、駅弁大会で見るユニークな面々と駅で見るメンバーとで、ずいぶん雰囲気が異なるものだ。価格は2003年の購入時で410円、2017年時点で440円。
※2017年4月補訂:値上げを追記草津駅の助六寿司。「寿し」としか書かれない紫色の掛紙をひもとくと、今や珍しいフタや底まで経木を使った折箱が現れる。中身は上記の駅弁「ひとくちいなり寿し」が5個と、太巻きが5切れ。密度の高い駅弁の風味。価格は2008年の購入時で460円、2017年時点で480円。
今回の訪問では東海道線下りホームと草津線ホームにあった駅弁屋の売店が消えており、駅の改札内で駅弁を買うことはできなくなったが、橋上駅舎のテナントとして生き残る売店には、調製元の公式サイトで要予約と案内される商品も含めた駅弁数種が品揃えされている。
おそらく駅弁大会シーズンに向けた2021(令和3)年秋の新商品で、2022(令和4)年1月の京王百貨店の駅弁大会で発売か。スリーブには街道案内絵図のようなイラストマップと、草津宿に関する写真や案内を掲載。「宿場町近江の名産をぎゅっと集めちりめんごはんと合わせました」とする中身は、ちりめんの混ぜ御飯を錦糸卵と小海老と青のりとシジミ佃煮とアサリで覆い、牛肉煮、レンコンやタケノコなどの煮物、煮豆と小鮎とサツマイモ、うばがもちを添える。
催事向け商品の色眼鏡を砕く、近江や湖東や草津の味は、半世紀前に経木折で出していれば、草津が例えば高山のような地方の観光地であったら、郷土の駅弁として絶賛されたかもしれない。草津駅で売られることはないだろうし、売っても都市の通勤駅に需要は無いだろうし、催事に出せば地味な内容で、シーズンの半年で売り止めるだろうが、駅弁の魅力を詰めた作品として記憶に留めたい。
秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2016(平成28)年秋の新商品か。白飯を玉子そぼろと鶏そぼろで覆い、 鴨ロース3個と鴨つくね1個と、栗と赤こんにゃくを置いて、えび豆とうばがもち1個を添えるもの。つまり、ほとんど鶏飯。今回の鴨肉は、身厚でコンパクトで歯応えも風味も柔らかく、鶏飯と考えてもカモ駅弁と見なしても、無難においしくいただけた。
JR草津線のラッピング列車「SHINOBI-TRAIN」の運行を記念し、同車両の運行開始日である2017(平成29)年2月25日に発売。竹皮製の容器を、忍者の雰囲気がある絵柄の掛紙で包む。中身はおにぎり3個、玉子焼、焼鮭、煮物、うばがもち。おにぎりの海苔には手裏剣を思わせる十字の切れ目が入り、玉子焼には「忍」の焼き印が入り、忍者のイメージを重ねる。
「SHINOBI-TRAIN」は、滋賀県と草津線沿線の5市1町で構成する「JR草津線利用促進プロジェクトチーム」が、地域活性化を目的にJR西日本へ働きかけ、2016(平成28)年10〜11月に公募したデザインで電車の車体にフィルムを貼り付け、同線で約2年間の予定で運行される普通列車。1980(昭和55)年3月の電化時に導入された、古い113系電車4両編成のうち1本が対象となった。普通の電車に混じり、普通に運用される。そのデザインと、この駅弁の掛紙のデザインに、共通性はない。
草津線の沿線は普通の田舎かベッドタウンであるが、伊賀や甲賀のキーワードで忍者の里とされる。日本でいう平成時代には海外にも知られるようになり、外国人観光客が訪れるようになってきた。
東海道から中山道が分岐する草津宿に、戦国時代から伝わる銘菓。餅をこしあんで包んで白あんと山芋をトッピングした、直径約2センチあんころもちが6粒。これが最小パッケージで、18粒以上の商品は紙箱入りとなる。容器と容姿は21世紀のスイーツで大丈夫。価格は2008年の購入時で230円、2010年時点で250円、2019年時点で300円。
形状から女性の乳房を連想するのが正しい見方。漢字で書くと「姥ヶ餅」あるいは「乳母ヶ餅」。永禄11年(1568年)の観音寺城の戦いで、六角軍が織田・徳川・浅井軍に敗れて滅ぼされた際、六角義賢の幼児(孫?ひ孫?)を託されたか連れて逃げた乳母が、養育のために永禄12年(1569年)から売り始めたという話が伝わる。寛政9年(1797年)の「江戸名所図会」や天保3年(1832年)年頃の歌川広重「東海道五十三次」にも描かれ、今でも草津の名物となっている。
調製元は草津駅の開設とともに創業したことになっており、駅では駅弁もうばがもちも同じ場所で売っているが、ホームページその他の紹介や宣伝においては、駅弁屋とうばがもち屋の顔を完全に使い分けているように見える。うばがもちが鉄道銘菓と紹介されたことも、ないような気がする。
※2020年6月補訂:値上げを追記1990(平成2)年に発売。全国初で現在でも唯一の植木鉢駅弁。中身は高菜の混ぜ御飯の上に鮭・椎茸・タケノコ・ワラビなどが載る、緑色豊かな釜飯風弁当。容器はそのまま洗わずに植木鉢として使用でき、ラディッシュの種まで付いてくる。包み紙は新聞を模しお鉢弁当の宣伝を記事風に伝える。
当時のパソコン通信大手「ニフティサーブ」が会員10万人達成記念に運行した貸切列車「ネットワークトレイン」での企画駅弁として誕生。現地での入手は前日までに予約が必要だが、ひところはデパートの駅弁大会でよく見かけた。価格は2001年の購入時で850円、2010年時点で900円、2014年時点で930円、2020年時点で1,000円。
※2020年6月補訂:値上げを追記秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2019(令和元)年秋の新製品。昭和時代に各地で親しまれ、平成時代に廃れたアユの駅弁が新作で出るとは驚いた。四角い容器に炊込飯を詰め、アユの姿煮を1匹載せ、シジミ、鴨肉団子、煮物、漬物を添える。飯も魚も味付けが控えめ、淡くふっくらした風味で、同じく21世紀に生まれた八代駅のアユ駅弁「鮎屋三代」の、味と見た目をかなり淡泊にした感じ。2シーズン販売し、2021年春に終売か。
※2022年4月補訂:終売を追記秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2018(平成30)年秋の新商品。主にスーパーマーケット向けの、駅弁催事専用商品とみられる。江戸時代の近江八景の錦絵をスリーブに印刷、中身は中身は牛丼と山菜飯、煮物、煮豆、アユとシジミの佃煮、赤かぶらとうばがもち。8景に足りないかもしれないが、雑多なく多様性のある内容ではあった。3シーズン販売し、2021年春に終売か。
※2022年4月補訂:終売を追記JR発足30周年記念駅弁。JR西日本のJR発足30周年記念企画「西日本駅弁ランキング」の開催に合わせ、2017(平成29)年10月に発売か。扇形の容器に赤飯を詰め、俵型の白飯を列べ、漬物を添え、鶏肉煮と昆布巻と紅白のかまぼこ、玉子焼と牛肉煮、甘鯛西京焼とダイコンなますで囲う。とても整った見栄えを持つ、確かなお祝い弁当。普通の幕の内駅弁としても使える。年末までの販売か。
※2019年8月補訂:終売を追記秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2016(平成28)年秋の新商品か。「南洋軒」とは、草津駅の駅弁屋の名前。紙箱に「近江牛すき焼」と「近江牛焼肉」のライスバーガー、つま牛肉のパティを円形に固めた白飯のバンズで挟んだものが、袋詰めで各1個、専用の紙箱に収まる。ずいぶんと奇抜な物を作ったものだ。個別包装の袋が非常に固くて開けづらく、飯が具の脂を吸って崩壊して食べにくかった。味はすき焼も焼肉も、同じ感じ。2018年までの販売か。
※2019年8月補訂:終売を追記経緯は不明だが2016(平成28)年に、全国各地の駅弁屋が同じような見栄えと容器と価格で出してきた、4種の駅弁のセット商品の草津駅版。掛紙に書かれるとおり、「お鉢弁当」「松茸土鍋めし」「ハンバーグステーキ弁当」「うばがもち」のセットであり、鶏肉とシイタケと高菜飯、マツタケと五目飯、ハンバーグ2切れとインゲンとニンジンと茶飯、うばがもち2個とタケノコなどの煮物を詰める。それぞれ、こんな中身だったかな、という印象。2017年の夏頃までの販売か。
※2019年8月補訂:終売を追記2016(平成28)年1月の阪神百貨店の駅弁大会でデビューか。パッケージに記されるとおり、容器の3区画に筍ごはん、近江牛すき焼き、ゆば寿司を詰める。これは2月から4月まで販売の「春」で、9月から11月まで販売の「秋」は、松茸めし、ゆば寿司、近江牛すき焼きの順となる。2017年には終売か。調製元のカタログには2019年まで、ホームページには2021年まで掲載された模様。
※2022年4月補訂:終売を追記2013(平成25)年1月の京王百貨店の駅弁大会の他には販売されていないかもしれない、駅弁大会専用商品。「日本窯元めぐり」シリーズと同じ催事業者のプロデュースによるもので、ここでは他に広島駅「ふぐ寿司萩焼き」も売られていた。同シリーズと同じ焼き物を、今度はボール紙の箱に詰めてから、商品名や宣伝文を書いた紙帯で留める。
中身は山菜混じりのマツタケ飯が半分、酢飯の上にタイとキュウリとシイタケなどを載せたものが半分。容器に紙を敷いてから中身を詰めるので、器を洗わずに他へ転用できるのは便利。酸っぱい鯛と香る松茸飯の味に文句はない。でも、駅で売らない駅弁は、駅での実態がない商品は、駅弁を名乗らないで欲しいと願う。
2006(平成18)年9月23日に発売された、おそらく全国唯一のナマズ駅弁。長方形タイプの加熱機能付き容器を、ナマズの顔、中身の写真、古代人の4コマ漫画を書いたボール紙の枠にはめる。中身はタレ御飯に錦糸卵を適当に散らし、白身魚の照焼を5個置くもの。その白身魚がナマズなのだが、食べれば本当に普通の、少々さっぱりした感じの白身魚。この味を出すためにかなり苦労したと想像するが、ごく普通の食事として使える丼もの。ナマズと草津や古代人との関係は分からない。販売は数年で終了した模様。
※2013年5月補訂:終売を追記2004(平成16)年の秋からの駅弁大会シーズンに向けて投入。ふたつのボール紙パックを1本の木棒で吊した形状の容器を使用、プラ製カップに入る中身はそれぞれ、牛すき焼き丼とちらしずし。他にない容器の個性的な駅弁だが、他の草津駅弁ほどのインパクトはないような。また、店頭で木棒が折れたり抜けた姿をよく見かける。現地では要予約。販売は数年で終了した模様。
「近江商人の知恵袋」なる小片付き。草津を含む現在の東海道本線米原〜大津間あたりでは、江戸時代中期に日本全国を股にかけた豪商群を生み、現在も住友財閥や伊藤忠商事など多くの大企業のルーツとなり、「三方良し」などのその商人哲学は今も生きたり活かされている。しかしその発祥地である近江や滋賀県は商業的にも観光的にもどうも地味で、京阪地区のベッドタウンや後背地としての性格を強めている感じ。
※2013年5月補訂:終売を追記2001(平成13)年に発売。信楽焼の美しい容器を使用し、中身は御飯の上にかわいらしい松茸のスライスが散らばる松茸弁当。量は少なく、価格の多くは容器代に費やされているようだが、確かに容器に手抜かりはなく、茶碗として十分実用に耐えるばかりでなく観賞用にも向く。
福井の業者が「日本窯元めぐり」として加賀温泉・名古屋・豊橋・草津・岡山・和田山の各駅の駅弁業者に声を掛け、同じ大きさの容器と同じ値段で6種の駅弁をプロデュース、駅弁大会に売り込んだのだろう。現地で入手できるかは不明。2011年頃までの販売か。
※2017年4月補訂:終売を追記2004(平成16)年の初頭頃に発売か。本物の竹を切った筒状の容器の上にしおりを置いて和紙で包みシールを何枚か貼って紙ひもでしばる。笹の葉に包まれた中身は、近江産米の茶飯の上にタケノコと近江の赤こんにゃく他一点を載せ、草津名産うばがもちを添えるもの。
味は悪くないがおかずになるものが何もなく、黙々と茶飯を喰わせる忍耐系駅弁。それでも完全予約制なのでふらりと、または間違えて購入する可能性はないので、全国二千数百種類の駅弁の中でこんな商品があっていいと思う。内容が草津向けにアレンジされた「新・かぐや姫物語」は必読。2004年度のJR西日本の駅弁キャンペーン「駅弁の達人」の対象駅弁。販売は数年で終了した模様。
※2013年5月補訂:終売を追記2000(平成12)年に発売。各地の駅弁大会対応駅弁でよく見られる、円形の発熱式容器を八角形のボール紙立体パッケージで包装。中身は赤飯の上に松茸、栗、わらび、ぎんなん、人参がぱらぱらと載るもので、松茸の少量は仕方がないとしても見た目は寂しい内容。それでも容器の制約で飯も少ないから、食べれば意外にも松茸の風味を感じられる。現地では要予約ながら、松茸などの具がもっとたくさん入っていたという報告がある。現存しない模様。
1997(平成9)年に発売。タヌキを貼り付けたユニークな陶製容器を使う。中身は日野奈の混ぜ御飯にハムやタケノコや玉子や小魚など雑多な具が身を寄せ合う。そして3分の2ほど食べ進むと「大吉」の揚げ蒲鉾が出てきて、その下はしじみの混ぜ御飯という具合に、幸運を呼ぶ信楽のタヌキがコンセプトで見ても食べても楽しい駅弁。空き容器は花瓶にすることが推奨されている。予約制。今は売られていない模様。
※2013年5月補訂:終売を追記1998(平成10)年に発売。写真のとおり、カモをマンガ風にデザインした陶製容器を使用する。中身は御飯の上に近江名産の鴨肉や佃煮などを少量載せるものだが、主役のはずの鴨肉は薄く小さいものが1切れのみ。本当の主役は容器である。現地での入手は前日までに予約が必要だが、デパートの駅弁大会でよく見かけた、駅弁大会対応商品。2007年9月現在で販売していない模様。
※2007年9月補訂:終売を追記