JR九州が実施する「九州駅弁グランプリ」は、前年まで7年間で7回実施された「「九州の駅弁」ランキング」をリニューアルする形で、2011(平成23)年10月1日から12月31日までの期間に下記の50駅弁を対象とするアンケート(人気投票)、これを九州7県別に集計して全10種類(各県1〜3種類)に絞り込むために2012年1月下旬に実施する「予選投票会」、2月11日にJR博多シティで一般客を対象に実施する「九州駅弁グランプリ投票会」、2月下旬に著名人や記者クラブを対象に実施する「九州駅弁グランプリ投票会」を経て、最終順位を決定するものです。
また、2011年10月1日から2012年1月31日までの期間、対象駅弁のうち38品目から毎日12〜13種類、一日150〜220個を販売する博多駅特設売店「九州駅弁スタジアム」も併せて実施します。
2012年1月27日にJR九州本社で行われた福岡県予選投票会の結果は次のとおり。エントリーの12種類について、タレントの磯田久美子氏、タレントの寿一実氏、料理人の沖克洋氏、JR九州の古宮営業部長の特別審査員4名と、報道関係各社の一般審査員6名による投票で決めたそうです。
1月31日にJR九州長崎支社で行われた佐賀・長崎県予選投票会の結果は次のとおり。エントリーの11種類から棄権の長崎県・長崎本線長崎駅「雲仙きのこワッパ飯」を除いた10種類について、インターネットとはがきで一般から募った投票結果と合わせ、NHK長崎放送局の合田敏行氏、さかもとの坂本洋司氏、福砂屋の殿村周三氏、四海楼の陳優継氏、NBC長崎放送の友成由紀氏、NIB長崎国際テレビの佐藤肖嗣氏、NCC長崎文化放送の眞方富美子氏、KTNテレビ長崎の大村咲子氏、JR九州の江越善一郎長崎支社長、他JR関係者3名で12名の特別審査員やゲスト審査員と、報道関係各社の一般審査員5名による投票で決めたそうです。
2月3日に行われた熊本県予選投票会の結果は次のとおり。エントリーの11種類について、テレビ熊本の長安智子アナウンサーなど熊本県内の各テレビ局の女性アナウンサー5名、JR九州の熊本支社長と熊本駅長の特別審査員7名と、報道関係各社の一般審査員4名による投票で決めたそうです。
2月6日に行われた大分・宮崎県予選投票会の結果は次のとおり。エントリーの各4種類について、大分放送の小野裕子アナウンサー、テレビ大分の野島亜樹アナウンサー、大分朝日放送の村島里佳アナウンサー、MRT宮崎放送の田代剛アナウンサー、2011みやざき花の女王の吉田真依子さんと染田麻弓子さん、JR九州の大分支社長と川原淳一宮崎総合鉄道事業部長の特別審査員8名と、報道関係各社の一般審査員4名による投票で決めたそうです。
2月7日に行われた鹿児島県予選投票会の結果は次のとおり。エントリーの8種類について、MBCタレントの柴さとみ氏、鹿児島ホンモノの食研究家の西ひろみ氏、薩摩美味維新実行委員会の橋本龍次郎氏、JR九州の宮崎正純鹿児島支社長と鹿児島中央駅長の特別審査員5名と、報道関係各社の一般審査員11名による投票と、アンケート(人気投票)2376票の投票結果で決めたそうです。
そして、2月24日に行われた最終投票会の結果を受けた最終順位は次のとおり。総数10,415通のアンケート結果などを受けて上記の予選投票会で絞り込まれた13種類を対象とした、2月11日に博多駅ビルで実施された一般参加の駅弁試食会「JR博多シティ投票会」約600名の投票(1名あたり3種を選択)と、5名の特別審査員(料理研究家の上村節子氏、駅弁愛好家の小林しのぶ氏、タレントのコンバット満氏、当館館長、唐池JR九州社長)と19名の一般審査員(報道関係各社)による投票(1名あたり1種を選択)で順位を付けました。新作の「佐賀牛すき焼き弁当」が1位を獲得しています。
今回は駅弁愛好家の肩書きで最終投票会における特別審査員という大役を仰せつかりました。上記の対象駅弁はプレスリリースの形で逐次JR九州公式サイトに掲載されたほか、新作と車内販売限定商品を除き、2005年「第2回九州の駅弁ランキング」などを通して食べた記憶や、過去に12駅すべてに下車した経験などを踏まえながら、1票をどこへ投じるか熟考したところです。
会場では試食サイズ、名刺大のプラ製の惣菜容器に駅弁の中身の概要を詰めたものを、1駅弁1山ずつ会議机に積んでいました。1食分の駅弁のエッセンスをこのサイズに凝縮する作業は、中身がシンプルな「かしわめし」や「有田焼カレー」を除き大変だったと思います。その容器について、「有田焼カレー」だけは通常版の陶器の形を模したプラ製カップを使っており、その存在をアピールしていました。本来は試食として、一口二口含んだら次の駅弁へ移るべきだったのでしょうが、食べ残しを罪悪視する性格上、ひとつずつ完食しながら慌しく進みました。
最終投票会での順位付けは、あらかじめ集計されていた「JR博多シティ投票会」での投票数に、当日の審査員の投票数を5倍して上乗せしたものを降順に並べる形で行われました。JR博多シティでの投票結果は味が重視されていたように感じ、当日の24名の票は各駅弁にまんべんなく入っていたことが印象的でした。
50駅弁のエントリーの時点で各調製元の代表作が揃っているうえ、アンケート結果と予選投票会という多くの目で絞り込まれた13作品には優劣など感じられません。どれがグランプリ(第1位)を獲得しても、納得のコメントを付けられたと思います。結果発表後に各特別審査員が順番に感想を発表。館長としては、各作品や駅弁そのものに対する様々な思いが交錯し、生来の口下手もあり、まとまりのない発言になったと思います。後悔先に立たず。
第1位の武雄温泉駅弁。この駅では2008年の連続立体交差事業による高架下店舗の誕生以来、非公式な駅弁の登場と消滅が何度か繰り返されたようで、2011年3月の訪問時には駅弁がありませんでした。国鉄時代から武雄温泉や嬉野温泉の玄関口であり、すべての特急列車が止まる主要駅ですが、それ以前に駅弁が存在したという話も聞いたことがありません。
そのような駅弁に厳しい駅で、過去の八代駅弁や有田駅弁と異なり百貨店での駅弁大会での人気や知名度の獲得を得ない形で、全国的にはありふれた牛丼形式の駅弁が、今回のグランプリを獲得しました。牛肉の駅弁は一般的に人気ですし、A5等級の佐賀牛を1,260円の駅弁で提供することが、一般参加の駅弁試食会で多くの感嘆を得たのでしょう。まさかこれで、駅で売れないから販売をやめましたとは言えないでしょうから、今後長く売られる駅弁に成長できるかどうか、これからが大変だと思います。
第2位の有田駅弁。このイベントでは過去に3年連続で「鮎屋三代」、その後に3年連続で「百年の旅物語かれい川」が1位を獲得していましたから、前回1位の「有田焼カレー」も今回と次回は当選確実だと思っていました。すでに人気と知名度を得て駅での販売も定着していますが、やはり有田駅も今世紀に入るまで駅弁がなかった駅ですから、やはり販売の継続を願いたいところです。なお、試食サイズのミニカップがとてもかわいらしかったので、あれを200円くらいで商品化できないだろうかと思いました。
第3位の博多駅弁。博多駅では明治時代からの駅弁屋が廃業し、駅弁の歴史がリセットされてしまいました。それ以前にこのイベントで3年連続で出品された作品さえないなど、定番の駅弁が育っていない駅です。九州で最も駅弁が売れるであろう駅にはぜひ定番が欲しいところであり、もし「いか三昧」がグランプリを獲得していれば興味深いものでした。しかし調製元はイカや海鮮で有名な呼子のレストランであり、つまり福岡県ではなく佐賀県です。つまり、今回のランキングは佐賀が三傑を独占したことになります。
第4位の折尾駅弁。1923(大正12)年生まれは最長老、その昔から変わらない味が今もこれだけの支持を得られる点は駅弁の鑑だと思います。かしわめしを売る駅弁屋は今世紀に入り次々に調製元ごと消滅し続けているところであり、折尾駅では今後長い間工事が続く予定ですが、伝統の味と駅弁が続くことを祈りたいと思います。第13位の折尾駅弁も同じ味ですが、通常の容器を排した試食サイズでの評価となると、こういう差が出てしまうのでしょう。
第5位の大分駅弁。見た目は米子駅弁のような最近流行?のサイコロ状ちらしずしで、しかし風味はずっと柔らかめで、具材の多種さと大分との結び付きも印象的。牛や鶏やサバの単体弁当では出せない美しさで、大分駅弁の幅を広げる作品です。もし主力の「豊後牛めし」が予選を勝ち残っていれば、武雄温泉駅弁と票を分け合っていたのではないかと思いますし、その点でも今回のシステム変更は最終結果へ大きな影響を与えていると思います。
第6位のあそぼーい弁当。こういう洋食弁当は好きですし、観光列車のコンセプトに合致した作り込みにも感心します。しかし駅売り弁当ではありませんし、四半世紀で4度も転用された流浪のキハ183系1000番台の廃車や転用とともに消えてしまいそうな点では、個人的には推しにくい弁当だと思いました。
第7位の西都城駅前弁当。新燃岳は関東地方での報道による印象で、灰を撒き散らす迷惑な山にしか見えないため、これをテーマに駅弁が開発され、支持を得て本選に登場した点が興味深く思えました。ミートパイを入れたり火山灰を焼いた小器を使ったり(試食サイズにも入っていた)、これも今までの駅弁にないアイデアが感じられます。
第8位の人吉駅弁。昭和の頃から人気でかつ姿を変えていない駅弁が、ちゃんと熊本県予選を勝ち上がってきたのは嬉しいところ。このイベントでも毎回順位が付き、しかし7〜12位の間に必ず収まるという点も、もはや流行に左右されない確固たる地位の現れだと思います。現時点で事実上、九州で唯一の立売人である菖蒲さんが自ら会場へ乗り込み、駅弁と人吉の良さをPRしていたと思います。
同票で第8位の嘉例川駅弁。前回初めて5位に落ち、今回はここまで順位が下落。これは人気が落ちたわけではなく、注目の新顔から定番の存在へと、その立ち位置が変化したためではないでしょうか。農林水産省ウェブサイト掲載のJR九州資料によると、同社取扱分だけで年間約6000個が売れているほか、週末には駅で50〜400個が出ているそうな。地域のシンボルとして今後も君臨していくでしょうし、そろそろ兄弟が欲しいとも思います。
第10位の長崎駅弁。常温でとろける角煮の味に対して好評が聞かれましたし、6年半前と変わらぬ美味でした。名称そのものには個性が薄い「角煮めし弁当」ではなく、掛紙記載どおり「坂本屋角煮めし」と名乗れば、長崎で名の知れた料亭と旅館のブランドとの相乗を期待できると思いますが、それができない理由が何かあるのでしょうか。
第11位の出水駅弁。新幹線で出水でも鹿児島中央でも黒豚の駅弁が花開く中で、今では鹿児島県内で最古の駅弁と思われるこちらが来たことが興味深く、やはり地元の評価では出水駅弁といえばこれなのでしょう。そんな奥ゆかしい味では牛肉やカレーやイカにランキングとしては対抗できないと思いますが、半世紀近い歴史がある点では負けません。これも人吉駅「栗めし」と同じく、このイベントで毎回順位を付けています。
第12位のSL人吉弁当。最終投票会では事実上最下位の評価となった理由はおそらく明白で、価格を加味しない評価であることと、SLとのセットで語らないと活きない内容であったことと、試食容器に詰めたため味気が失われたこと。日本最初の駅弁はこんな感じだったらしいよ、とか、九州で唯一となるSL列車とのセットで宣伝すれば、こうはならなかったはず。しかし駅売り弁当でないことと、あそぼーい!よりは可能性は低いと思いますがSL列車と運命をともにしてしまいそうな点は、懸念材料となります。
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