東京駅から電車で約45分。大船駅のある鎌倉市は、神奈川県の東部で相模湾に面した、人口約17万人の古都。13世紀に幕府と呼ばれる武家政権がここを拠点とし、農漁村に戻るも明治時代に別荘地や観光地として再興、文人や要人が好んで住んだり訪れた。東海道本線が横須賀線を分岐する大船駅では、1898(明治31)年から大船軒が駅弁を販売、鎌倉の文人や駅前の映画撮影所の関係者に親しまれた。1888(明治21)年11月1日開業、神奈川県鎌倉市大船1丁目。
大船軒と鎌倉女子大学家政学部家政保健学科の「調理と食文化ゼミナール(高橋ひとみゼミナール)」に所属する学生とのコラボ駅弁第15弾として、2023(令和5)年11月3日に大船、東京、新宿、上野、大宮の各駅で発売。120年以上大船駅の駅弁屋であった大船軒と大船との関係は、2023年4月のJR東日本クロスステーションへの吸収合併と6月の調製所の埼玉県戸田への統合で名実とも完全に切れたが、2012年7月から続くこのコラボは同じ名前で継続された。
駅弁の名前は、鎌倉女子大学と大船軒の「縁」、大船の「船」、大船と周辺地域をイメージした食材や料理を盛り込んだ大船駅「沿線」地域の意味と語呂がかけられた。掛紙の裏面で解説される中身は、太巻きが「けんちん巻き」、細巻き2個が「はりはり巻き」、鯵の押寿し1個、梅風味の稲荷寿し、鎌倉ハムとキャベツの炒め物、牛鍋風煮物、かぼちゃ餡白玉団子。今まで大船駅弁を約200個食べてきたので、内容の過半に大船軒の駅弁を感じたところ。東京の大企業と埼玉の大規模食品工場に大船の120年が、この時点では引き継がれたのかもしれない。
大船軒と高橋ひとみゼミとのコラボ駅弁の販売履歴は下記のとおり。駅弁売店でなく女子大の学園祭「みどり祭」で売られた弁当もある模様。
2021(令和3)年10月に大船駅などで「おてがる幕の内弁当」とともに発売。長方形の容器を4区画に仕切り、牛バラ肉と玉ねぎの甘辛煮と白飯、しらす胡麻油炒めと白飯、だいこんやタケノコなどの煮物と肉団子、紅白のかまぼこと玉子焼にポテトサラダときんぴらごぼうと抹茶わらび餅を詰める。牛肉弁当でもしらす弁当でもない、幕の内タイプのお弁当。JR東日本の方針でこの年の3月に寿司以外の駅弁が全滅した大船駅に、なぜか再びこのような駅弁が戻ってきた。価格は2022年の購入時で800円、6月から820円。大船の調製所の閉鎖により、2023年5月限りで終売。
※2023年11月補訂:終売を追記2020(令和2)年の発売かどうか。駅弁屋を名乗るので何らかの特徴があるかと思ったが、名前に違い普通のお惣菜。大船駅弁の鯵でもハムでもなく、かんぴょう、かにかま、しいたけ、玉子焼などを酢飯と海苔で巻く、ごく普通の太巻きだった。2022年に終売か。
※2023年11月補訂:終売を追記2022(令和4)年1月から3月までのJR東日本横浜支社の観光キャンペーン「伊豆・箱根・湯河原 湯どき花どきキャンペーン」の開催に合わせて、大船駅や小田原駅などで販売。月替わりで掛紙を変えて販売したようで、開催終了後の4月以降も販売が続いた。中身は菜飯ご飯を桜花塩漬とタケノコ煮で彩り、アジのマリネ、キャベツとちくわのわさびマヨネーズ和え、きんぴらごぼう、紅白のかまぼこと玉子焼、サワラ西京焼、牛肉の甘辛煮、煮物と漬物を少々、明太子ポテトサラダ、団子など。コンパクトな春のお弁当。夏までには終売か。
※2023年4月補訂:終売を追記2022(令和4)年3月3日に購入した、大船駅弁の掛紙。3月の掛紙は、写真や地色で黄色い菜の花を使い、また1月から3月までのものは観光キャンペーンのロゴマークを使用した。中身や価格は、上記の4月のものと同じ。
2021(令和3)年6月1日に発売。前年の2020(令和2)年の秋から翌年3月まで東京都内で売られたおつまみ駅弁「湘南チョイス」の、名前とふたの絵柄を使い、押し寿司と稲荷寿司を加えて一食分とし、価格を350円上げて大船駅の駅弁にした。東京都内でも引き続き売られ、10月のJR東日本の駅弁キャンペーン「駅弁味の陣2021」にエントリー。
中身は掛紙に写真と文字で記されるとおり、サバとアナゴとサーモンで押寿し3種、昆布生姜がり、黒糖と柚子と抹茶でいなり寿し3種、玉子焼、黒はんぺん煮、アイガモスモーク、明太ポテトサラダ、しらすごま油炒め、鯵マリネ、三崎鮪角煮など。前作から維持された「つまんでよし、食べてよし」のキャッチフレーズをいよいよ体現した、腹を満たせるおつまみ駅弁。半年ほどで終売か。
※2023年4月補訂:終売を追記2013(平成25)年の6月までに発売か。松花堂弁当タイプの容器に、掛紙に書かれるとおり、アジフライ、ひじき煮、チャーシュー、鴨胸肉スモーク、かまぼこ、スモークチーズ、野菜の煮物、ポテトサラダ、玉子焼き、中巻き、細巻き、押寿し2種(サーモントラウトとしらす入り)と鯵の押寿し他が入る。
おつまみの駅弁を思わせる名前であり、掛紙にも駅弁の名前より目立つ「つまんでよし、食べてよし」のフレーズがあるが、中身のほぼ半分が御飯、ほぼ半分が煮物と揚げ物なので、実は普通のお弁当。品数の多さは確かであり、その点では酒のつまみに向いている。値段は張るが、大船駅の幕の内駅弁より具材が豊富である。価格は2013年の購入時で1,000円、2014年時点で1,050円、2018年時点で1,100円。JR東日本グループ会社の事業再編という不思議な理由により、2021年3月限りで終売。
※2021年3月補訂:終売を追記上記の駅弁「つまんでよし、食べてよし 酒肴弁当」の、2017(平成29)年の春時点での姿。掛紙が桜花模様ピンク色に変わっていたので、リニューアルか季節商品になったかと思い買ってみたら、中身は何も変わっていなかった。
JRグループの観光キャンペーン「静岡デスティネーションキャンペーン」の開催に合わせ、会期中の2019(平成31)年4月1日から6月30日まで東京都内などで販売。神奈川県や大船駅でなぜ静岡かと思うが、JR東日本の子会社の日本レストランエンタプライズ(NRE)の、さらに子会社の大船軒に東京エリア駅弁の担当が回ってきたのだろう。
9区画に日の丸、おかか、黒米の酢飯で3種の御飯と、あしたか牛メンチカツ、マグロの揚げ煮、メヒカリの洋風マリネ、シイタケと切り昆布の煮物、玉子焼と黒はんぺんとわさび漬、ぐり茶の羊羹などのおかずを詰めた、見た目が少しきれいな、なんでもまるごと駅弁。
2018(平成30)年7月7日から16日まで東京駅の駅弁売店「駅弁屋 祭」で実施された「夏の新作駅弁フェア」への出品作。調製元の創業120周年を記念して、この月に発売したらしい。掛紙のデザインもよく見ると記念っぽいが、あまり前面に打ち出すことなく、駅弁の名前とおしながき、相模の鳥瞰図を掲載する。
中身は下段に海の幸のちらし寿し、上段の6区画に三崎マグロとナストマト煮、煮物5種、やまゆり牛とゴボウ煮、三浦ひじき煮、湘南しらす炒め、甘味というおつまみ。エビやマスやサバやイクラや小鯛やかんぴょうなどのちらし寿司は、飯も具も酸味や甘味が絶妙で、これだけいつまでも食べていたい味で、ここの普段の駅弁の強い酸味がウソのような、おかず要らずの飯。ひと昔前のあじさいちらしずしを思い起こす。半年間ほどの販売か。
※2020年4月補訂:終売を追記2018(平成30)年に2回あった土用の丑の日の1回目に、東京駅の駅弁売店「駅弁屋 祭」で実施された「土用丑の日 うなぎ駅弁大会」で買えた弁当。調製元が大船駅の駅弁屋なのでここに収蔵したが、大船駅では売られたのだろうか。もっとも、ウナギの駅弁が各地で一般的に売られていた昭和時代には、大船駅にもうなぎ弁当の駅弁があった。
他の大船駅弁でも時々使われる樽形の容器に、白飯を敷き、ウナギ蒲焼きを載せ、タレと奈良漬を添える、シンプルな鰻丼。食品表示で鹿児島産と記載されたウナギは、皮にも身にも強い弾力感。箸で持ち上げても真っ直ぐのままで、箸や歯で切れないほどの固さ。いったいどうしたらこうなるものか。この時だけの販売か。
※2020年5月補訂:終売を追記2017(平成29)年の5月頃の発売か。葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」を思わせる絵柄の掛紙で、ひげのおじさんがサーフィンをしている。中身は幕の内弁当タイプの海苔弁で、白御飯に鶏そぼろと葉とうがらしを挟み、海苔で覆ってシラスをかけ、焼鮭、かまぼこ、玉子焼、シイタケやタケノコなどの煮物、桜つぼ漬を添える。安めでB級の味。「諸般の事情により9月17日(月)をもって製造販売を中止」とのことで、一年半ほどで終売。
※2018年10月補訂:終売を追記2015(平成27)年3月13日の発売。その名のとおり、そして掛紙に書かれるとおり、梅御飯の二辺を固める各種のおかずに、小田原かまぼこ、湘南しらす、大山豆腐と牛肉などのうま煮、やまゆりポークとダイコンの味噌あんかけ、三浦のひじき、鎌倉腰越地だこ入り薩摩揚と野菜のソース和え、鎌倉ハムのゼリーよせ、鯵の押寿しなど、神奈川県のうち相模国のものをいろいろ詰める。
材料の価格を反映したのか、、高級感がないのに価格がえらく張るのが難点だが、国は違う(武蔵国)も県民の目で見れば、昔はともかく今は全国で5番目に狭い県土で、900万人を超える人口を支えるため多くが失われた農林水産品をネタに、よくぞここまで作れたなあという感じで、行政サイドに評価されそうな商品だと思う。味も比較的自然。2016年までの販売か。
※2019年8月補訂:終売を追記2011(平成23)年の秋までに、東京駅または小田原駅の日本レストランエンタプライズ(NRE)の駅弁売店で発売した模様だが、調製元は大船駅弁の大船軒であり、「湘南鎌倉」の文字も見えるので、ここに収蔵。酒匂川を描く歌川広重「東海道五十三次」小田原宿の浮世絵を印刷した掛紙を使う。黒い容器の中身は、白御飯をシラスと錦糸卵とマグロそぼろで覆い、牛肉や有頭海老やホタテの煮物、キンメダイ焼、ニンジンやタケノコなどの煮物、かまぼこ、玉子焼、蒸し鶏、つぼ漬とヒョウタン漬を添える。小粒ながらおいしそうな食材が、密に詰まっていた。この駅弁は2013(平成25)年には、なんと小田原の駅弁としてJR東日本「駅弁味の陣2013」にエントリーされた。価格は2014年の購入時で1,100円、2015年時点で1,250円。2018年までの販売か。
※2019年8月補訂:終売を追記上記の駅弁「さがみ弁当」の、2012(平成24)年の秋時点での姿。掛紙に妙な記号「13-09-SS」がなく、中身は季節の炊込飯、野菜の煮物、かまぼこ、玉子焼、牛しぐれ煮、ホタテ煮、鶏西京焼、キンメダイ幽庵焼、有頭海老、ひょうたん漬などで、価格は1,050円であった。
※2017年7月補訂:新版の収蔵で解説文を改訂鎌倉女子大学家政学部家政保健学科高橋ゼミと大船軒との共同開発により、2012(平成24)年7月1日から31日まで販売された期間限定駅弁。掛紙に「コラボ弁当第1弾」と書かれるとおり、9月と11月にも他の弁当が出てくるのだという。
大船駅の季節の駅弁と同じ、内部を菱形に仕切った発泡材正方形の容器を使用、透明なふたをして、紙帯をその右側だけに巻くことで、中身が半分だけ見えるようになっている。中身は酢飯を錦糸卵で覆いレンコンときぬさやで彩った「華ちらし寿し」を中央に置き、その周囲を鶏唐揚甘酢あんかけ、小鯵香草焼、カボチャやキュウリなどの野菜とカップ入りソースで「鎌倉地野菜のディップソース添え」、抹茶ケーキと梅ゼリーなど。
容器や価格や売り場も含めて、いつもの夏の季節駅弁のように見えて、個々の食材や調理について、駅弁でも惣菜でもないおしとやかさがあるような気がした。
「湘南ツイン弁当」「湘南玉手箱」に続く、漫画アクションの連載作品「駅弁ひとり旅」とのタイアップ駅弁のおそらく第3弾として、2010(平成22)年10月に発売。大きく平たい正方形の専用紙箱には、駅舎と洋食屋と漫画の主人公という、この駅弁のコンセプトが描かれる。
中身はチキンライスに「玉子トロトロのオムレツ」が載り、ハムカツ、ハンバーグ、ポテトサラダ、ガーリックパスタ、ブロッコリー、ニンジン、パプリカ、福神漬。オムレツこそ、駅弁の名前や新横浜駅弁とは異なり固結していたが、内容と見栄えと味で和風洋食のいい所を突いた楽しい駅弁。2012年度中に販売終了の模様。
※2015年2月補訂:終売を追記2005(平成17)年11月に発売。前月までの3か月間で消えた不評の駅弁「三陸産いか寿し」の、酢飯をちまき御飯に入れ替えて、容器をプラ製惣菜用に格下げし、掛紙を単色ながら思い切りが良すぎる図柄に変えている。イカの不味さは相変わらずだが、ちまき御飯が美味いので、その部分まで食べ進めば良い風味を感じる。
2002(平成14)年10月の発売。発売開始直後は「鉄道開業130周年記念弁当」の名前で出ていたそうだが、ほどなくこの名称に変更された模様。掛紙に「鉄道開業記念」の文字と明治時代のSLのイラストも入る。
長方形の容器を使う。御飯の部分が二分割され、片方に高菜が、片方にシソがかかる。おかずは幕の内弁当と同じく焼鱒に玉子焼と煮物各種。内容かコンセプトにもう一押し欲しい気がしないでもない。ほどなく終売となった模様。
2007(平成19)年2月27日にコンビニ中堅のスリーエフとミニストップで発売した、大船駅の駅そば・うどんのカップ麺。粉末スープ、液体スープ、生タイプの麺、天ぷらを袋に詰めてカップ麺の容器に収める。粉末スープと麺をあけて、お湯を注いで3分待ち、液体スープと麺をあけて出来上がり。
日本一濃いとも紹介されるつゆの風味に深みがあり、天ぷらもカップ麺タイプですがサクサクしており大きさもある。大船駅の駅そば・うどんに対する思い出が何もなくても、単なるうまいカップ麺としていい感じ。思い出があればなおさらだろう。予定数終了により、数か月で消滅。
上記の商品「大船軒天ぷらそば」の、そばをうどんに変えたもので、この2種が同時に発売。味は個人的には、こちらがおすすめ。駅そば・うどんとしての大船軒の知名度は、この商品の販売エリアほどの広がりはないと思うので、売り方は難しいだろうし、実際に店内での目立ち度はいまいちだった。コンビニ商品は寿命が短く、予定数終了により数か月で消滅。
第二次大戦前の調製と思われる、昔の大船駅弁の掛紙。この桃太郎だんごが何なのか、製造元の美登利堂や販売店の市川喜一が何者なのか、手掛かりがないので分からない。1933(昭和8)年頃に鉄道弘済会が弁当類以外の販売の権利を構内営業者から取り上げる前のものと想像する。