博多駅から鹿児島本線の電車で約30分。鳥栖市は佐賀県の東端に位置する、人口約7万人の宿場町。幹線鉄道や高速道路が交わる交通の要衝で、工場や物流施設が立地する。駅弁は明治時代からの駅弁屋のものが、駅舎内と各ホーム上のうどん店で売られる。1889(明治22)年12月11日開業、佐賀県鳥栖市京町。
博多駅から新幹線で1駅13分。九州新幹線鹿児島ルートの開業により、長崎本線との交差点に駅ができ、将来は九州新幹線の長崎ルート改め西九州ルートの分岐が予定されている。駅の開業とともに、在来線の改札脇に鳥栖駅の駅うどん・そば屋が進出し、駅弁も売る。2011(平成23)年3月12日開業、佐賀県鳥栖市原古賀町。
2024(令和6)年2月17日に鳥栖駅と新鳥栖駅で、「かしわのり巻」(560円)と「チキン南蛮巻」(600円)を新発売。寿司惣菜向けプラ製トレーに巻いた、商品名を記した掛紙の色彩は、かしわめしの三色ストライプにみえる。中身は太巻きが8切れ1本のみ。チキン南蛮を、駅弁のかしわめしで使われる鶏飯の御飯と、海苔で巻いたものであり、寿司でなく飯となる。鶏飯駅弁の元祖とされる駅に出てきた、ありそうでなかったタイプの鶏飯駅弁。棒状なので食べやすく、付合せも何もないシンプルさで、この内容なので価格も控えめ。8月14日に中身を4切れに半減し400円の商品へリニューアル。
※2024年8月補訂:リニューアルを追記2021(令和3)年10月に鳥栖駅と新鳥栖駅で発売。酢飯を和牛しぐれ煮と錦糸卵と佐賀みつせ鶏の柚子胡椒風味のフレークで覆い、鶏ささみを並べ、鶏しゅうまい、柴漬け、大根桜漬を添える。映画や高校野球で2007年頃に流行した佐賀弁「がばい」と、昭和時代の鳥栖駅弁「とりちらし寿し」にヒントを得たのかもしれない、お肉で酢飯を食べるお弁当。名前も見た目も、現地というよりはむしろ催事で売りそうな駅弁に思えて、しかし催事でその姿を見たことがない、現地の駅弁。
2021(令和3)年5月1日のSL列車「SL人吉」の運転開始に合わせて、鳥栖駅で発売。SLの運転日のみの販売。掛紙には鹿児島本線でなく肥薩線を走るSL列車の写真が使われる。竹皮編み容器に見える、薄い竹皮を貼り付けた紙箱に収めた中身は、チキン南蛮の太巻き、れんこん、きんぴらごぼう、玉子焼、焼さば、焼麦(しゃおまい)3個、ウインナー、串カツなど。蒸気機関車のサイドビューを、食材でなんとか表現したように見えなくもない、肉と油の味がするお弁当。
JR九州の観光列車「SL人吉」は、熊本駅と人吉駅を結んだ列車。1988(昭和63)年に熊本駅と宮地駅を結ぶ観光列車「SLあそBOY」が走り始めた際に、同列車のために動態復元された蒸気機関車「58654」がもともと肥薩線の矢岳駅で保存されていたことを縁に、年に数回程度は「SL人吉号」として肥薩線にも顔を出すようにしていた。機関車の故障で2005(平成17)年に「SLあそBOY」が廃止された後、2009(平成21)年からは肥薩線のうち急勾配がない区間での「SL人吉」の運転となった。
2020(令和2)年7月の豪雨で肥薩線の八代駅から人吉駅を経て吉松駅までの区間は甚大な被害を受け、すべての列車が2022年時点でも運休中。SL人吉も止まったが、同年11月には蒸気機関車と客車が福岡地区でアニメ映画とのタイアップ列車に使われ、翌2022(令和4)年5月からは運転区間を鹿児島本線の鳥栖駅と熊本駅の間に改めて「SL人吉」の列車名のまま、土休日の運行が始まった。
こうして鳥栖駅に、SLが戻ってきた。鳥栖には昭和40年代まで蒸気機関車の車庫があり、汽車が行き交う鉄道の町であり、以後も駅の姿が当時とあまり変わらない。久々に汽車が来ても気が付かないくらい、とは書きすぎかもしれないが、自然に煤けた駅構内に溶け込んでいた。SLの駅弁も突然に、そしてひっそりと誕生し、これを偶然目にした鉄道ファンに買われている。
1980年代に二段重ねの上等幕の内駅弁として発売か。今は鳥栖駅弁で唯一の幕の内弁当。型押し俵飯の日の丸御飯を、焼鮭、鶏唐揚、玉子焼、こんにゃくやタケノコなどの煮物、きんぴらごぼう、しゅうまい、大根なます、大根漬、金山寺みそ、かまぼこなどで囲む。汽車に信号機に複葉機や火山と紳士淑女を描いたレトロモダンなふたの絵柄は、平成時代から変わらない。発売時からずっと800円だった価格は、2014年時点で830円、2023年時点で880円、12月から900円。
※2023年12月補訂:値上げを追記2022(令和4)年4月1日に鳥栖駅と新鳥栖駅で発売。20年ほど前までの久留米駅の名物駅弁「肉めし」が、当時の調製元を合併した鳥栖駅の駅弁屋から、復刻版として売られ始めた。この20年も久留米駅では「肉めし」が断続的に売られるが、ベースの御飯がカレー味でなく鶏味で、昭和時代とは異なるものであった。
掛紙の絵柄は、当時も今も久留米駅でみられる「肉めし」のものに「復刻版」の表記を加えたもの。赤くて硬い長方形のプラ容器に、カレー粉の味付飯を敷き、和牛しぐれ煮と錦糸卵で覆い、きんぴらごぼう、はじかみ、菜の花、大根漬を添える。昭和の昔の牛肉駅弁の雰囲気を、常温でうまくなかった赤黒く硬い肉を個性だと受け入れさせる工夫を、再現したようには思える。復刻版を名乗るわりには、かつてのものとは容器に加えて内容も味も差異が大きいと感じる。
鳥栖駅の駅弁である、この無名のちらし寿しは、いつから売られているのだろうか。正八角形の容器に酢飯を敷き、錦糸卵と山菜やごぼうで覆い、海老、椎茸、蓮根、甘酢生姜などを散らす。価格は2010年時点で740円、2014年時点で760円、2023年時点で780円。
※2023年12月補訂:値上げを追記おそらくJR九州の駅弁キャンペーン「第4回九州の駅弁ランキング」の開催に向けて、2007(平成19)年の秋に発売。2014年の第11回九州駅弁グランプリにもエントリー。長方形のプラ容器を、ノリ養殖が盛んな有明海の夕景と思われる写真を使うスリーブに収める。中身は味付け御飯の上を、アサリと太めの錦糸卵で半分ずつ覆い、菜の花と山ゴボウにうみたけ粕漬を添えるもの。
鳥栖駅ではなかなか出会えない。アサリが主題の駅弁はかつて熊本駅にもあったが、今では関東地方を除くとここだけかもしれない。価格は2008年時点で850円、2014年4月の消費税率改定で880円、2023年時点で900円。
※2023年4月補訂:写真を更新2008(平成20)年11月8日に購入した、鳥栖駅弁のスリーブ。上記の2023年のものと、容器と中身を含めて変わらない。
九州新幹線全線開業記念駅弁22種のひとつとして、2011(平成23)年1月1日から8月31日まで販売。九州新幹線を走るN700系電車と800系電車を描いたボール紙の箱を使用、中身はかしわめしの周りを左下から時計回りに、大根なます、アサリ五目煮、牛肉味噌焼と昆布巻とゴマ蓮根、焼鮭と煮エビと山ごぼう、焼麦と玉子焼とかまぼこ、海茸粕漬、金山寺味噌のおかずで囲むもの。
佐賀県を代表する食材を使用したという。酒のつまみを充実させた「長崎街道焼麦弁当」という印象。鳥栖のかしわめしの柔らかさもなかなかいいぞとも思った。また、鳥栖駅以外で売られる鳥栖駅弁の新作としては珍しく、現地での販売も実見できた。
新鳥栖駅は九州新幹線の開業とともに、長崎本線の鳥栖駅と肥前麓駅との間に設けられた新しい駅。将来は九州新幹線の長崎ルート改め西九州ルートが分岐する駅となる。駅前はまだ田畑であるが、土地区画整理事業が進められており、まずは九州国際重粒子線がん治療センターが立地する模様。駅の開業日から鳥栖の駅弁屋が在来線改札脇に進出、うどんスタンドで駅弁も売る。
下記の駅弁「牛めし弁当」の、2011(平成23)年時点での姿。長方形の容器に透明なふたをして、牛顔や駅弁の名前を焼き印のように印刷した木目柄なボール紙の枠にはめる。中身は鶏ガラスープの味付飯の上を佐賀牛の牛肉味噌煮と高菜の油炒めである程度覆い、玉子焼、ニンジン、大根漬も貼り、うみたけや焼麦などを添えるもの。
どうしてこれに購入時で1,100円もの値を付けるのか、疑問にしか思えない商品。大根漬の散乱は輸送販売では仕方がなくても、「九州の駅弁ランキング」などの見本写真では、もっと肉も高菜も入っているようなので、東京へたくさん送る際に手抜きか間違いでもあったのか。牛肉と高菜の九州風な甘い味付けも、首都圏での販売では厳しかった。2014年4月の消費税率改定で1,140円。2018年までの販売か。
※2020年5月補訂:終売を追記2004(平成16)年の秋頃に発売か。下記の駅弁「辛子めんたい弁当」とまったく同じ赤いプラ容器を、赤と緑で地柄と文字の色を逆にしたスリーブに収める。中身は茶飯の上を、鶏フレークと錦糸卵と牛肉のストライプで覆い、はじかみと大根桜漬を載せたもの。つまり「かしわめし」と「牛めし弁当」を足して2で割ったもの。「三昧」というほど肉が大量に入るわけはないが、牛鶏丼の感覚でモリモリと食べられる。
この駅弁は、2005(平成17)年10月からのJR九州の駅弁キャンペーン「九州の駅弁ランキング第2弾」にエントリーされた。しかし鳥栖駅では予約限定かつ販売を拒否されることもあり、一方でスーパーやデパートの駅弁催事では鳥栖駅の駅弁として大々的に売られた、事実上の疑義駅弁。2006年頃に販売を終えた模様。
※2015年8月補訂:終売を追記2004(平成16)年秋の新製品か。真っ赤なプラ容器を、やはり真っ赤で商品名を緑色の文字で書いたスリーブにはめる。中身は御飯の上を砕いた辛子明太子で覆い尽くし、塊の辛子明太子にレモンや菜の花を添えたもの。辛子明太子が大丈夫、辛いものを食べて問題ない人のみが、いただけるお弁当。そうでないと本当に食べる所がない。催事では福岡空港の空弁として販売。福岡空港や鳥栖駅でも売られたはずだが、販売の光景を目撃することはできなかった。現存しないと思われる。
※2015年8月補訂:終売を追記鳥栖駅の駅弁「焼麦弁當」などと同じ正方形の容器に、レトロモダンでハイカラな鉄道風景やアイテムを描いた掛紙兼用のボール紙のふたをする。中身は味付け御飯の上に錦糸卵を敷き、しぐれ煮風の牛肉とごぼうの煮付けなどを載せるもので、焼麦こと焼売がひとつ付く。写真は東京の百貨店の駅弁大会で購入したものなので、見た目の悪さは割り引く必要があるが、メインの牛肉が少量で硬く、一方で「かしわめし」と共通の御飯はおいしいので、やはり鳥栖の駅弁は焼麦と鶏飯が良いなと思う。2006年頃に販売を終えた模様。
鹿児島本線の下り列車が鳥栖駅を出発すると、進行方向の左手に大きな競技場が見える。かつて貨車が行き来した国鉄の操車場の跡地に建設された、鳥栖市営のサッカー場。1993(平成5)年の誕生で一大ブームとなったプロサッカーリーグ「Jリーグ」のチームを誘致し、1996(平成8)年6月にオープンしたものの、肝心のプロサッカーチーム「鳥栖フューチャーズ」がわずか半年で破綻した。Jリーグの特例と支援で新チーム「サガン鳥栖」が継承したものの経営が安定せず、2004(平成16)年2月にはJリーグ自らが出資者となる異例の処置。交通と物流を除き地味な街の名を、全国のスポーツファンへ発信してしまった。
※2015年8月補訂:終売を追記2001(平成13)年に発売。天然記念物である薩摩鶏の血を2分の1以上引き、1年以上かけて飼育した地鶏を使用、味付け御飯の上に錦糸卵を添えて載せる。日本で初めて鶏飯の駅弁を作ったという調製元だけに味は確かで、価格が抑えられている点も嬉しい。ただし、鳥栖は薩摩ではなく肥前の国に属する。2006年頃に販売を終えた模様。
※2015年8月補訂:終売を追記鳥栖駅の駅弁屋である中央軒の監修により、2006(平成18)年3月7日から20日まで、コンビニエンスストア大手のファミリーマートの全国各地の店舗で販売された商品。中が白く外が黒いプラ容器に、味付飯を詰めて錦糸卵としぐれ煮風牛肉などを載せて、鶏肉と高菜などを添える。
鳥栖の牛飯は個人的にうまくないと感じているが、この監修商品は牛肉がスジだらけで、こうなってしまうと不味いと感じる。付け合わせの三種も鳥栖駅弁と雰囲気が異なり、これは駅弁と別物だと見るべき。
1977(昭和52)年10月15日の調製と思われる、昔の鳥栖駅弁の掛紙。当時はすでに新幹線が博多に乗り入れて九州内を電車特急が駆けめぐっていた頃であるが、この掛紙には「お召上り後は…腰掛けの下におしまつ願います」と、まだ汽車の時代のような昔ながらの注意喚起が残る。鳥栖駅に加えて二日市駅でも売られたことがわかる。
1973(昭和48)年9月4日3時の調製と思われる、昔の鳥栖駅弁の掛紙。西九州の地図と国鉄路線図と名所のイラストが略図で描かれる。当時に中央軒という駅弁屋があった、鳥栖駅、二日市駅、久留米駅、大牟田駅が赤丸で描かれる。
1950年代のものと思われる、昔の鳥栖駅弁の掛紙。「鳥栖駅 中央軒」の文字がないと、どこの駅弁なのか分からないくらい、特段の個性がない絵柄である。
1950年代のものと思われる、昔の鳥栖駅弁の掛紙。これもまた、どこの駅弁か分からない絵柄。左側に加えて絵柄でも旅客に注意を呼び掛ける、マナーポスターのようになっている。
1950年代のものと思われる、昔の鳥栖駅弁の掛紙。入手状況から2枚組、おかずと御飯の容器ごとに掛紙を持っていたと思われる。御飯の「無砂搗(むさつき)」とは、搗粉(つきこ)あるいは磨砂(みがきずな)を使わず精米したことを指す。1955(昭和30)年に通風摩擦式精米機が発明されるまで、効率的にな精米には砂を混ぜることが、混砂搗が必要だった。
1935(昭和10)年3月12日午後の調製と思われる、昔の鳥栖駅弁の掛紙。絵柄は冬の九州に渡ることもあるコハクチョウか。調製元の八ッ橋屋は、現在の中央軒の前身のひとつで、1892(明治25)年4月に鳥栖で創業し弁当などを売り、1942(昭和17)年5月に鳥栖駅と久留米駅と大牟田駅と日田駅の4駅5者の合同で九州中央鉄道構内営業、屋号「中央軒」となったもの。