東京駅から東北新幹線はやぶさ号で約3時間。八戸市は青森県の南東端で太平洋に面する、人口約22万人の港町。かつて水揚げ日本一を誇った漁港と、県内一の工業地帯を誇る産業都市。駅弁は明治時代からの駅弁屋の駅弁が売られ、東京や北海道など東日本の各地でも盛んに売られる。1891(明治24)年9月1日開業、青森県八戸市尻内町。
2010(平成22)年12月の東北新幹線全線開業とともに、八戸駅で発売か。この内容の弁当はその頃には、調製元の本業である三沢市内の小僧寿しチェーンで売られていたらしい。楕円形の容器は4つに区画され、ホッキのソテーを載せた炊き込み御飯、ホッキみそ丼、ホッキのフライと柴漬け、フキとニンジンの煮物にがんもどき。常温で作り置く駅弁も回転寿司などでも、どうしても固かったり臭みが出がちなホッキ貝にあって、これは不思議と普通に食べられて、味噌和えに揚げ物と個性的な姿もいただける。知名度はないけれど、優れた駅弁。
2021(令和3)年2月24日に八戸駅で発売。中身を少し見せたスリーブには、英文による「STRAITS SALMON marinated with sauce CHIRASHI-SUSHI」の訳文と「Salmon grew from the rough seas of Tsugaru Strait MISAWA,AOMORI」の宣伝文がみえる。中身は酢飯をサーモンで覆い、レンコンとイクラを添え、ガリとワサビとタレを付ける、とてもシンプルな内容。「海峡サーモン」の漬けは、スモークサーモンを思わせる香りと柔らかさ。駅弁でよくある焼鮭でない、まれにある鮭の押寿司にない、豊かな味わいが印象的。
海峡サーモンとは、青森県むつ市大畑町の北彩漁業生産組合が生産する、1989年に大畑さけます養殖漁業研究会が養殖を始めた大型のニジマス。淡水で2年、津軽海峡の生け簀で8か月育てて4kg前後の大きさになり、脂の乗りとクセのなさで初夏の生食を推奨する。青森県下北地方では1994年から大畑海峡サーモン祭りを毎年開催したり、2001年頃に商標を登録し2003年にネット通販を始めるなど普及と拡販に努め、2010年代後半には東京などの都会でもその名と味が知られ始めてきている。
2021(令和3)年7月までに八戸駅や新青森駅で発売か。同年10月のJR東日本の駅弁キャンペーン「駅弁味の陣2021」にエントリー。丸い容器にタコの炊込飯を詰め、ホタテ、玉子焼、枝豆、生姜佃煮で彩る。見た目は普通のお惣菜でも、ミズダコは三沢産(三沢漁港での水揚げという意味か)、米やホタテや玉子焼は青森産と、地元の食材にこだわった。風味の広がりと千円を切る価格で、有名な西明石駅弁「ひっぱりだこ飯」や、伝統の三原駅弁「元祖珍辨たこめし」に並べるか。
2016(平成28)年に盛岡駅や八戸駅や新青森駅で発売か。駅弁の名前は「三沢八戸弁当」とも「三八弁当」とも「いかさば弁当」ともされるが、掛紙裏面と食品表示には「三八弁当」とあり、おそらく「さんぱちべんとう」と読む。ここでは掛紙で最も大きな文字での表記に従った。赤青白でトリコロールの掛紙には、中身の写真と宣伝文も描かれる。
長方形の容器に酢飯を詰め、薄く薄くスライスしたイカ一夜干しやサバで覆い、イカゲソやサバ竜田揚や生姜やごぼうなどを付け合わせる。三沢沖地域ブランドの昼イカ「赤とんぼ」というイカが新鮮で、銀鯖(八戸前沖鯖)というサバにも脂が乗り、控えめな見栄えに違い味は極上。食べて食べ比べた人だけで票を数えれば、きっと駅弁味の陣の駅弁大将軍になれる。無名のままにしておくには惜しい、とてもうまい駅弁。
駅では2016(平成28)年の秋頃のデビューか。2017年2月の日本食糧新聞社「惣菜・べんとうグランプリ2017」優秀賞、同年秋のJR東日本の駅弁キャンペーン「駅弁味の陣2017」にエントリー。
赤と青のパッケージに記されるとおり、右に八戸前沖さばの握り寿司を4個、左に海峡サーモンの握り寿司を4個詰め、中央に県産鶏の唐揚げ、八戸前沖さばの竜田揚げ、三沢産ごぼう漬けなどを置く。生魚(風)の多用や、強くない酢、ワサビ入りの握りなど、弁当の外見に違い、駅弁っぽくなく、寿司屋の折詰という感じ。価格は2017年の購入時で1,300円、2020年時点で1,450円。
※2023年7月補訂:値上げを追記東北新幹線新青森開業1周年を記念して、2011(平成23)年12月に発売か。「ずっぱど」とは津軽弁で、いっぱい、たくさんという意味だそうな。正方形の容器に、青森県の形と3食材4祭にE5系新幹線電車などの写真と駅弁の名前などを描いた掛紙を巻く。
中身は掛紙に書かれるとおり、ウニ御飯、とりそぼろめし、牛カルビ、ホタテ、サバ照焼、磯豆腐、山菜煮物、ねぶた漬、南蛮みそ、ごぼうなど。今はなき鹿児島県の川内駅の駅弁「べっぴんさん」のような具の配置。贅沢でなくB級グルメの感がある、たしかに分量たっぷりな駅弁。
八戸駅は、2002年12月に始まった新幹線の終着駅で在来線特急との乗換駅という地位が2010年12月に失われ、倍増した駅の利用者は半減した。従前と同じ位置と規模で残る新幹線改札内の駅弁売店には、東日本大震災の発生も加えて寂しいことになっていたが、訪問時には品揃えがやや戻っていた。8年間のフィーバーは終わったが、まだまだ実需があるようだ。
この駅弁は、調製元の2014年4月30日付での事業の停止により失われた。
※2014年9月補訂:終売を追記東北新幹線の新青森開業に向けて、2010(平成22)年11月21日に八戸駅で発売、12月4日の新幹線開業に伴い新青森駅での販売も開始された駅弁。市販のボール紙製の仕出し弁当容器に、中身の写真を掲載した大きな掛紙をかける。
中身はイカをまぶしたウニ飯に、イカ磯部揚、鶏唐揚、昆布煮、サトイモやニンジンなどの煮物、ダイコンとニンジンとたらこの和え物、リンゴゼリーと、メインの「せんべい汁」。プラ製カップにせんべい、キャベツ、ニンジン、ごぼう、ネギが入っており、これにボトルのだし汁をかけて食べる。個性はそこだけで、他はキワモノでもゲテモノでもない、雰囲気と風味の良いお弁当。
せんべい汁とは、汁物や鍋料理に南部煎餅を突っ込む、八戸エリアの郷土料理。他の地域ではあり得ない奇抜な発想は、八戸名物のB級グルメとして旅行者を驚かせる。これを駅弁にしてしまうことにもっと驚かされたのか、東北新幹線新青森開業報道で紹介された駅弁では間違いなく一番人気であったと思う。
この駅弁は、調製元の2014年4月30日付での事業の停止により失われた。
※2014年9月補訂:終売を追記2010(平成22)年12月の東北新幹線新青森開業に向けて、同年11月21日に八戸駅で発売、12月4日の新幹線開業に伴い新青森駅での販売も開始された駅弁。やや華奢な楕円形の容器に透明なふたをして、中身のイメージ写真を美しく印刷したボール紙の枠にはめる。
中身は半分が白御飯の上に豚肉味噌焼を、半分が白御飯の上に豚肉醤油焼を、飯の中と上に重ねる豚焼肉弁当。これにきぬさや、もみじ麩、ごぼうを添える。リンゴの繊維とニンニクを混ぜた飼料で育ったという「林大豚(りんにんとん)」の豚肉は見た目に白い脂が少々浮いているが、臭みもなく飽きない感じ。しかし同時デビューの「せんべい汁弁当」のインパクトが強烈であるため、こちらは話題になっていない。
この駅弁は、調製元の2014年4月30日付での事業の停止により失われた。
※2014年9月補訂:終売を追記東北新幹線の新青森開業に向けて、2010(平成22)年5月20日に発売。機に紙を貼り合わせた薄手の長方形の容器に透明なふたをして、中身と土偶の写真や商品名に宣伝文などを印刷した掛紙で巻く。中身は「つがるロマン」の酢飯の上に錦糸卵、刻み海苔、タラそぼろ、シイタケ、ニンジン、かんぴょうなどを使うちらしずしに、オランダこんにゃく、七尾たくわん、梅酢生姜、いちご煮ゼリーを添えるもの。
NHK「今日の料理」の「とき子ばぁば」こと鈴木登紀子氏が監修したとある。調製元にとって究極のちらしずしだそうな。淡いピンク色のちらしずしの調味がやわらかく、添付のゼリーは甘くなく、ちょっとおすすめしたくなる雰囲気の良い駅弁。
合掌土偶とは、1989年7月に青森県八戸市の風張1遺跡で縄文時代後期の竪穴住居跡の片隅から出土し、2009年3月には国宝に指定された土偶で、掛紙写真のとおり座って手を合わせていることからこの名が付いた。商標を八戸市が保有しており、この弁当も使用許可を取って文字と図形を掲載している。
この駅弁は、調製元の2014年4月30日付での事業の停止により失われた。
※2014年9月補訂:終売を追記2007(平成19)年に発売か。正方形の華奢な容器に透明なふたをして、おしぼりと割りばしを置いて輪ゴムで留め、商品名を書いた黄色い掛紙を巻いて、セロテープで留める。田の字の中身はそれぞれ、牛丼、牛カルビ丼、牛めし、煮物やキュウリと菊の酢の物やリンゴゼリーなどのおかず。
こちらは味も見栄えも掛紙のデザインも野暮ったく、どう考えても贅沢ではないBマイナス級グルメ。しかし他の八戸駅弁は東京駅で買える吉田屋製と盛岡駅で買えるNRE製であるから、八戸駅でしか買えないニュー八製は重視し重宝すべきだと思う。
この駅弁は、調製元の2014年4月30日付での事業の停止により失われた。
※2014年9月補訂:終売を追記2006(平成18)年までには発売。平たく赤いプラ製の釜飯風容器を使用、ウニの写真を大きく掲載したボール紙の枠にはめる。中身は山菜と大葉の混ぜ御飯に、蒸しウニと煮帆立3個と山菜などを載せるもの。この価格なのにウニにボリューム感があり、ウニ以外の御飯もおかずもおいしいし、東久邇宮記念賞だとかモンドセレクションだとかの大量発行な賞の宣伝をしなくても、十分に良い駅弁だと思う。
この駅弁は、調製元の2014年4月30日付での事業の停止により失われた。
※2014年9月補訂:終売を追記2003(平成15)年に発売か。正八角形の経木枠の容器に透明なふたをかけて掛紙代わりの紙帯で留める。中身は酢飯の上に、八戸近海やりいか姿煮、むつ湾産帆立旨煮、特製雲丹そぼろ、三陸いくら醤油漬、蟹甘酢漬が載るもの。同社他駅弁で見たような具に食べたような味で、新たな発見がない代わりに実績ある味に安心感がある。紙帯にお品書きがあるのに、それを巨大な食品表示ラベルで覆い隠してしまう姿も、同社の他の駅弁で見たような。
なお、調製元の経営不振による事業譲渡に伴い、この駅弁は2005年8月までに消滅する模様。支店も同月頃に閉店となる。この駅弁は2006年頃まで売られた模様。
※2016年11月補訂:終売を追記東北新幹線の八戸延伸に合わせて、2002(平成14)年12月1日に発売。平面は長方形、断面は六角形のユニークな形状のふた付容器を使用、フルカラー新聞風の掛紙で包み、紙ひもで割りばしごとしばる。
中身は南部のかっちゃ、つまり南部地方のお母さんが朝市で買ってきた新鮮野菜と鮮魚を使い毎日愛情を込めて作るお弁当というコンセプトで、味付けおこわの御飯に鯖漬焼、倉石牛佃煮、人参やこんにゃくの煮物類に半熟煮玉子、焼蒲鉾など、八戸や近隣の食材を多く取り入れた。
個性と風味に秀でている駅弁のお手本であるものの、伯養軒特製の特大感熱食品表示ラベルによって、掛紙の新聞記事の一部が読めなくなっているとともに、見栄えの良さを減じている。法令の際限ない強化で表示義務事項が激増しているものの、他社では容器に貼ったり別紙化する実例もあるので、いつかは改善されないかと思う。
なお、調製元の経営不振による事業譲渡に伴い、この駅弁は2005年8月までに消滅する模様。支店も同月頃に閉店となる。
※2005年12月補訂:公式サイトの閉鎖に伴いURLを削除。調製元の名称・所在地・連絡先も変更された可能性がある。駅弁としては2002(平成14)年12月1日に発売。過去に同じ掛紙と名前と中身を持つ駅弁が、JR東日本の観光キャンペーン「LOOK EAST」のオリジナル駅弁131種類のひとつとして、有限会社八から1989(平成元)年に発売された記録がある。
容器を竹籤で巻いて、菊を描いた掛紙でさらに巻く。その中には笹に包まれたうに・さけ・ほたて・いか・さばの5種類の笹寿司が1個ずつ入り、笹を取ると食用菊の花びらを、具の上に載せ酢飯の中にも均等に混ぜる中身が出てくる。食用菊そのものは味を主張しないため、口の中では何か異物が入る普通に美味い笹寿司でしかないが、見た目の美しさ、特にシャリの輝きは高級洋菓子のよう。
掛紙には力強く「八戸駅弁」の文字が入る。八戸市内の仕出し料理屋が新幹線延伸を機に駅構内での販売に進出したものだが、新聞報道には「念願の」という枕詞が付いており、駅弁への進出が本当に嬉しかったのだろう。駅弁は明らかに衰退へと向かっているので、このような業者さんには感謝状を送らなければならないのではと思う。
この駅弁は、調製元の2014年4月30日付での事業の停止により失われた。
※2020年1月補訂:過去情報を追記東北新幹線の八戸延伸に合わせて、2002(平成14)年12月1日に発売。内側が青く外側が黒い木目調の独特な容器に、郷愁を誘うセピア色の写真を載せた掛紙をかけて紫色の紙ひもでしばる。中身は牛肉が少ない牛肉弁当といえ、白御飯に倉石牛の網焼やそぼろや佃煮などが入り、デザートに見えるカップは濃縮還元をしていないりんごジュース。味は良いのに価格の割に隙間が多く見た目で損をしているが、御飯を除きすべてが倉石村産の食材を使用したというから、村の豊かさを感じさせる。
青森県三戸郡倉石村は、八戸駅から約15km西にある人口約三千人の村で、村内に鉄道はなく全国的な知名度も無に近いが、特産の肉牛で少しずつ知名度を上げており、仙台の駅弁業者とタイアップしたこの駅弁でさらなる村のアピールを図っていた。しかし2004年7月1日に五戸町と合併し消滅した。
なお、調製元の経営不振による事業譲渡に伴い、この駅弁は2005年8月までに消滅する模様。ただ、その前に製造が中止されていたらしい。支店も同月頃に閉店となる。
※2005年12月補訂:公式サイトの閉鎖に伴いURLを削除。調製元の名称・所在地・連絡先も変更された可能性がある。東北新幹線の八戸延伸に合わせて、2002(平成14)年12月1日に発売。長方形の容器に透明のふたをかけて掛紙を兼ねる帯で締める簡素な包装。中身は透けて見えるとおり、軽く味噌風味が付いた倉石牛が白御飯を覆い、柔らかいのに歯ごたえのある人参やゴボウの煮物が添えられるもの。
東北で数々の名誉賞を受賞しているという、青森県三戸郡倉石村特産の「倉石牛」は、冷たいのに柔らかさとサクッとした食感に牛肉らしい風味が備わるなど、中身は申し分なし。あとは原材料や消費期限を印字したシールをなんとかすれば、絵にもなる駅弁になれるはず。なお、倉石村は2004年7月1日に五戸町と合併し消滅した。
2002年12月1日に延伸された東北新幹線。大宮・盛岡間が開業したのは1982(昭和57)年6月のことだから、青森県内に北進するまで約20年もの歳月を要した。その間に1992年の山形新幹線開業、1997年の秋田新幹線開業、1999年の山形新幹線新庄延伸という具合に、青森県は新幹線延伸において山形県や秋田県に大きく遅れを取ることとなった。
しかし、最高時速130キロの在来線規格である山形・秋田新幹線に対して、こちらは時速300キロ以上の速度が見えてくる「フル規格」の新幹線なので、長い目で見れば所要時間や信頼性で徐々にアドバンテージが出てくるはずで、結果的に青森県は良い選択をしたと感じる。10年以内の新青森駅までの延伸は決定しているが、青函トンネルに新幹線が通るのは何十年後になるのだろうか。
なお、調製元の経営不振による事業譲渡に伴い、この駅弁は2005年8月までに消滅する模様。その前にすでになくなっていたという話もある。支店も同月頃に閉店となる。
※2014年9月補訂:終売を追記