東京駅から東北新幹線やまびこ号で約2時間半。一関市(駅名は「一ノ関」で市名は「一関」)は、岩手県の南端に位置し、北上川沿いの北上盆地を中心街とする、人口約11万人の城下町。駅弁は明治時代からの駅弁屋のものが売られ、新幹線改札付近と西口駅舎に駅弁売店がある。1890(明治23)年4月16日開業、岩手県一関市深町。
2023(令和5)年1月の京王百貨店の駅弁大会で、ひっそりと販売。株式会社DONUTSのウェブサイト「美少女図鑑」によると、「駅弁パッケージドラフトオーディション2023」として、美少女図鑑と京王百貨店と駅弁屋4社の協力で、2022年11月の公募と、ライブ配信&動画アプリ「ミクチャ」でのオーディションを経て決めたモデルをパッケージに使う駅弁を、京王百貨店の駅弁大会で予約販売し、その販売数に応じてグランプリを決め、2月以降に1日販売員として店頭販売するとのこと。12人のモデルを使う「甲州地鶏の親子丼」(1,500円)「鹿児島黒豚炙り焼き重」(1,250円)「東北美少女BOX」(1,500円)「常陸牛すき焼きと大洗名物あんこう弁当」(1,500円)の4種類が、ネット上で購入し店舗で受け取る、京王百貨店の駅弁大会の公式ネット通販で、特段の注記なく他の駅弁と併売された。
「東北美少女BOX」「ローストビーフとホタテのミラクルコラボ」「私たちのイチ推し弁!!」と様々なアイコンを記すピンク色の掛紙には、女性3名の顔写真と中身のイメージ写真を載せる。中身は茶飯をホタテの醤油煮2個、ローストビーフ、牛肉のあぶり焼き、昆布、錦糸卵で覆い、ヤングコーン、ししとう、煮物、大根桜漬を添えるもの。今回販売された4種の商品のうち、これが掛紙も中身も最も作り込まれた印象で、本気度が伝わってくる気がした。駅で売られて地元紙で紹介されるようなことが、あってよいと思う。
2014(平成26)年12月11日に盛岡駅と一ノ関駅で発売、ほどなく東京駅や東北新幹線の車内販売でも販売。岩手県陸前高田市のみで2013(平成25)年から作付けされる米の商標が、そのまま駅弁の名前となった。楕円形の容器の半分にその白飯を詰め、三陸産カキ照焼とフキを載せ、半分にホタテ煮、鮭塩焼、玉子焼、イクラ、煮物、漬物を詰めた。駅弁の名前や東京での販売から、東日本大震災の震災復興関連商品を思わせるが、そんな見せ方も売り方もしていない、見ても食べてもおいしくて、御飯が主体かつ主役で実用的な駅弁。カキのシーズン終了を理由に2015年4月限りで販売を休止、そのまま売り止めてしまった模様。
「たかたのゆめ」が生まれた経緯は、陸前高田市や日本たばこ産業やコンサルタント業者のホームページで確認できる。日本たばこ産業のアグリ事業で東北地方向けのコメとして静岡県内で開発し、2002(平成14)年12月に種苗法に基づく品種登録をしたものの、同社の同事業からの撤退により2008(平成20)年12月に登録を抹消した稲「いわた13号」を、東日本大震災の復興支援のため2012(平成24)年4月に陸前高田市へ権利ごと寄贈し、市内限定で生産を始めたものだという。写真フィルムケース6個分18グラムだけ残しておいた種籾が、研究員とコンサルタント業者との偶然の出会いで、消費者が買ったり食べられる商品として日の目を見るまでのストーリーが、感動的に記載されていた。
2011(平成23)年7月頃の発売か。金色の正方形の容器に、平泉の風景写真を印刷した掛紙を巻く。中身はウニと錦糸卵とクリとギンナンで金色の御飯に、アワビ煮、エビや菜の花などの酢の物、ごま寒天、しいたけやがんもどきなどの煮物、鶏もち、大根桜漬など。御飯とその仕切りで金色堂をイメージしたという。黄色というか茶色というか金色が勝る単色のお弁当は、味も見栄えも掛紙も、ふんわりよくできていると思った。価格は2011年の発売時や購入時で1,300円、2016年時点で1,400円。
「平泉−仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群−」は、2011年6月にフランス・パリで開催されたユネスコの第35回世界遺産委員会で世界文化遺産に登録された。白神山地や白川郷の賑わいを見ながら2001年に暫定リスト入りしたものの、同期の紀伊山地や石見銀山には先を越され、2008年には登録基準に満たないとして登録延期を勧告されたほど、国内の世界遺産で最も難産なものとなった。東日本大震災から3か月後のことであるが、登録報道直後から大勢の観光客が押し寄せており、以前の静かな平泉は当分見られないであろう。調製元が2020年4月に休業のち廃業したため、この駅弁もなくなったはず。
※2020年12月補訂:終売を追記下記の駅弁「源義経東下り絵巻」の、2009(平成21)年時点での現地での姿。4年を経ても価格も内容も掛紙も変わらずに健在。しかしその間の物価上昇を反映してか、飯も具も分量が減らされたような気がする。2010年頃までの販売か。
2005(平成17)年のNHK大河ドラマ「義経」放送に合わせて発売か。長方形の容器に木目調の紙のふたをかけ、お品書きと割り箸をのせて、平泉の春の藤原祭りの写真を印刷した掛紙で包んで赤い紙ひもでしばる。中身は古代米の俵飯に白御飯、霜降り具合が見える前沢牛ローストビーフ、他にサンマ昆布巻やホタテ甘辛煮や海老天や鶏照焼に煮物各種などと、デザートのミニおはぎ。
源義経が兄の頼朝に追われ、文治3年(1187年)に平泉に落ち延びた「東下り(あずまくだり)」のときに味わったであろう食材を用いたそうだが、内容的にちょっと信じがたい。でもその風味の良さは千百円の価値があると思うし、ドラマ効果の義経ブームが続く間は安泰だろう。2010年頃までの販売か。
※2017年5月補訂:終売を追記JR東日本会社発足20周年記念駅弁の一ノ関駅あべちう版として、2007(平成19)年の秋までに発売。とはいえ、その構造や中身は、花巻駅の駅弁「ロマン銀河鉄道SL弁当」にとても似ている。
長方形の容器に、SL牽引列車のイラストを描いた青い掛紙をかけ、中身は白御飯の上で帆立を中央に配し、小海老、錦糸卵、イクラ、鮭フレーク、銀杏、栗、椎茸、なす漬、花蓮根でおそらく銀河を描くもの。味はうまいが濃いめの東北風味。2011年頃までの販売か。
詩人で童話作家で農業指導者でもあった宮沢賢治の、童話の代表作のひとつである「銀河鉄道の夜」は、生前に発表されず没後に草稿の形で残されたもの。こうやって駅弁になったり、この作品できっと参考にされたはずと岩手軽便鉄道の後進であるJR釜石線に「銀河ドリームライン」の愛称が付いたり、東北新幹線並行在来線の第3セクター鉄道に「IGRいわて銀河鉄道」の社名が付いたり、現在に実在する鉄道とも縁の深い作品である。
※2017年5月補訂:終売を追記2005(平成17)年のNHK大河ドラマ「義経」放送に伴い、2004年9月22日に発売。大きな正方形の木目調容器にお品書きと割り箸を添えて、中尊寺金色堂、正確には金色堂を覆い保護する建物の写真を載せた大きな掛紙をかけて紙ひもでしばる。中身は古代米御飯とくるみごはん、鶏照焼に鮭唐揚、きじ風もちに枝豆揚に煮物や漬物など。
開発に平泉町観光推進実行委員会や農協も絡んだ、地域挙げての新作駅弁で、発売時には地元紙に取り上げられ、購入者の評判も上々な模様。大河ドラマの放送終了後も生き残れそうな商品。価格は2004年の発売時や2005年の購入時で1,000円、2014年4月の消費税率改定で1,030円。調製元が2020年4月に休業のち廃業したため、この駅弁もなくなったはず。
※2020年12月補訂:終売を追記2002(平成14)年の春頃に発売された、JR東日本「大人の休日」駅弁の、一ノ関駅の斎藤松月堂バージョン。大きな藍色の和風紙を掛紙と、容器のふたに載るお品書きは手書き墨字のコピーで、食べる前から味わい深い。9つの区画に分割された中身は、岩手産ひとめぼれのうにめし・カニカマ俵飯・しそ載り御飯で3区画、岩手県産の焼鮭・鶏照焼・煮カボチャ・タラすり身包み揚げ・帆立で4区画、デザートのミカンと一関名物あんこもちで2区画。容器が経木ならという贅沢な要求くらいしか出てこない秀作。2004年頃までの販売か。
※2017年5月補訂:終売を追記1976(昭和51)年の発売か。秋冬のスーパーやデパートの駅弁大会でよく見かけた駅弁。松茸を描いた掛紙がかかる長方形の容器を使用、松茸で炊いた御飯の上に、小ぶりなスライス松茸が多数、無造作に散りばめられる。2010年より前に終売か。
※2020年5月補訂:終売を追記1970(昭和45)年10月23日12時の調製と思われる、昔の一ノ関駅弁の掛紙。クリやシイタケも描く栗駒高原の風景や、一ノ関や平泉の路線図を描き、須川音頭、注意書き、駅弁の名前と調製元を記す。山菜弁当も第二次大戦後の昭和時代に、そこそこ人気の駅弁だったと思う。
1969(昭和44)年11月1日7時の調製と思われる、昔の一ノ関駅弁の掛紙。掛紙の調製印に年の表記がないものの、1968(昭和43)年の一ノ関駅弁のきのこめしの価格は150円で、1970(昭和45)年には一関市の電話番号に市内局番が付いているので、1969(昭和44)年と推定した。1958(昭和33)年の発売というきのこめしは、昭和時代には一ノ関駅の名物駅弁として紹介されていた。
1950年代、昭和30年前後のものと思われる、昔の一ノ関駅弁の掛紙。掛紙に描かれる厳美渓(げんびけい)は一ノ関駅西方約8キロの磐井川にある名称天然記念物の渓谷で、道の駅やレストハウスなどがある地元限定の名所。近年の一ノ関駅弁の掛紙は隣町の平泉を取り上げることが多いが、これこそ正しい駅弁掛紙の姿かもしれない。