大阪駅から特急列車で2時間強。2005年に4町の合併でできた朝来市は、兵庫県の北部の内陸に位置する、人口約3万人の市。長らく鉱山で栄え、最近では雲に浮かぶ城趾の写真で竹田城へ観光客が押し寄せる。駅弁は国鉄時代からの駅弁屋が、駅前広場の喫茶店で弁当も細々と売る模様。1906(明治39)年4月1日開業 兵庫県朝来市和田山町東谷。
和田山駅弁の現地での主力商品。とはいえ、現在は駅舎内からもホーム上からも売店が消えたため、駅前の調製元で買う必要がある。トレーを発泡材枠に接着した弱々しい容器に、白飯を敷き、牛焼肉で覆い、山菜、黒豆、錦糸卵、紅生姜、大根漬の付合せを添える。見た目も弱々しいが、牛肉駅弁の基本はしっかり。2003年半ばまでは1,050円の二段重ねで、内容も充実していたらしい。価格は2010年時点で1,000円、2014年4月の消費税率改定で1,030円、2018年の購入時で1,080円、2023年時点で1,100円。
但馬牛は、松阪牛や近江牛など全国ほとんどのブランド牛のルーツ。これらの牛の多くは、但馬の子牛を肥育しているものだという。「資質が抜群によい」「遺伝力が強い」「肉質、肉の歩留りがよい」「長命連産で粗飼料の利用性が良い」の四大特長を武器に、日本の高級牛肉産業を支えている。
※2023年10月補訂:値上げを追記2004(平成16)年2月7日に購入した、和田山駅弁の掛紙。14年後に現地で買った上記のものと同じ。当時は掛紙に「山陰線和田山駅」と表記し、駅弁マークも付いていた。ホーム上に駅弁売店があったほか、特急列車の車内販売にも乗ったはず。
2018(平成30)年1月の阪神百貨店の駅弁大会で実演販売。そこでのみ売られた疑義駅弁と考えられる。購入当日の和田山駅や調製元にもなかった。焼き物の釜に黒豆混じりの御飯を詰め、様々なクリに鶏肉、エビ、シイタケ、黒豆、うずら卵、錦糸卵などで覆ったもの。これは確かな栗づくし。しかし栗や豆の味付けがまるでお菓子のような強い甘さで、しかもその甘味が様々なので、弁当として、飯として合わない印象。催事場では地釜炊き。
2014(平成26)年1月の京王百貨店の駅弁大会で販売された復刻駅弁。以後の京王百貨店の阪神百貨店の駅弁大会でも売られている。食品表示上の商品名は「復刻弁当“昭和の牛べん”」。正方形の経木折のような容器を、大正時代のものと思われる駅弁掛紙の絵柄を取り入れた掛紙で包む。中身は山菜飯と牛肉煮を詰め、らっきょうと柴漬けを添えたもの。
これは復刻駅弁でなく、復刻風の弁当。掛紙や容器や中身を復刻したものではなく、食べて味わうものではない、掛紙の絵柄だけがメインのイベント向け商品。現地で買えるかどうかは、分からない。
2003(平成15)年1月の阪神百貨店の駅弁大会でデビュー。釜に御飯を詰めるのではなく、釜で御飯を炊く全国初の駅弁。本体もふたも陶製の釜飯容器を、掛紙代わりの厚手のボール紙を巻いて留める。中身は御飯の上に牛肉や松茸や海老や栗や錦糸卵を整然と詰め、中心に丹波の黒豆を添える。
御飯のおこげに牛肉や黒豆の風味は、出来立てはもちろん冷めてからもいける。評判も良く、毎年の阪神百貨店の駅弁大会では一番人気で大行列をつくり、現在の和田山駅の主力駅弁、というか、この駅弁の登場によって和田山駅の他の駅弁が駆逐されてしまった。価格は2003年の発売時や購入時で900円、2014年時点で1,000円、2016年時点で1,030円、2018年1月から1,080円、2021年時点で1,100円、2023年時点で1,200円。
※2023年10月補訂:値上げを追記1995(平成7)年の発売時にはその珍名ぶりと奇抜さで大いに話題になり、2000(平成12)年に調製元の方針転換で終売となった和田山駅弁が、2019(平成31)年1月の京王百貨店の駅弁大会で復刻され実演販売、同月の阪神百貨店の駅弁大会でも実演販売された。調製元は和田山駅前で健在だが、この商品の調製元は姫路駅の駅弁屋になり、実物には実演販売の箇所が表記された。
牛の上半身を模して成型された真っ黒なプラ容器は、ふたを開けると「モー」と鳴る。中身はグリーンピースで彩るサフランライス、牛焼肉と牛ごぼう煮、もやしナムルとポテトサラダ、小松菜漬け、柴漬け。存在を買う駅弁で、内容量は多くないが、味は意外にまとも。現役当時に1,350円だった値段は、ここでは1,580円となった。二十年来の駅弁ファンは復刻販売に喜んだかもしれないが、催事場での受けは案外で、東京でも大阪でも残念ながら見た目にほとんど売れていなかった。
後も阪神百貨店の駅弁大会で販売。価格は2021年1月の大会で1,250円に下がり、2022年と2023年の1月の大会では1,480円。
※2022年4月補訂:価格改定を追記2016(平成28)年1月と2017(平成29)年1月の阪神百貨店の駅弁大会で、和田山駅の駅弁として販売。これらの時だけ催事場で売られた疑義駅弁。催事場に持ち込んだ電熱器に焼き物の釜を仕込んだ地釜炊きの茶飯を、牛肉、マツタケのスライス、エビ、黒豆、クリ、きぬさや、錦糸卵、ガリで覆う。
そんな中身と価格は、現地でも買えなくはない上記の駅弁「地釜炊き釜めし松茸入り」と同じなのに、わざわざ名を変えて、現地に存在しない「駅弁」にしたのは不思議。マツタケの味と香りはしないけれど、味だけならまあうまい釜飯。初年は整理券対応の人気商品で、次の年は商品が客待ちをしている不人気商品で、以後も阪神百貨店の駅弁大会に時々出てくる。価格は2016年の発売時や購入時で1,030円、2020年は1,100円、2022年は姫路駅弁のまねき食品の調製になり1,180円、2023年は1,200円。
※2023年10月補訂:値上げなどを追記2010(平成22)年1月の阪神百貨店の駅弁大会で、和田山駅の駅弁として実演販売された商品。「但馬の牛めしでございます」などの「日本窯元めぐり」シリーズの一員か。どこの焼き物かは分からないが陶器の茶碗に黒いプラ製のふたをして、商品名と宣伝文を書いたボール紙の枠にはめる。中身は茶飯の上に牛肉煮、とりそぼろ、とりムネ肉3枚、を置き、錦糸卵、干しエビと菜の花和え、糸切りとうがらしを添えるもの。
高価だけれど、食べればおいしいお弁当。しかしこれも、やはり、残念ながら駅での実態がないと思われる疑義駅弁。最近の駅弁催事では少なくとも実演販売の弁当については、催事のための商品と実際に現地で販売されている駅弁を区別し始めているのに、ここではまだまだ。この駅弁大会以外で売られたのだろうか。
2008(平成20)年1月の阪神百貨店の駅弁大会でのみ販売か。5年前にそこでデビューして評価と売り上げを得た駅弁「地釜炊き釜めし」の牛肉版で、同じ構造と素材の容器に同じ調理器具を使い、具の鶏肉その他の代わりに、見た目も食べても濃いめな味付け牛肉ときぬさや、にんじん、甘酢生姜を詰める。
風味やコンセプトは悪くないが、残念ながら駅での実態がないと思われる疑義駅弁。当時の和田山駅では、駅弁が一日で数個しか売れないことが新聞記事になっており、その割にラインナップは新作で固められているため、和田山駅弁はもはや、駅でも売ることがある、あるいは駅売り弁当を名乗る催事弁当ではないかと思う。ボール紙枠の底側には正直に、阪神百貨店の駅弁大会を仕切る催事屋の名前が、共同企画者として堂々と記されていた。
2008(平成20)年1月の京王百貨店の駅弁大会において、米沢駅「牛肉どまん中」、松江駅「およぎ牛弁当」と牛肉駅弁対決を演じた実演販売商品。その前あるいはその後に和田山駅での販売があるかは分からないが、上記の駅弁「但馬の里和牛弁当」の見栄えと中身を実演大量製造に適したものに手直しした印象。具体的には牛そぼろをやめて牛すき焼きに一本化、蒲鉾と玉子焼をやめて付合せに黒豆、カブ、ニンジン、菜の花を採用、そしておそらく牛肉の増量。
しかし催事場では、毎年の京王で大行列を作る米沢駅弁、牛が海を泳ぐという紹介文が効いた松江に完敗した印象。今回購入したロットも、この値段にしては甘辛の肉が硬く見栄えもいまいち。現地で買えばおそらく牛肉の香りと柔らかさが出るはずで、大量実演販売の弊害が露骨に表れていた。この駅弁大会以外で売られたとは聞いていない。
今はなき飛騨金山駅弁「まきちゃんの作ったミョーナお弁当」に匹敵する、日本一奇抜な名前の駅弁。ダチョウを描いた日本一巨大なボール紙製の容器は写真のように縦に長く伸びる。中身はパスタの上にダチョウのステーキが2枚ほど載り、ロールパン・コーン・ポテト・こんにゃくゼリーにさくらんぼやオレンジが入る洋風弁当。見た目の大きさほど分量はない。ダチョウとビーフのカロリー等の比較表付き。このセンスには付いていけないと感じた。
2001(平成13)年に発売。丹波焼の美しい容器を使用し、中身は但馬牛を使用した牛丼弁当。量は少なく、価格の多くは容器代に費やされているようだが、確かに容器に手抜かりはなく、茶碗として十分実用に耐えるばかりでなく観賞用にも向く。
福井の業者が「日本窯元めぐり」として加賀温泉・名古屋・豊橋・草津・岡山・和田山の各駅の駅弁業者に声を掛け、同じ大きさの容器と同じ値段で6種の駅弁をプロデュース、駅弁大会に売り込んだのだろう。こちらは他の5種と異なり、現地売りもあった模様。この名前の商品としては、現存しない模様。
※2017年5月補訂:終売を追記入手状況から1993(平成5)年2月3日9時の調製と思われる、昔の和田山駅弁の容器の一部。その絵柄は上記の四半世紀後の掛紙と変わらない。2012年の映画により天空の城として観光客が激増する前から、竹田城跡の石垣が地元の名所であったことが、イラストからうかがえる。
入手状況から1993(平成5)年2月3日9時の調製と思われる、昔の和田山駅弁の掛紙の一部。切り絵の絵柄と文字で簡単な物語が描かれる。
1922(大正11)年の調製と思われる、昔の和田山駅弁の掛紙。同年に上野公園で開催された平和記念東京博覧会で英国の皇太子殿下が来日されたことを記念して、全国各地の駅弁屋が同じデザインの記念掛紙を使用したもの。周囲に日本と英国の国旗を配し、右に駅弁の名前、左下に調製元、下部に日英の歓迎文、上部の2枠は広告枠。
おそらく1920年代、大正10年代のものと思われる、昔の和田山駅弁の掛紙。収集者は1920(大正9)年のものとしていた。かつて京都府や兵庫県の山陰本線沿いで盛んに売られた、アユの姿寿司の駅弁だろうか。掛紙も正方形や長方形でなく、細身にできている。