新宿駅から中央本線の特急列車で約2時間。北杜市(ほくとし)は山梨県の北西端を占める、人口約4万人の市。甲斐駒ヶ岳や八ヶ岳や金峰山や茅ヶ岳に囲まれた高原に、農地が広がり、山や緑に観光客が来る。駅弁は大正時代から売られ、平成時代に売店へ「小淵沢駅の名物は駅弁です」と掲示するほどの名物となった。1894(明治27)年12月21日開業、山梨県北杜市小淵沢町。
テレビ番組の企画から誕生した駅弁の元祖。1985(昭和60)年10月27日正午の販売開始時には、駅に祝砲の花火が上がり、3千人のファンが列を作ったという。テレビ朝日の料理番組「愛川欽也の探検レストラン」で、番組司会の愛川欽也氏、映画監督の伊丹十三氏、料理評論家の山本益博氏、デザイナーの島崎信氏、駅弁に詳しい林順信氏の5名で企画を練り、ネーミングをコピーライターの岩永嘉弘氏が、掛紙の絵柄をイラストレーターの安西水丸氏が担当した。
経木折の中身は、下段が東京の料亭「吉左右(きっそう)」の作品で、栗とシメジの混ぜ御飯にワカサギや鶏やアスパラの唐揚げ。上段は京都の料亭「菊乃井」の作品で、炊き込み御飯に香の物類が並ぶ。たちまち小淵沢の名物となった駅弁のこの姿は、発売当時から変わらない。調製元は発売当時の製作過程ビデオを用いて、品質を保つという。同時に復刻販売が始まった汽車土瓶も、価格を上げながら販売を続ける。
2005年6月時点で多い日には一日で約500個が売れるという。価格は発売時から長らく1,300円であったが、2014年に1,500円へ値上げ、2017年時点で1,600円、2020年8月19日から1,780円。
※2020年12月補訂:値上げを追記2015(平成27)年4月17日に購入した、小淵沢駅弁の掛紙。価格の表記が掛紙そのものから消えた。それ以外は昔と変わらない。
2014(平成26)年8月2日に購入した、小淵沢駅弁の掛紙。絵柄も中身も、昔も今も変わらないが、値段を1,300円から1,500円に上げたため、掛紙の価格表記を白いシールで隠している。
2001(平成13)年11月24日に購入した、小淵沢駅弁の掛紙。おそらくこの駅弁の誕生の経緯により、絵柄は発売時から現在まで同じである。調製元所在地、食品表示、その他法令上の標記が、時代により変わる。
1997(平成9)年9月6日8時の調製と思われる、昔の小淵沢駅弁の掛紙。絵柄が発売時から現在まで変わらない、おそらく変えられない「元気甲斐」の掛紙。調製印がラベルになり、権現岳などの山の名前を隠してしまった。そこ以外に余白のない絵柄なので、食品表示は山の上になんとか収めた感じ。
秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2023(令和5)年秋の新商品。既存の小淵沢駅弁「そば屋の天むす」「八ヶ岳高原たまごサンド」「甲州かつサンドとり」の組合せ。実在する天むすの袋と実在しない親子サンドの柄を持つスリーブに、天むす3個を収めた白いプラ容器と、鶏カツサンドとたまごサンドを2切れずつ収めた黒いプラ容器を、重ねてはめる。軽食の分量で3種の駅弁を楽しめるまとめ売り。駅で売られるかどうかは不明。
2022(令和4)年1月の京王百貨店と阪神百貨店の駅弁大会で実演販売。下記の人気商品「そば屋の天むす」の袋に「やき」を加えた絵柄の掛紙を使う。容器に笹の葉を敷き、海老天を詰めた球形の焼きおにぎりを6個詰め、子持ちきくらげとかつおぶしで覆い、漬物を添える。まるでたこ焼きを食べるように天むすをいただく背徳感。ファストフードかジャンクフードな駅弁の新顔として面白い存在だと思う。
2013(平成25)年12月の発売。キクラゲの混ぜ御飯で小さなエビ天を巻く、ピンポン球くらいの大きさのミニおむすび5個とタクアンを、竹皮に包んで、紙袋に詰める。調製元は小淵沢駅の駅弁屋であるが、同時に駅そば屋や立ち食いそば屋でもあるため、この商品名で合っている。
駅売りの天むすは、名古屋のものに一日の長があり、そちらはエビ天が顔を出していて見栄えがする。こちらは味とつくりで名を広め、今は東京駅の人気商品だったり、駅弁催事に出てきたりする。袋の色はこの朱色を基本に、催事版や記念版では黒くなることがあるが、中身や味が変わるものではない。価格は2022年4月の購入時で750円、6月から780円。
※2022年7月補訂:写真を更新2023(令和5)年4月に東京駅で発見。小淵沢駅の駅弁「そば屋の天むす」の2個入り版。赤い絵柄はそのままに、プラ製になった小袋に、丸い天むすを2個、透明なプラ製トレーに収めて詰める。中身は5個入りと同じでも、中身が潰れないので、味が整うように思える。
2020(令和2)年11月2日に購入した、小淵沢駅弁の袋。中身や風味や値段は、普段の小淵沢駅弁「そば屋の天むす」と同じで、下記や上記のものと同じ。2020(令和2)年4月からは「駅弁誕生135周年おにぎり弁当」の副題を付けて、黒い袋で売り出した。東京駅では一年間くらい、この袋だった模様。催事や現地では、普段の朱色の袋を使ったとみられる。
2016(平成28)年6月19日に購入した、小淵沢駅弁の紙袋。中身は上の2020年のものや、下の発売時の2014年のものと変わらない。袋の色や文字だけが異なるものである。
2014(平成26)年8月9日に購入した、小淵沢駅弁の包装紙。中身は上記の2016年のものと同じ。当時は包装が袋状でなく、薄い茶色の包装紙で包んでいた。
2018(平成30)年の夏に「信州味噌の西京焼き」の名前で発売か。2020年までにスリーブの絵柄を一新、容器や中身や値段を変えずに、名前が「信州味噌鰈(かれい)の西京焼き弁当」に変わった。中身は茶飯の半分を海苔とカレイ西京焼で覆い、残る半分を玉子焼、玉子焼、高菜、レンコンのきんぴら、ニンジンとシイタケの煮物、大根桜漬で覆う。味噌味の強さを感じさせない、あっさりとした白身魚。魚の小淵沢駅弁は、エンガワでないカレイの駅弁は、珍しいと思った。
※2021年2月補訂:名前と写真を更新2018(平成30)年8月1日に購入した、小淵沢駅弁のスリーブ。上記の駅弁「信州味噌鰈の西京焼き弁当」と同じものだが、絵柄に加えて駅弁の名前も異なるのは不思議。
2020(令和2)年10月の新作というが、2018(平成30)年や2019(令和元)年の同時期にも販売した模様。正方形の折箱を二段に重ね、下段に松茸御飯を、上段に鶏唐揚、サワラ西京焼、肉団子、玉子焼、煮物、すずらん餅のおかずを配置。小淵沢駅の名物駅弁「元気甲斐」を廉価に、安く、安っぽくしたような存在。掛紙は商品名と宣伝文とイラストを簡潔に配した、シンプルなもの。価格は2020年時点で1,150円、2023年時点で1,360円
※2023年11月補訂:写真を更新し値上げを追記2020(令和2)年10月10日に購入した、小淵沢駅弁の掛紙。上記の2023年のものと、掛紙の絵柄は同じだが、その形と向きが異なる。容器も同じ。中身も鶏唐揚とホタテフライの違いのみ。
秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2016(平成28)年秋の新商品か。鮮やかに黄色い袋に密封した、サンドイッチ向けプラ容器に、甘くふんわり厚く焼き上げた玉子焼のサンドイッチを3切れ詰める。発売時の最近数年で、大阪や東京から流行が全国に広がった、たまごサンド、玉子焼サンドの一種。価格は2017年の購入時で680円、2020年時点で720円、同年9月から750円、2022年6月から780円。
※2023年3月補訂:写真を更新2017(平成29)年9月18日に購入した、小淵沢駅弁の箱。この駅弁の発売時はこのように、他の小淵沢駅のサンド駅弁と同じく、紙箱を使っていた。中身も少し異なり、甘い玉子焼が5層のミルフィーユ。まるでチーズ入りのような、てかりと粘りがあった。
2023(令和5)年1−2月の鶴屋百貨店の駅弁大会で実演販売。掛紙に書くとおり60回記念鶴屋限定、鶴屋百貨店の駅弁大会「全国有名駅弁当とうまいもの大会」の開催60回を記念し、この駅弁大会限定で売られた商品。上記の小淵沢駅弁「八ヶ岳高原たまごサンド」について、箱を用意して掛紙を刷り、パンには黒たまねぎパンを使用、まるでムースのような厚焼き玉子をこれで挟み、4切れを詰めた。
今回の鶴屋では、小淵沢駅の駅弁屋の商品としてサンドイッチばかりを販売。10年くらい前とは違い、大阪や東京で流行の新商品という売り文句がなくなり、客を呼んでいる感じはしなかったが、このような駅弁が小淵沢や山梨にあることを、九州でアピールできただろうか。
2018(平成30)年1月の阪神百貨店の駅弁大会での実演販売でデビューか。2016(平成28)年秋の新商品である「八ヶ岳高原たまごサンド」の高級高額版なのだろう、パンより具のほうが大きい、分厚い玉子焼サンドを4切れ箱詰めし、商品名を書いた掛紙を巻く。そんな内容は、最近流行の甘い玉子焼サンド。味は甘口が2切れとだし巻きが2切れで、見た目と味を変えたようだが、いずれも最近の甘さ控えめケーキ程度に強い甘さに埋もれ、その差が分からなかった。この駅弁大会以外では、ほぼ売られなかった模様。
※2020年12月補訂:終売を追記2020(令和2)年1月の京王百貨店の駅弁大会で実演販売。2年前の「八ヶ岳高原たまごサンドプレミアム」に「2020」を付けて、分厚く重ねた玉子焼を挟むパンをオニオンブレッドに替えた。値段は高価なままで、催事場ではそんなに売れていないように見えた。これもやはり、事実上の駅弁大会専用商品だった模様。
※2020年12月補訂:終売を追記2018(平成30)年秋の新作か。竹皮柄の市販紙箱に、型押しの鶏飯おむすび2個と玉子焼1本と紅生姜のみを詰める。この内容は「八ヶ岳名物」でもなんでもないと思うが、幕の内駅弁向けなら20枚は取れそうな玉子焼の大きさが印象的。一年半ほどの販売か。
※2021年3月補訂:終売を追記1988(昭和63)年のNHK大河ドラマ「武田信玄」放送にちなみ、同年に発売。調製元の公式サイトでは2005年4月10日発売としている。写真のものは2006年4月のリニューアル品だが、2007年のNHK大河ドラマは「風林火山」なので、これを意識したものか。大きく真っ黒な容器を、武田菱を柄とする赤い掛紙で包む。発売箇所によってはこれに同柄の専用紙袋も付く模様。
武田菱状に仕切られた中身は、その外側に「風の信玄笹寿司」ことアワビ煮貝添え笹寿司、「林の里村炊き込み御飯」ことアワビとシメジの炊込飯、「火の甲州鉄火味噌おにぎり」こと鉄火味噌載り笹御飯、「山の栗おこわ」こと山栗おこわ、内側に「甲斐の味あわせ」として牛肉巻、玉子焼、紅鱒西京焼、ほうとう揚げ、かぼちゃ茶巾揚げ、アンズのシロップ漬など。値段は高いがどこまでも本格派、思い出作りの旅にはとてもふさわしい昼食になると思う。価格は購入時で1,200円、2014年時点で1,350円。常にある駅弁でなく、断続的あるいは間欠的に発売された。2014年までの販売か。
風林火山の「疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山」(疾(はや)きこと風の如(ごと)く、徐(しず)かなること林の如く、侵(おか)し掠(かす)めること火の如く、動かざること山の如し)は、武田信玄の創作ではなく孫子の句の部分引用で、しかも軍旗には四字熟語ではなく14字の漢文で記される。しかし後の歴史書や歴史小説などにより甲斐の国と武田信玄のキーワードとして定着し、これが駅弁や観光資源になっている。
※2020年5月補訂:終売を追記JR東日本の駅弁キャンペーン「駅弁味の陣2016」へのエントリーに合わせて、2016(平成28)年10月に発売か。現物に駅弁の名前が書かれていないが、食品表示ラベルでは「おやき三昧」、キャンペーンでは茅野駅弁「信州名物 おやき三昧」とある。おやきの写真と断面と中身をデザインした、正三角形のボール紙製容器に、ラップに包まれた「なす」「野沢菜」「キンピラ」のおやきを各1個収める。味もそのもの。おやきは信州であれば、どこでも温かいものが買えると思うので、これは東京駅その他の県外で売られるのが正しい姿に思えた。キャンペーン期間をもって売り止めた模様。
※2019年8月補訂:終売を追記2015(平成27)年1月の京王百貨店の駅弁大会で販売。ダルマ型かヒョウタン型に見える黒いプラスティックの容器に、天狗の顔のパッケージを被せる。中身は食材の配置で天狗を模しており、白御飯の上に目のシイタケ、鼻のエビフライ、眉の花レンコン、髭のワラビやゼンマイやヒメタケ、髪の牛肉煮、他にクリ、玉子焼、大根漬け。具は見栄えのみで選んだと思われるので、当然に内容と風味が散漫になる。食べるのではなく見る弁当。
京王百貨店の駅弁大会で、百貨店の親会社の京王電鉄の沿線最大の観光地が高尾山ということで、こんな商品を作ってみたかったのではないかと想像する。調製元は東京駅弁の日本レストランエンタプライズ(NRE)などではなく、遠く小淵沢。中央本線の東京や新宿と小淵沢との間の駅弁屋がすべて消えた現状に鑑みると、中身を食べても悪くないものにして、行楽期の八王子駅や高尾駅で売り、話題にできないものかと思う。今のところ、京王百貨店駅弁大会以外で売られたことがない商品である模様。翌2016年にも出てきた。2017年以降は来ていない。
※2019年8月補訂:終売を追記小淵沢駅の駅舎にて、駅弁屋が営業する立ち食いそば店で、売られるおにぎりのひとつ。商品名のとおり、御飯にさけフレークを混ぜた三角おむすびが1個、海苔を挟むフィルムに包まれる。コンビニ風おにぎりと同じように見えて、開いてめくって海苔に飯を置く、コンビニでは昭和の頃になくなったタイプの、昔懐かしいフィルム包装だった。ここの立ち食いそば店は、一日中賑わっているように見える。
2015(平成27)年4月10日から12日まで東京駅の駅弁売店「駅弁屋 祭」「駅弁屋 踊」で開催された「4月10日は駅弁の日 駅弁誕生130周年記念駅弁大会」で販売された記念駅弁。日本鉄道構内営業中央会がこの年の4月10日の「駅弁の日」を、駅弁発祥宇都宮駅説により1885(明治18)年から数えて130周年として祝っており、その施策の一環だとも思われる。公式発表や収穫報告はないが、その翌週の小淵沢駅でも販売されていた。翌5月頃までの販売か。
小淵沢の古い鳥瞰図を掛紙に使用、二段重ねの容器の中身は、下段がキクラゲ入りの白飯と黒米混じり飯のおむすびが2個ずつと赤かぶ漬、上段がおかずでサケ西京焼、玉子焼、鶏唐揚、かまぼこ、ニンジンや高野豆腐などの煮物、すずらん餅など。つまりだいたい幕の内駅弁であるが、最近話題の「おにぎらず」でふんわりと飯を詰めた点が目新しい。食品表示ラベルにも「お握らず」とあった。
その「おにぎらず」とは、スーパーなどで買える「全形」サイズ(約21cm×約19cm)の海苔1枚の上に、温かい御飯(茶碗1杯分とされる)を薄く広げ、好みで具も添えたり混ぜ、海苔の四隅で閉じて作る、握らずにできる四角いおむすび。週刊のマンガ雑誌「モーニング」で連載される、うえやまとち氏の料理マンガ「クッキングパパ」で、1990(平成2)年に掲載され翌年に単行本化された回「COOK.213『超簡単おにぎり おにぎらず』」の内容が、四半世紀の時を経て2014年の秋にインターネット上で話題になり、急速に普及した。駅弁で見たのは、これが初めて。
昭和50年代に売られた、当時の小淵沢駅の名物駅弁。ワラビ、タケノコ、山ごぼう、シイタケ、赤カブ、クリなどを使う山菜おこわ、現役当時の表現では野菜の炊込飯が、竹皮に包まれ、八ヶ岳とかかしを描いたボール紙のパッケージに収まる。地元の農家が豊年万作を祈る祭の際に作った弁当をイメージしたそうな。今回は2014(平成26)年12月にのみ、東京駅の駅弁売店「駅弁屋 祭」で売られた模様。2022年の10月から11月までは、日本鉄道構内営業中央会の鉄道開業150年記念復刻駅弁企画により、同月から期間限定で販売された31社34駅弁のひとつとして、小淵沢駅で再販された。
※2023年4月補訂:再販を追記2014(平成26)年7月に復刻販売。かつて小淵沢駅や富士見駅で売られた鉄道銘菓。つぶあんを薄い求肥に包んだ餅が6個、プラ製トレーに収められて密封パックし、竹皮に包み、昔の絵柄を印刷した掛紙を巻いていた。今は売られていないものを作るため、ご当地を偽装する全国各地の土産物と同じような、製造委託記号とフリーダイヤルの組合せは仕方がなくても、あんこと皮がスカスカに分離した中身で、これにはげんなり。せっかくのメモリアルなのに、話題にも挙がらないようで残念。1年間ほどの販売か。
調製元の丸政は、1928(大正7)年9月に現在の中央本線富士見駅で開業。富士見駅は中央本線で最高所にある駅であり、当時は汽車が給水で一服し、すずらん餅が立ち売りされた。しかし給水の廃止で列車の停車時間が短くなったため、小海線の分岐駅となった小淵沢駅に、1929(昭和4)年6月に移転したという。つまりこのすずらん餅は、峠の力餅のようなものであった。今も富士見駅には丸政の立ち食いそば店がある。
第二次大戦前のものと思われる、昔の小淵沢駅弁の掛紙。上記の復刻商品「寿ずらん餅」の、現役当時のもの。現在のJR小海線が全通し「小海線」の名が付いた、1935(昭和10)年11月以降のものだろう。当時もこの旧国鉄で最高所を走る路線が「高原鉄道」とみなされたことがうかがえる。八ヶ嶺乃裾よりスゞラン薫りける、のだそうな。調製印を押す欄をスズラン型にしたのに、調製印は全然違う場所に押された。
2010(平成22)年10月から12月までのJRグループ「信州デスティネーションキャンペーン」や、この秋冬の駅弁大会シーズンに向けた投入か。真円形の容器に透明なふたをして、長野県と山並みと中身のイラストを描いたボール紙の枠にはめる。中身はパッケージに書かれるとおり、マスと野沢菜の巻寿司にクルミ味噌に大学芋、ウナギ飯にソースカツに凍豆腐、からしいなりに鶏山賊焼にニンジン、栗山菜おこわにそばかき揚げに舞茸煮。
パッケージの底面に書かれるとおり、中身はそれぞれ、東信、南信、中信、北信をイメージした模様。1,200円で12品目を欲張り過ぎたためか、「栗山菜おこわ」に山菜はシメジ1本だけだとか、「うなぎまぜ御飯」にウナギは小片が載るだけで混ざってないとか、文句を探せば挙げられるが、分量豊富で賑やかな記念弁当。
2009(平成21)年1月の発売は、同年同月の京王百貨店駅弁大会に向けた投入か。土鍋型のプラ製トレーに凸状の透明なふたをかぶせ、駅弁の名前に山梨名物ほうとう鍋の写真を掲載したボール紙の箱に詰める。中身は平たい麺の上にカボチャ、サトイモ、ゴボウ、シメジを載せて豚肉を沈めて味噌汁に漬けたもの。煮込みのどろっとした感じの薄い、カボチャと麺がたっぷりの、すっきりした鍋うどん。2014年時点で現存しない模様。
発売と消滅を繰り返す、山梨県内のほうとう駅弁。今回はコンビニでおなじみの汁物固結技術を利用してきた。汁物を弁当や惣菜として販売するために、スープをゼラチンでゲル状に固め、これを電子レンジでの加熱により溶かして消費するもの。これに対応して、お湯を足すな、火にかけるな等の注意書きが紙片で添えられる。ゼラチンは味に影響せず、溶けたゼラチンは冷めても固まらないとされるが、この駅弁は冷めるにつれて汁が再固結し始めた点が気になった。
※2014年7月補訂:終売を追記細長い長方形の容器に、割り箸とマスの押寿司を詰め、ふたをして掛紙で巻いてセロテープで留める。見た目どおり淡泊な味。白く透き通るマスの身に載せた白昆布と、中に挟んだシソの葉が、風味を出さずにクセを消す役割を果たすか。駄洒落系でも元気甲斐と同様、商品そのものに実力がある。2014年時点で現存しない模様。
シナノユキマスは、長野県が1975(昭和50)年に当時のチェコスロバキアから導入し、佐久の水産試験場で9年かけて養殖技術を確立した、東欧原産のサケ科の湖沼性淡水魚。1983(昭和58)年に当時の吉村午良長野県知事が命名したという。飼育が難しく佐久地方以外に広まらないためか、知名度がなかなか上がらない。それでも県境を越えて山梨県の駅弁屋が、こうして駅弁に使用した。
※2014年7月補訂:終売を追記1969(昭和44)年3月2日10時の調製と思われる、昔の小淵沢駅弁の掛紙。八ヶ岳を描くのは小淵沢駅弁ならではで、加えて小海線をイメージしたような牧場と列車も描く。調製元表記の所にも「小海線乗換駅」と記す。
1950年代、昭和30年前後のものと思われる、昔の小淵沢駅弁の掛紙。小淵沢駅が八ヶ岳のふもとにあることと、助六寿司が歌舞伎の演目にちなむことは変わらないが、台本に描いた駅弁屋の取扱商品は、今とはだいぶ違う。