東京駅から新幹線で約3時間。第二次大戦中に工場労働者のために開業した駅に、1972年に新幹線が乗り入れ、在来線との乗換駅となり、神戸駅の駅弁屋が進出した。1998年に西明石駅の駅弁として発売した「ひっぱりだこ飯」が、関西と日本を代表する駅弁として君臨する。1944(昭和19)年4月1日開業、 兵庫県明石市小久保二丁目。
1998(平成10)年4月5日の明石海峡大橋開通を記念して発売。明石や神戸と関西や日本を代表する、有名で人気の駅弁。関西人ならみんなこのタコツボ容器を持っているといわれる。たこつぼ状の茶色い焼き物容器の中に、明石のタコのうま煮やすり身天ぷらを、醤油味の炊き込み御飯やタケノコ・穴子・松茸・人参などとともにぎっしり詰める。掛紙の裏面に追記されたとおり、明石だこの不漁により、2017(平成29)年5月から瀬戸内海産のタコを使っているという。
好評で定番化した記念駅弁について、普通はレギュラー入りするとその記念文句を削るのに対し、この駅弁はいつまでも明石海峡大橋開通を記念し続ける点がユニーク。2004年度のJR西日本の駅弁キャンペーン「駅弁の達人」の対象駅弁。価格は1998年の発売時から長らく980円であったが、2014年4月の消費税率改定で1,000円に値上げ、2017年10月頃から1,080円、2022年3月から1,150円、2023年時点で1,200円、同年夏で1,250円。2017年に累計販売1千万個を達成したとか。
※2023年8月補訂:値上げを追記2004(平成16)年9月5日に購入した、西明石駅弁の掛紙。この絵柄も、容器も中身も、1998(平成10)年の発売当時から変わらない。この年はJR西日本の駅弁キャンペーン「駅弁の達人」が開催されていて、その応募シールが掛紙の上隅に直接印刷された。
2001(平成13)年12月1日に購入した、西明石駅弁の掛紙。当時は「明石名物」でなく「明石名産」ひっぱりだこ飯であった。公式サイトのURLや、「紙」のリサイクル識別表示も、まだついていない。
2022(令和4)年4月28日から5月5日まで、京阪神エリアや東京駅や通信販売などで販売。以後は毎年5月3日から5日まで販売。5月5日のこどもの日にちなみ、掛紙ではタコが兜(かぶと)をかぶり、タコツボ型の陶器は水色になり、中身にカボチャを加え、ニンジンを兜型にした。掛紙は両面印刷であり、指示どおり組み立てると掛紙のタコがかぶるものができるはず。
2020(令和2)年9月の「秋」で初登場した、季節のひっぱりだこ飯の、6月に発売された夏バージョン。6月から8月までの販売か。見た目は普段の「ひっぱりだこ飯」と同じ。掛紙のタコはビーチで麦わら帽子をかぶる。中身はタコ飯とタコ煮とタコボールに、ヤングコーン、みょうが、アスパラを加え、菜の花とタケノコを抜いた。価格は2021年が通常版プラス20円の1,100円、2022年が通常版プラス50円の1,200円、2023年が通常版と同じ1,250円。
2023(令和5)年7月28日に購入した、西明石駅弁の掛紙。上記の「夏のひっぱりだこ飯」と同じ月に買ったので、掛紙もタコツボ容器も中身も味も同じもの。兵庫県神戸の調製元は2022年8月に東京都足立区へ東京工場を設け、東京駅などで売る駅弁を東京で作るようになった。消費期限の表記を現地版の印字でなくシールとし、そこに東京工場の名前と所在地を記した。
2021(令和3)年2月27日から3月3日まで、1,100円で販売。名物の駅弁「ひっぱりだこ飯」で、初めて出てきたひなまつりバージョン。タコツボ型の陶器は通常版と共用、掛紙のタコは男雛と女雛になり、背景は梅の花と色になり、表題は「〜3月3日は桃の節句「ひな祭り」〜」となった。
中身は茶飯をはまぐり煮、三色かまぼこ串、タコ煮、アナゴ煮とシイタケ煮の刻み、タケノコ煮、にんじん煮、菜の花醤油漬、錦糸卵で覆い、丸い揚げかまぼこを底に仕込むもの。通常版からタコを減らし、ハマグリとかまぼこ串を入れた感じで、その分だけ味が少し柔らかい。2022年は2月26日から3月5日まで1,200円で販売、2023年は3月1日から3日までの販売。
※2023年8月補訂:販売期間を追記西明石駅の名物駅弁「ひっぱりだこ飯」が、節分の恵方巻になったもの。2013(平成25)年までには発売し、節分の当日のみの販売。年に1日のみ販売する駅弁と考えると、昭和時代に年4日のみの販売が知られた高山駅の駅弁「まつりべんとう」を上回る激レア商品に見えて、恵方巻きがコンビニ大手から2000年代に全国へ定着したことで、2010年代には各地の駅弁屋がこのような商品を販売するようになってきている。
透明なプラ容器に、切らずに食べられる太さの海苔巻きが1本。その中身はひっぱりだこ飯と同じで、味付け飯にタコ煮、シイタケ煮、アナゴ煮、タケノコ煮、錦糸卵、そして揚げかまぼこまでも仕込み、掛紙も駅弁と同じ図柄。値段も含めて駅弁がかなり再現された。
今回2022年は「穴子天巻き」(1,080円)「幸福巻き」「牛肉巻き」「かつめし巻き」(各600円)と新発売の「但馬どりのからあげ巻」(800円)の6種類を展開したそうな。節分に恵方と呼ばれる毎年異なる方角を向いて無言で太巻きなどを食べる風習は、大阪あるいは関西では以前からあるそうで、この関西の調製元も2012年以前から駅弁とは別に「節分巻寿司」を販売していたらしい。2023年は1,100円で販売。
※2023年8月補訂:現況を追記2022(令和4)年1月7日に発売。名物の駅弁「ひっぱりだこ飯」のカレー味。この駅弁は上記や下記の亜種と異なり「ひっぱりだこ飯」を名乗らなかった。正方形の掛紙といつものタコ壷がカレー色、ターメリック色になり、「〜蛸壷から漂う異国の香り。新・明石名物ここに誕生〜」とキャッチフレーズも新しい。
中身はバターライス風の炊込飯を挽肉のドライカレーで覆い、タコ煮と野菜を載せ、揚げかまぼこを底に仕込んだもの。やはり「ひっぱりだこ飯」がカレー味になったと考えて違いない。臭いはおだやか、常温に適したつくりで、例えば新幹線の車内で食べても、30年くらい前にビュフェから座席にカレーライスを持ち込んで迷惑だ、といったことにはならなそう。価格は2022年の発売時や購入時で1,200円、2023年の夏までに1,250円。
※2023年8月補訂:値上げを追記2020(令和2)年9月の「秋」で初登場した、季節のひっぱりだこ飯の、12月に発売された冬バージョン。スーパーの駅弁大会にも出荷されているらしいが、販売箇所はかなり絞られるようで、阪神百貨店の駅弁大会でようやく見つけられた。見た目は普段のひっぱりだこ飯と同じで、価格は通常版より20円増しの1,100円。掛紙の絵柄にカニとホタテが加わり、中身にカニ爪とホタテ煮を加え、菜の花を小松菜に置き換え、タケノコとアナゴを抜いた。続いて「春」「夏」も販売。価格は「春」の2022年3月から1,150円で、同時に値上げの通常版と同額になった。2022年冬は1,200円。
※2023年8月補訂:値上げを追記2020(令和2)年1月の京王百貨店の駅弁大会で実演販売。同時に売られた「黄金のひっぱりだこ飯」と違い、これは現地でも買える模様。いつもの陶製タコ壷容器を銀色に染めて、掛紙も銀色になり、その形状や絵柄は通常版と同じ。中身もタコやシイタケを混ぜた醤油飯を詰め、タコ煮、菜の花、刻み煮穴子で覆い、揚げかまぼこを仕込むまでは同じで、加えてギンザケとギンナンで銀を演出した。
この催事では「黄金」とこれと通常版で、3種のひっぱりだこ飯を実演販売。この年の夏には東京五輪が開催予定で、後に政府の新型コロナウイルス感染症対策により開催が延期されてしまったが、催事場では五輪にちなんだと思われるような駅弁が出てきていた。ここでは黄金と銀色と、銅色にも見える通常版を、表彰台のような段違い台に並べた写真を調製元がSNSに投稿しており、なるほどなと思った。半世紀前の東京五輪当時と違い、今は権利が強大なので、五輪に関する記述は催事のチラシにも催事場にも、どこにもなかった。
2017(平成29)年1月7日に、京王百貨店駅弁大会と西明石駅などでデビュー。西明石駅の名物駅弁「ひっぱりだこ飯」の累計生産1000万個突破を記念し、いつものタコ壷を金色に染めた。併せて駅弁大会の目玉である対決駅弁の二番手「海の幸黄金の弁当対決」として、福井駅、京都駅、姫路駅の駅弁と実演販売で対決した。
中身は通常版とほぼ同じで、味も同じで、よく見るとクリが1個追加されている。容器と掛紙が、本当にキンキラキンで、これはとてもおめでたい。通常版と併売。こちらは主に、駅弁催事向けか。価格は2017年の発売時や購入時で1,280円、2019年時点で1,350円、2023年時点で1,500円。
※2023年8月補訂:値上げを追記2023(令和5)年9月15日から21日まで、新神戸、神戸、西明石、芦屋、鶴橋、垂水、三宮の各駅など調製元の直営店とオンラインショップで販売。プロ野球団の阪神タイガースの、セントラルリーグのペナントレースでの優勝を記念し、優勝が決定した2分後に駅弁の発売を発表、その翌日から販売した。後に販売期間は10月1日まで延長された。
黄色と黒の模様でできた掛紙をかけた、「金色」や「黄金」のひっぱりだこ飯と同じ金色のたこつぼ型陶器に、醤油味の炊込飯を詰め、タコ煮、菜の花、刻み穴子、タケノコ、ニンジンを載せ、揚げかまぼこを仕込み、「優勝2023」と書いた玉子焼を詰める。なので、味は普段の「ひっぱりだこ飯」と同じ。
ここでの「アレ」とは、直接には玉子焼を、間接的には阪神タイガースの優勝を指す。前回の2005年の優勝後、2008年には開幕から首位を独走したにもかかわらず、9月に日刊スポーツ出版社が記念誌「Vやねん!タイガース」を発売したとたんに読売ジャイアンツに追い上げられ優勝されてしまった。2021年にも開幕から首位を独走したところ、6月に朝日放送テレビが特別番組「あかん阪神優勝してまう」を放送したところ失速し混戦となり、10月に「16年ぶりに阪神優勝してまう?」を放送されてヤクルトスワローズに競り負けた。そこで「優勝」というと優勝を逃すから「アレ」ということにしたらしい。駅弁屋はいつの時点でアレ入り駅弁を仕込んだのか、9月に怒濤の連勝により一気に優勝が決まると、アレの掛紙が日の目を見て、安心して「優勝」と書いた玉子焼を詰められたのだろう。
2023(令和5)年7月1日と2日に、神戸や大阪などの淡路屋17店舗とオンラインストア(ネット通販)で販売した。ここでは夏至から数えて11日目頃とした季節の暦日「半夏生(はんげしょう)」に、タコを食べる風習が関西にあるそうで、タコを通常版の3倍入れた「ひっぱりだこ飯」を初めて販売した。
タコツボ型の陶器や掛紙のつくりは通常版と同じでも、掛紙に描いたタコも普段の3倍大きく見える。中身は味付き飯にタコ煮、錦糸卵、菜の花、椎茸煮、穴子煮、タケノコを詰め、揚げかまぼこを仕込むもので、内容は通常版と同じ。タコ煮が増えたぶん、ふたを開けたらほぼタコ。刻まれたり混ぜたりしないため、大きくて飯をほじくりにくくて食べにくいとも思うし、豪快だとも思う。
2020(令和2)年1月の京王百貨店の駅弁大会で実演販売。その3年前の発売で、駅でも売られる上記の駅弁「金色のひっぱりだこ飯」に、とてもよく似ているが別物である。掛紙にもちゃんと「黄金のひっぱりだこ飯」と書いてある。その絵柄は通常版とおおむね同じ。
金色に染めた陶製タコ壷容器に、タコやシイタケを混ぜた醤油飯を詰め、タコ煮、菜の花、刻み煮穴子で覆い、揚げかまぼこを仕込むまでは、通常版と同じ。これにクリとトビコと金胡麻を加えて黄金を演出し、価格を300円、「金色」よりも30円上げた。だから味やその印象もまた、おおむね通常版と同じだった。
2023(令和5)年1月の京王百貨店の駅弁大会で販売。現物からは読み取れないが、「SDGs×駅弁」として「人気駅弁の端材おにぎりでフードロス削減」と広告し、3種類または5種類のおにぎりを輸送販売した。これは西明石駅弁「ひっぱりだこ飯」のもので、タコ煮と錦糸卵を味付き飯に押し付けて海苔で巻いた三角おにぎりを1個、商品紹介と食品表示のラベルを貼ったプラ製ケースに収めたもの。駅弁と同じ調製元が作るため、駅弁と同じ味がして、その点で下記のようなコンビニの再現品よりも本格的であり、価格もこなれている。いつかどこかで売られるように、なるかどうか。
2021(令和3)年10月12日から11月1日まで、JR東日本の駅のコンビニ「ニューデイズ」で販売。10月14日の鉄道の日にちなみ、駅弁会社が監修する「駅弁風おにぎりシリーズ」として、山形県の米沢駅「牛肉どまん中」、兵庫県の西明石駅「ひっぱりだこ飯」、東京都の東京駅「チキン弁当」の3種類を、コンビニおにぎりにして販売した。調製は地域ごとの取引先の食品会社と思われる。
袋の絵柄はひっぱりだこ飯の掛紙から引用し、本物の見本写真も掲載。玉子と穴子入り炊込み飯に、たこの甘醤油煮を貼り、海苔で巻いたものを1個袋詰め。おにぎり1個という制約の中、御飯の味や全体の雰囲気を、かなり再現できていたのではないかと思う。タコ飯のおにぎりがコンビニで売られることは稀だと思うので、その点でも面白い商品だった。
2019(平成31)年1月の京王百貨店の駅弁大会で販売。西明石駅弁「ひっぱりだこ飯」について、本体と同じ素材のふたを付けたもの。下記のとおり11年前の販売を覚えていたので、今回はどのように売るのか楽しみにしていたら、通常版にふたを別添する形で販売した。つまり、ふたを270円で買ったようなもの。同月の阪神百貨店の駅弁大会でも販売した。
以後は弁当としての、ふた付きひっぱりだこ飯は売られていない。2021(令和3)年1月には、タコの胴のつまみを大きくする改良を施したふたのみを440円で発売。3500個が4日で売り切れ、以後も入荷のそばから完売する人気で、新聞やネットで話題になった。
※2021年3月補訂:後日談を追記2008(平成20)年2月3日から8日まで、仙台の藤崎本店で開催された駅弁催事「全国駅弁大会とうまいもの市」で、実演販売されたお弁当。通常版のひっぱりだこ飯とともに、今回の催事でのオリジナル商品として、フタも陶製にしたバージョンが売られていた。中身は通常版とまったく同じ。フタは後からこしらえたとは思えないほど、本体の壷に自然な感じで組み合わさる。これが駅弁として販売されていれば疑義駅弁だが、ここではチラシでも実演ブースでもオリジナルと明記していた。現地にあっても、おかしくないような。